78話 白熱! 逃走劇!②
市街地を激走する馬車とトリケラトプス。
巨竜は凄まじい咆哮を上げ、市街地の舗装された道を踏み砕く。
巨大な脚が地面を破壊し、まるで大地震が起きたかのような衝撃振動により、街が揺らいでしまった。
その揺れに耐えられない家屋や建物は次々に崩れ落ちる。
馬車は追跡するトリケラトプスをなかなか振り切ることが出来ずに、何度も巨竜の体当たりを許してしまう。
シウラン達がいる荷台が壊れるぐらい大きく揺れた。
運転していたイズモが悲鳴を上げる。
「無理だ! ウマなんかじゃトリケラトプスに走りで勝てっこねー!」
泣き言をいうイズモにクロエが喝をいれる。
「とんだ腑抜けね! 小回りじゃ馬車の方が有利よ! この先を右に曲がって!」
十字路の右を曲がった先には歓楽街がある。
当然道の上には人だかりや露店が立ち並んでいた。
イズモが躊躇すると、クロエは無理矢理、その手綱を奪い取る。
「元騎手の腕前見せて上げるわ!」
クロエがウマに鞭を叩き込む。
興奮したウマはいななき声を上げて、スピードを加速させ、通りを曲がった。
あまりの急カーブに馬車が傾き、横転しそうになる。
しかし地面に転がる直前に、荷台にいたシウランが激しく大地を蹴り、何とか踏みとどまる。
対して突進していたトリケラトプスはそうもいかない。
曲がり切るために大きく弧を描く必要があり、シウラン達のいる馬車に振り払われてしまう。
体勢を立て直し、再び突進が始まる。
それをみていたシウランとルァは舌打ちをしていた。
「執念深い奴らだぜ……」
「しつこい男は嫌われるよ……」
すると迫ってくるトリケラトプスから氷弾の嵐が放たれてきた。
咄嗟にルァは水魔法の結界で相殺させる。
今度は巨大な氷柱が馬車に迫ってきた。
すかさずシウランが蹴り飛ばし、その軌道を逸らす。
ルーファウスが放った氷魔法で繁華街は惨状に溢れた。
それを見かねたイズモが狼狽する。
「街中で攻撃魔法なんか使ってくるなんてイカれてやがる! 重罪だぞ!?」
その言葉にルァは意外そうな顔をしてしまう。
「え? 市街地で魔法を使っちゃいけないの?」
「当たり前だろーが! 街での攻撃魔法使用は基本重罪だ! 全世界の共通認識だ! まさか知らなかったのか!?」
シウランはキョトンとした顔をする。
「え? ニュークのスラムでルァ、しょっちゅうチンピラに水魔法、ぶっかけてたぜ? 誰も文句言わなかったよな?」
イズモは頭を抱える。
「これだから野良の魔法使いは厄介なんだよ……。お前ら街角で大斧を振りましてる大男がいたらどうなる?」
シウランとルァは顔を見合わせて答える。
「警備隊に捕まる」
「そういうこと、しょっちゅうしてたんだよ! お前らは!」
すると前方で手綱を捌くクロエから掛け声がかかる。
「お喋りは後でして! 対ショック姿勢!」
シウランが前方を見ると急勾配の階段がある。
しかも階段には露店が立ち並んでいた。
激突しちまう!!
しかしクロエの巧みな鞭と手綱きで馬車はトップスピードのまま高く宙を舞う。
階段を降りるのではなく、坂を下るように、並ぶ露店の隙間を通り抜け、階段の下へと着地した。
勢いで荷台が壊れるぐらい、激しく揺れる。
シウランがよく見ると、座席の横でエタールとマイヤは失神していた。
マリヌスは嘔吐を何とか抑えていた。
シウランが後方を振り返ると、しつこい海賊達が追って来ていた。
猛然と迫りくるトリケラトプス。
階段上にある露店や屋台、人混みを蹴散らしていた。
ルーファウスの叫び声が聞こえる。
「お前らも踏み潰してやる!! クソガキ共!!」
馬車と巨竜のデッドヒートは市街地を超えて、荒野を駆け抜け、険しい山道まで続いた。
狭い峠道、クロエがいくら鞭を叩いても、すでにウマの体力は限界であった。
そこへ荷台に何度もトリケラトプスの体当たりが叩き込まれる。
すでに荷台は半壊していた。
さらに巨竜は馬車の横へと並びかける。
シウランが反対の方向を見ると、すぐ側には崖が迫っていた。
ルーファウスの怒声が響き渡る。
「突き落としやる!! 地獄へ落ちろ!!」
焦るシウランの隣でネロが話しかける。
「お前さん、あの若い奴にえらく恨まれとるの?」
「ああ、連中の仲間を殺しちまったからな……。クソ! このままじゃ崖の下だ!」
「おや? この賞金首はお前さんが仕留めたのか。てっきりネームドハンターの仕業だと思ったぞ!」
シウランがネロの足元をよくみて見ると、先ほどシウランが殺害した人物の死体が転がっていた。
思わずそれを見てギョッとするシウラン。
「なんで死体なんか持ってきてんだ、ジジイ!」
「いや、賞金首だし。証拠の首でも渡さなきゃ、報酬貰えんしの……」
その死体、ロイの亡骸を見てルァに天啓が舞い降りた。
「ひょっとして……。シウラン! 助かるかもしれないわよ!」
ルァはまた悪い顔をしていた。
トリケラトプスに跨るルーファウス。
その後ろにいるのはジークと巨竜を操るユーリであった。
「散々手こずらせてくれたわね……」
「ああ、おかげでサービス残業だ。これだから仕事は嫌なんだ……」
前で跨るルーファウスは勝利を前に高笑いをしていた。
「ジーク、ルーファウスがやたら根に持つなんて、あのガキ共何したの?」
「なんでもルシア近海を奴らのせいで三日間漂流されたらしい。俺もあの赤髪と青髪の娘には煮湯を飲まされた。まぁそれも今日でお終いだな」
「……ねぇちょっと。馬車の荷台の上にいるのロイじゃない!? 人質に取られてるわよ!?」
「ルーファウス、止めろ! ロイが向こうにいる! いなくなってたと思ってたら、奴らに連れ去られたのか!?」
ジークとユーリの叫びにルーファウスは我に返る。
なんと眼前には弟分のロイが憎き赤髪と青髪の娘達に剣をつきたてられていた。
ぎこちなく両手を振って助けを求めていた。
気のせいか、可愛い弟分は顔に生気がない。
俯いていて、表情もよく見えない。
「そうだった! 奴らの得意な手口だ! あのクソガキ共は人質を取るのが大好きなクソな奴らだ! 卑怯者め! ロイを返せ!」
ルーファウスが非難するように叫ぶと、人質に取られたロイは無惨にも馬車から突き落とされてしまう。
「いやぁ! ロイ!! ルーファウス! ロイを助けるのが先よ!」
ユーリが泣き叫ぶ。
ルーファウスは深刻な表情で、トリケラトプスの動きを止める。
「ああ、俺達のかけがえのない仲間を失うわけにはいかない。すぐに助けるぞ!」
ジークもぼやく。
「労災死亡事故は連帯責任だ。発生させるわけにはいかない。姉御に殺される……」
馬車を襲っていたトリケラトプスは止まり、シウラン達を乗せた馬車は窮地を脱する。
シウランとルァは腹を抱えて、二人で笑い合っていた。
「ギャハハハハハ! アイツらマジで騙されやがった……、は、腹が痛ぇ……!」
「キャハハハハハ! ホントにマヌケな連中ね……!」
馬鹿笑いをするシウランとルァを見て唖然としたネロは呟く。
「ああ、だからお前さんら、連中に恨まれとんのか……」
ルーファウス達がロイの死亡を確認し、してやられたことに気付いた時、果てしない怒りと途方もない復讐心が刻の刃達に芽生えた。
シウランはさらに海賊に恨まれた。
自業自得である。




