79話 遠い海へと
シウラン達は無事シャイン号に辿り着き、デーヴァと合流を果たした。
満身創痍のシウラン達はシャワーを浴びて、くたばるように船室のベッドで深い眠りにつく。
夜が明け、朝日が高くなる頃にシウランは眠りから覚めた。
シャイン号はすでに沖合まで航行しており、船内の操舵室に入ると、シャインを操作するデーヴァとその隣にはクロエが立っていた。
ネロやマリヌス達の姿はない。
シウランがクロエに呼びかける。
「他の連中はどうした?」
「もう甲板に出て、周囲を警戒してるわ。まぁもう安全な海域なんだけど。今からマーメイドを海に戻すところよ。貴方も見送ったら?」
「ありゃ? ルァも甲板か?」
「水着に着替えて、海面までマーメイドを送る予定よ。貴方も着替えてきたら?」
楽しそうな知らせにシウランの心は踊る。
船を操作するデーヴァに呼びかけた。
「デーヴァも着替えに行こうぜ! 人魚と海水浴だ!」
「すいませんが、停船させるまでここを離れるわけには……」
するとシャインの声が響き渡る。
「デーヴァ、ご安心を。自動航行システムに切り替えておきます。停船の合図をそこのレディに指示しただければ停船致しますよ」
シウランがデーヴァの手を取り、シャインに話しかける。
「相変わらず気が利く奴だぜ! 行くぞ! デーヴァ」
クロエは響き渡る謎の声に戸惑う。
「え? 何なの? この声?」
シウランがあっけらかんと答える。
「シャインだ。この船、喋るんだよ」
そう言い残すと、シウランはデーヴァを連れて、船室の奥に走り去っていく。
クロエは理解が追いつかず、呆然と操舵室で立ち尽くしていた。
シウランとデーヴァが水着に着替え、看板に出ると、同じく水着姿のルァがハッパを吸いながら寛いで待っていた。
船はすでに停船していた。
水魔法で作り上げた膜の中でマーメイドが嬉しそうな顔でシウラン達を見つめていた。
よく見ると、男性陣は普段着で水着姿なのは自分達と同じ女性であるエタールとマイヤである。
二人ともシウラン達と比べ、20代の大人の女性の魅力を肢体に放っており、水着もまるで下着のように際どい。
しかしシウランもデーヴァも二人に劣らぬ魅了をその豊満な胸に宿している。
それをわき目にルァは自身の貧相な身体つきに絶望を覚え、嫉妬の目で四人のグラマラスなボディに睨みつけていた。
そんなことは露知らず、シウランは無邪気にシャインに呼びかける。
「シャイン! ボートを出してくれ、マーメイドを海に帰すからよ」
シウランの呼びかけに応じるように、船尾からボートが現れ、海面へと落とされる。
マイヤとエタールは戸惑う。
「えっと、シウラン様? どうやって海に降りるんですか?」
シウランが水の膜で覆われたマーメイドを担ぎ上げると船尾まで走って行き、二人に呼びかける。
「早く来いよ、先に行ってるぜ!」
シウランは船から飛び降りた。
ザブン!
と景気の良い、海面に落ちる音が甲板に響き渡る。
シウランの突飛な行動にマイヤとエタールは顔を見合わせた。
ルァもデーヴァもやれやれといった顔をしながらシウランに続く。
「飛び降りると海面が痛いから嫌なのよね……」
「僕は鼻に海水が入るのが違和感を覚えます」
そう告げて、当たり前のように海面へと飛び込んでいく。
マイヤとエタールは高い船尾から海面に降りることに躊躇していると、背後から水着姿のクロエが現れる。
「二人ともこんなことでビクついてるから、肝心な時に遅れを取るのよ。若いんだから思い切りが大切よ!」
後ろからクロエに突き飛ばされた二人は悲鳴を上げながら海面へと着水する。
続いてクロエも海面へと飛び込む。
美しい美女達に囲まれながら、マーメイドは気持ち良く、待ち望んだ海原を優雅に泳いでいく。
救ってくれた少女達に感謝するように海の中で華麗に舞い、海中の中で踊るように泳ぐ。
少女達と、シウランと戯れながら可憐に海中で泳ぎ回り、名残り惜しそうな顔をしながら、海の故郷へと帰っていった。
誰も知らない遠い、遠い海の彼方へと。
しかし、シウラン達は気がついていなかった。
甲板からネロの姿が消えていることに。
ネロは姿をくらまし、すでに船から離脱し、ボンベイの港街へ足を運ばせていた。
本来の雇い主の元へとネロは帰還しようとしていたのだ。
キセルを吸いながら、皺が入った顔をから、ニイっと口角上げていた。
そして深く白煙を肺に入れ、一人呟くように悪態をつく。
「あの銀仮面、無茶な依頼しやがって。おかげで膝がまた悪くなっちまったじゃねぇか。しかし例の赤毛の娘、話に聞いてたよりやるじゃねぇか……」
シウラン達は知らなかった。
このオークション事件の背後に因縁の存在、銀仮面シュナが絡んでいたことを。
そしてこの船旅がシュナの手のひらにあることを。
それでもシウラン達の船旅は続く。




