76話 激闘! オークション⑥
人を殺めた罪悪感と絶望感に苛まれたシウランは、無駄だとわかりつつも、すでに生き絶えたロイの心臓をマッサージしていた。
その必死な姿にルァは哀しい目線を送っていた。
シウラン達に助けられたマリヌスやマイヤ達はただ呆然としていた。
そこへ通路を駆けるクロエが合流する。
クロエはガイウスの亡骸に視線を送り、シウラン達に声をかけた。
「……ガイウス……。貴方達が仇を討ってくれたのね。そしてみんなを助けてくれた……。礼を言うわ、ありがとう。貴方達がいてよかったわ。ところで何やってるの?」
クロエの問いに、ルァが深く溜息をついて答える。
「黄泉がえらせてる最中みたい。とっくにその手は血に染まっているのにね。殺し屋シウランちゃん……。見苦しいわ、死者は生き返らないわ……」
シウランが余りに夢中になって胸を押すと、勢い余ってロイの死体の肋骨をボキンと音を立ててへし折ってしまった。
やっちまったという顔をしながら、シウランは頭を抱える。
それを見たクロエは苦笑いをした。
「……良心があるのはいいことよ。人の命は尊いものよ。……けど過ちは認めなさい」
クロエの言葉にシウランは振り向く。
「あ、姉ちゃん。これは……違うんだ……。不慮の事故ってヤツだ。ワザとじゃないんだ……。ぶっ殺すつもりでやったら死んじまっただけだ……」
シウランは嘆きを訴える。
するとルァがクロエがここに来たことへの疑問の言葉を投げかける。
「刃物の海賊はどうしたの? ちゃんとそっちも殺ってくれたんでしょうね? というか、ライエルのいる下のフロアに行ったんじゃないの? 私達はそこに行くつもりだったんだけど」
「忘れたの? 本当の目的はマーメイドの奪還よ。さっきの海賊の小僧はいい腕してたわね。敵わないとわかると、すぐに立ち去ったわ。こっちも依頼人が巻き添えで死んでしまったわ……。ハンターの面目が丸潰れね……」
その言葉を聞いたルァは嘆息する。
「そっちの海賊は始末して欲しかったんだけど……。あの強面マフィアもついてなかったわね。まさかこんな惨事が来るなんて想像出来なかったでしょ。そういえば、密猟されたマーメイドを救うんだったわね……。……あの海賊共の騒ぎのせいでスッカリ忘れてたわ」
クロエが立ち尽くすマイヤ達に指示を出す。
「マイヤ、エタール、マリヌスは一旦引き返して。会場のフロアの床の穴から撤退しなさい。護衛は失敗に終わったわ。私と彼女達はこのまま通路の先にある競売品倉庫に向かうわ」
クロエに促されたマイヤ達は足早にその場を立ち去る。
三人共、シウランに熱い眼差しを送っていた。
無理もない、窮地のところを救ってくれたヒーローであり、手も足も出せなかった強敵を容易く葬ってしまったのだから。
しかし肝心のシウランは未だに良心の呵責に悩まされて、ロイの死体を呆然と眺めていた。
呆れたルァとクロエが引っ張るように通路の奥へとシウランを引き摺る。
通路奥にある広い倉庫場。そこには大陸中から集められた希少な芸術品や美術品、それだけではなく遺跡で採掘されたであろう魔法武器や魔法道具が所狭しと並んでいた。
そして夥しい数の競売品の中にクロエ達が探していた、囚われのマーメイドがいた。
正確には、マーメイドは巨大な水槽に閉じ込められていた。
それを見たルァは水槽を見上げながらぼやく。
「そこら美術品とかなら運べるけど、こんなデカい水槽どうすんのよ……」
ルァとクロエもこれは想定外で打開策を思案する。
しかしシウランは見た。
囚われのマーメイドが水槽を叩き、救いを求める目でシウラン達を見つめているのを。
その表情は、ニュークのスラムで飢えで苦しむ子供達と重なった。
助けて。
その声がシウランには聞こえた。
シウランの義憤が身体中に湧き立つ。
ついさっきまでウジウジしていた少女の姿はそこにはない。
シウランは倉庫の壁をぶち破り、突破口を自慢の膂力で切り開いた。
外界の突風が倉庫内に吹き込む。
そしてシウランは水槽の底を掴み上げ、歯を食いしばって持ち上げた。
そのシウランのとんでもない行動に、クロエは驚きを隠せず、思わず口を開く。
「な、何するつもり!? ここ五階よ!?」
全身全霊の力を発揮しているシウランは、声を絞り出す。
「……見てわかんねーのか……? ……コイツを運んで救ってやるんだよ……。……今助けてやるからな……。……相棒、サポートを頼む」
ルァは深く溜息をついた。
「ったく……。本当に脳筋なんだから……」
ルァは魔法でシウランと水槽に水の膜を張り、水流を叩き込む。
ルァの水魔法は川のように地上へと流れ、シウランはそれに乗るように、滑りながら地上へと飛び降りる。
無論、倉庫内の競売品も全て流されていった。
圧巻の光景にクロエは驚愕する。
そしてあることに気づいてしまった。
あの馬鹿デカい水槽を持ち上げる意味あったのかしら……?
普通に水槽の中から救いだし、この水魔法で流せばいいんじゃないの!?
クロエがそれを口に出そうとした時、ルァがそれを制する。
「わかってる! 言いたいことはわかるわ! けどあの脳筋には伝えないであげて!」
クロエは目の前の少女達をかつて見た無鉄砲な仲間達に重ねてしまう。
思わず微笑み、鼻の奥がツンとするのを感じた。




