71話 激闘! オークション①
闇オークションの会場の中はまるで結婚式でも開催されるかのように華やかに彩られていた。
テーブルの上には薔薇やガーベラ、マリーゴールド等の鮮やかな花が花瓶に飾られ、フロアもレッドカーペットが敷かれている。
ただし会場内にいるのは全員礼服を着たマフィアやその護衛だ。
和やかな雰囲気とはほど遠く、皆が殺気のような気配をぶつけ合っていた。
シウラン達が強面のマフィアを護衛しながら、オークション会場に入ると、周囲から好奇と畏怖の視線を送られ、ヒソヒソと声が囁かれる。
「西条会の若頭……。最近ハブリが良いとは聞いてたが、まさかネームドのハンターを引き連れてきやがったぜ……」
「あれは流炎と疾風の……、超新星の二人組、エタールとマイヤだ……」
「マジかよ、絶冷のフラムまで奴の護衛に!?」
「あれがハンター組合が作り出したキリングマシン、マリヌス……」
「絶対に目を合わせるな……! マジかよ……冥死のハデスなんて、とんでもねー奴連れて来てやがる……。今日のオークションは安全なんだろうな!?」
「あれが歴戦の猛者、魔弾の射手、ガイウス……。やはり戦争帰りは面構えが違う……!」
「おい、その側にいるのが、天槍のクロエだぞ……。統一戦争で千人斬りしたって噂の……!」
「その後ろについてるガキ共と、ジジイと若造は誰だ? アイツらもヤベェ奴らなのか……!?」
「まだ名が知られてねー猛者かもしれねーぞ……。最強の英雄、ミュラーや英雄王、シセルだって最初は無名だったんだ……。今夜は西条会には顔を合わせるな……!」
ざわつく会場の言葉にシウランは耳を傾けていた。
そして前を歩くクロエに尋ねる。
「あんた、有名人だったんだな。今度一緒に稽古しようぜ。師匠とどっちが強ぇえのかな?」
クロエは薄く微笑み、答える。
「遠慮しておくわ。体術は得意じゃないの。それに噂が大袈裟に広まってるわね。従軍したけど、地味な裏工作しただけなのに……。それにあのミュラーが英雄って……」
クロエが含んだ笑みを浮かべているのをルァは疑問に思った。
「他の連中は知らないけど、ミュラーって名前の英雄は知ってるわ。師範が絶対に勝てないって嘆いてたもの。誰もミュラーの顔は知らない。けど間違いなくいる、現役で歴代最強の英雄よ。お姉さん、なんだか知り合いみたいな口ぶりね」
クロエは遠い目をしながら、語る。
「空気が読めない、結婚してる癖に風俗は行く。しでかしたらすぐに人のせいにするクズよ。英雄にするには品格が足りないんじゃないかしら?」
その言葉にシウランは驚く。
「マジかよ!? あのミュラーと知り合いだったのか!?? アイツの武勇伝を聞かせてくれ!」
「若い頃、貴方達ぐらいの頃に一緒にハントしてたのよ。思い出したら、ムカついてきたわ。アイツ、風俗代欲しさに汚い仕事ばっかりやってたのよ……!」
クロエの顔が険しくなると、シウランはゴクリと唾を飲む。
「英雄、色を好むって奴か……。あのミュラーがいたら、狩りも楽だったんじゃねぇか?」
「誰も最初から英雄だったわけじゃないわよ。出会った頃は稽古でいつもアイツをボコボコにしてやったわ。そんなミュラーが英雄なんて、人生わからないものね」
シウランとルァがボカンとしていると、その後ろを歩く初老のネロが含んだ笑みをしていた。
「ここにいる奴らは駄目だな、勿論前を歩いてるネームドの奴らもだ。お嬢ちゃん、覚えておきな。本当に強い奴ってのは名前も顔も知られてない奴らさ。有名な強者は二流ってな」
ルァがジロリとネロを見据える。
「無名の自分はそうじゃないって言いたげね。じゃあ一流の強者を教えてくれるかしら?」
「知らんな」
クロエがその言葉に興味を持つ。
「……知らない? どういう意味?」
「困ったことに、一流の強者ってのは一流だから誰も知らないじゃよ。事実、今のお前さんじゃ、いまのミュラーの力を見極めることすらできんじゃろ? そしてどこにいるかも掴めていない。だから儂等を護衛に使ってる。違うかね?」
図星を突かれたクロエはバツの悪そうな顔をして、前を歩く。
ネロの言葉に興味を持ったシウランはネロに話しかけるり
「爺さん、名前が売れてねーからって僻んでるじゃねーよ。まぁ無名なのは俺達も一緒だ。元気出せよ」
シウランの予想外の慰めに、ネロは思わず顔を歪める。
「クソガキっ……。儂とお前さんを一緒にするな、たわけっ!」
一同は指定された席に座り、無事に、闇オークションが開催されようとしていた。
ルァが肩を竦める。
「あら、競売が始まるわよ。何も起きないわね」
ルァの言葉とは逆に会場がざわつく。
「燕の海賊連中が来てねーぞ!」
「コイツはペナルティものだな!」
「所詮、野蛮な海賊共だ。来なくてせいせいする」
「組織の顔に泥を塗りやがって! しっかりケジメはつけてもらうぜ!」
その罵声の嵐に、クロエは警戒心を強める。
それとは逆にシウランはホッと胸を撫で下ろした。
「良かったな、ルァ。会いたくねー連中がボイコットしてくれたみたいだぜ」
ルァも深く溜息をつく。
「アイツらが迷惑なのはこういうことするからよ。あと、物理的に厄介なのもタチが悪いわ……」
すると周辺の階層を虫で警戒していたライエルの身体が震えだす。
「……先輩、なんか黒いモノに押し潰されました……。要注意です……」
ライエルの言葉を聞いたクロエはハッと会場の出入り口に目を走らせる。
そしてその場にいる全員に呼びかける。
「総員警戒! 要人の警護と出入り扉に注視!」
静かな時が流れる。
そこに何か現れる気配はあるのに、何も起こらない。
緊張と沈黙がその場を包み込む。
そして静寂は破られた。
外の景観を眺める大ガラスの窓が破れる。
現れたのはプテラノドンの大群であった。
虚を突かれたクロエは顔を歪める。
まさか、空から!?
プテラノドンの上にはルーファウス達を始めとする、刻の刃の幹部達が乗っていた。
そして翼竜に跨るルーファウスは景気良く会場にいるマフィア達に宣告する。
「諸君、遅れてすまない。お詫びに地獄を見せてやる。最高のショーを楽しめ!」




