68話 特殺部隊
ルシア帝国とベンガル王朝の狭間に位置する都市国家ボンベイ。
二つの強国に挟まれるこの国は現在両国の停戦の合意上、中立地帯となっている。
国家としての基盤は弱い。
現在ボンベイは中央大陸中のマフィアやギャング、盗賊、海賊達が裏で国家を牛耳っている。
ただし、裏の社会においてもここは中立地帯である。
大陸中の裏社会の人間達がこの国に集まっているため、ボンベイでは組織同士の抗争はしない。
親の仇だろうと殺しは御法度、国外に出てから始末するのがルールである。
そのボンベイの首都では今、建国祭で賑わっていた。
しかし、表の世界の宴である。
裏社会ではこの日、大陸中の裏の組織の幹部達が集結していた。
マフィア達の一大事業、闇オークションの開催のためである。
この闇オークション会場で組織の人間は幹部達に競売品を競ってセリ合い、組織の資金力の豊富さを他の組織に見せつける。
そしてセリ合いで高額の商品を取引した運営の組織の幹部達にその金貨の山が上納される。
それはマフィア達の組織への貢献度として高く評価される。
あまりの高額のセリになり、破綻したマフィアもいるぐらいの白熱した組織同士抗争、そこに血は発生しない。
いわば今日は大陸中の裏社会の組織の無血戦争だ。
この国の掟には背いていない。
無論マフィア達もマネーゲームで成り立っている訳ではない。
成金マフィアと侮られない為に、組織の猛者達やネームドの傭兵団、暗殺者、アウトロー達を雇って護衛させ、組織の武力をアピールする。
クロエ達もハンター組合とコネがある組織と誇示する為に雇われた。
ただ今日の闇オークションには悪い噂があった。
シウラン達と因縁がある燕の海賊が妙な動きをしているとの噂だ。
実際、首都には燕の海賊達は姿を現していない。
この国を牛耳る組織の幹部達は不参加のペナルティが科せられている。
航海権を奪われる可能性も高い。
だが燕の海賊達は姿を表さない。
クロエは事前にシークレットハンター達からこの情報を知らされ、大陸ハンター組合に対人特化のハンターの特殺部隊の派遣を要請していた。
クロエの目的は密猟されたマーメイドの奪還だが、護衛として万全を期すためだ。
絶冷のフラム。
氷結魔法の使い手であり、ブラックリストハンターとして三つ星の称号を得ている。齢28歳のベテランハンターだ。
星屑のマリヌス。
魔剣の使い手であり、十代半ばでありながらダブル称号を得た若き天才。
ハンター組合から生まれた時から暗殺のために育てられた存在である。
そして流炎のエタールと疾風のマイヤ。
この二人の女性達は長くコンビを組み、エタールは炎の、マイヤは風の魔法剣士であり、ブラックリストハンターの中でも新進気鋭の存在だ。
黒死のハデス。
魂を狩る禍々しい大鎌、ソウルイーターを振るい、彼の男から逃げられた賞金首は存在しない。サーチアンドデッドのみである。
ベテランハンター達からも畏怖される存在。
魔弾の射手ガイウス。
かの大戦を生き抜いたベテランハンターであり、その魔道具のナイフで生存率の低いブラックリストハンターを35年も生き抜いてきた。
そして傭兵のネロ。
初老の傭兵。
かつてグラスランドの工兵であったこと以外は身元不明。
ネロ以外は全員ネームドのハンター達だ。
ハンター組合も今回の件には本腰を入れている。
この七人の猛者達がシウラン達がいるボンベイの首都へと集おうとしていた。
何よりこの七人を指揮するクロエが現在六星の称号を得ている世界有数のハンターなのだ。
そして嬉しい誤算がかつての弟子ライエル、そして魔術士であるシウランとルアの存在だ。
ライエルからシウラン達の冒険劇を聞いた時、クロエは心が躍った。
今はいない、かつての仲間のように頼もしい存在だと。
しかし街に入って、マフィアの礼服を買いに服屋に入店した時、それはかつての仲間達を想起させるトラブルメイカーであったことを痛感された。
「ふざけんな! ただでさえ男勝りと陰口言われてる俺が男装なんて出来っか! 胴着を返せ! なんだこのタキシードは! おいルァ、ボタンの付け方がわからねー!」
シウランの頭の悪い叫び声が店内に響き渡る。
ルァが溜息をついて、シウランのシャツのボタンを付ける。
「私だってマフィアなんかの礼服なんて着るの嫌よ。我慢なさい! あら、胸元がキツイわね? 太った?」
「これは女の成長の証だ! ペチャパイ! あ! 痛ぇ! やめろ! 胸を潰すな!」
そしてお家芸の二人の喧嘩が始まった。
クロエが嘆息して、仲裁に入り、二人に礼服を着させ、シウランは束ねた後ろ髪を解き、赤い長髪を腰元まで下ろさせる。
逆にルァには後ろ髪を低い位置で束ねさせた。
シウランが髪型を弄るクロエに文句をつける。
「こんな髪じゃ動き辛れぇよ」
「ライエルに聞いた話だと、貴方達、ギャングと海賊、両方に喧嘩売ってるみたいじゃない。少しでも印象を変えないといけないわ。はい、眼鏡も付けなさい」
以前とメイクも仕立て、すっかり容姿が変わったシウランとルァはお互い見合わせて笑い合う。
「シウラン、どこのマフィアの令嬢よ。キャハハ!」
「ルァこそ、どっかのガリ勉魔法使いみたいなってんぞ。ナハハハハッ!」
笑い合う二人を見て、クロエは苦笑いを浮かべつつも、すぐに寂し気な顔と儚ない目をした。
私にもあったな。
そんな時が、存在が……。
シウランとルァがはしゃぐ姿が、クロエには存りし日の記憶を想起させていた。
それは淡い青春の思い出であった。




