72話 激闘! オークション②
翼竜に跨るルーファウスはその両手で掌印を結ぶ。
「空間錬成、『氷槍演乱』!」
オークション会場に凍てつく吹雪が舞い起こる。
瞬く間に会場の壁が氷の壁へと閉ざされた。
ルーファウスは空間の結界を会場内に絞り、その中を氷の嵐で荒らし尽くす。
会場内のマフィア達が寒さで身悶えし、足を止めている刹那、空間から鋭利で巨大な氷柱が生成され、マフィア達は次々に串刺しにされる。
空間錬成 結界術の発展術式
本来、魔法術師の本来の力を最大限発揮できるよう空間を変化させ、さらに周囲に被害が及ばないように作られた結界術である。
結界内は自身の魔力が循環と還元され、本来の2倍以上の魔力が術者の力へと発揮される。さらに結界内は発動術者の魔力で構成されているため、結界内の相手は自身の魔力を込めることが非常に困難になる。例えるなら、水中で火を発火させる、そのような不利な環境下に相手はさらされる。
すなわち、空間錬成の中に入ってしまえば魔法での脱出は困難極まる。ただし結界は本来、発動術者の魔法を結界内に封印させるためのものなので、術者の魔法出力を大きく超える衝撃を与えれば破壊できる。
発動条件は空間を構成させる魔法式、そしてその空間の形を形成させる結界術式が必要となる。
創世の魔術師カインが古代魔法を現代に蘇らせた究極魔法の一つである。
シウラン達はルァが放った水の結界でなんとかその攻撃を防いだ。
瞬時に掌印を見て空間錬成が来ると察したルァだからこそ、できたことである。
他のマフィア達は目の前に空から現れたプテラノドンの群れの光景に呆気に取られ、立ち尽くしてしまった。
そしてその行動をした殆どの者が氷の槍で串刺しにされていった。
ルーファウス、刻の刃達の出現に戸惑う、ハンター特殺部隊であったが、すぐに我に帰り、反撃に転じる。
茶髪の青年、フラムがルァの結界から飛び出し、自慢の氷雪魔法を展開させる。
そして叫ぶ。
「同じ属性の魔法で勝負だ! 喰らえ絶冷の氷刃を!」
氷で形成された刃が無尽蔵に現れ、ルーファウスに畳み掛ける。
しかし、その氷の刃はルーファウスの前で霧散してしまう。
フラムは理解できなかった。
今まで誰にも防ぐことの出来なかった自身の必殺の魔法が容易く破られたことに。
ルーファウスは鼻歌混じりに呟く。
「勉強不足だな。この空間はもう俺のものだ。同じ系統属性なら俺の魔力に循環される。デザートをありがとう! そして死ね」
立ち尽くすフラムの背後にウェッジが現れた。
気配を悟ったフラムが振り返る隙も無く、その首は宙を舞う。
鮮血をまき散らしながら呆気なくフラムの胴体は床に倒れ伏してしまった。
すかさずウェッジが巨大な斧を振り回し、振り下ろす。
シウラン達に向けて巨大な斬撃が襲いかかる。
「そんなチンケな結界、この魔導武器で粉砕してやるよ!」
魔力の籠った巨大な斬撃。
ルァの結界は魔法からの攻撃は防げるが、物理には脆弱だ。
結界では防げない。
かといって、ここで結界を解くと、他のマフィア達のように氷の槍の餌食にされてしまう。
そこに槍を携えたクロエが構える。
そしてウェッジの放った斬撃に強烈な槍の一閃を浴びせる。
その一撃は巨大な斬撃の軌道をずらし、氷ついた会場の壁を真っ二つに割った。
すると、オークション会場を覆った氷の結界がガラガラと崩れ落ちる。
ウェッジの斬撃がルーファウスの空間錬成を破壊したのだ。
せっかくの結界を壊されたことにルーファウスは激怒する。
「ウェッジ! お前なにやってんだよ! せっかくの空間錬成をお前が破壊してどうしてくれるんだ!?」
ルーファウスの叱責にウェッジは申し訳無さそうにする。
「いや、ちょっと張り切っちゃって……。悪かったよ……」
ルァとシウランが目を合わせて、溜息を吐く。
「また、コイツらかよ……」
「相変わらずマヌケね……」
ルーファウスの傍らにいた龍族の少女がルーファウスに抗議していた。
「ちょっと、ルーファウス! いきなり空間錬成するなんて聞いてないんだけど!? あんたの氷のせいでアタシの可愛いプテラノドンが凍えて弱ってるわよ!?」
ルーファウスが跨っていたプテラノドンが震えて、弱々しく鳴く。
「え? 竜って寒いの駄目なのか、ユーリ?」
ユーリと呼ばれた龍族の少女はまくしたてる。
「プテラノドンがこんな寒さの中で生きてける訳ないでしょ!? あーあ、来るんじゃなかった……」
「すまん、久しぶりの登場と、今まで舐められた思いをぶつけてしまったんだ……。姉御に小説書かされるハメになるから、帰らないでくれ……」
「ユーリ、ルーファウス達をあんまり苛めるな。きっと小説書き過ぎて、変な影響受けてるんだ……」
「ロイ! やめてくれ……。最近、現実と空想の区別がつかない時があるんだ……」
ルーファウス達の漫才にガイウスは呆れる。
「奴らが刻の刃なのか? あんなバカ達にフラムは殺られたのか……!?」
シウランは頷く。
「中身が可哀想な奴らだけど、腕は確かだぜ……。実際、奴らが自爆してくれなきゃ、俺達は危なかった……」
すると、冥府のハデスが動き出す。
凶悪そうな鎌を振り翳し、周囲の空間を切り刻む。
そして呟く。
「喰らえ、ソウルイーター……。奴らの魂魄を喰い破れ」
その様子を見たユーリは興味津々そうな笑顔を浮かべる。
「あれ? まだやる気だよー? メイ、そろそろ出てきなよ」
ルーファウスの背後の影の闇から若い女性がぬっと姿を現す。
「あんな派手な技はいらないわよ、ルーファウス。……闇よ、あれ」
メイと呼ばれた女性が手を翳すと、そこから巨大な闇が生まれる。
その闇は大型の獣のような形を成し、瞬く間にハデスの足元の影まで忍び寄る。
そしてその影から、暗闇の顎がハデスに襲いかかり、ハデスはその闇の獣に咬まれ、影の中へと引きずり込まれる。
咄嗟にそれを助けようと、エタールとマイヤがその影をレイピアで攻撃するが、その闇の中から気怠そうな声が響き渡る。
「修練不足だな。危険予知行動の復習をしておけ……」
闇の中から体躯のいい男が姿を現し、不意を突いて、二人を自慢の蹴りで吹き飛ばす。
その男を見てシウランとルァはウンザリした顔をする。
「シウラン、こないだのカミナリ野朗よ」
「できれば、もっと稽古つんでから現れて欲しかったぜ……」
シウランの言葉に男は反応する。
「ジークだ。赤髪、青髪。人の名前を覚えるのは、社会人の常識だ」
二人が身構える中、闇の顎にハデスは無惨にも影の中へと沈み込まれていく。
その様子を見て、ユーリが愉快そうに笑う。
「ソウルイーターwww あんなカッコつけてバカみたいwww はーい、一名様ご案内〜♪ 次は誰が餌食になるのかしら? キャハハハハハッ!」
刻の刃達は余裕そうに笑みを浮かべていた。
シウラン達はあっという間に、二人のネームドハンターが容易く倒されてしまったことに、動揺を隠せなかった。
今から刻の刃達の戦慄の時間が始まる。
すでにシウラン達は他の護衛よりも、その場から逃げ出す方法を模索していた。




