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66話 クロエからの依頼①

 

 ハンター組合の船に乗船したシウラン達はライエルの上司であるクロエによって客室に案内される。


 シウラン達が船内の道中では、はしゃぐイズモの姿を見て皆イラッとしていた。

「これが本場の船なんだよ! 見ろよ天高く突き出た3本マスト! 馬鹿デカい櫂を屈強な漕ぎ手達が息を揃えて動かす姿! 蒸し暑い船内! これが真の船だ!」

 しかしシウラン達は自分達が乗る魔法船シャインの快適さと船の高度な技術にすっかり慣れてしまっているため、酷く原始的なものに映った。

 何故この中年がはしゃいでるのか理解できず、煩わしかった。

 ルァがぼそっと呟く。

「シウラン、あのおっさん、このままこの船に置き去りにしない? その方がお互い幸せかもしれないわ」

 シウランは渋い顔をして、

「ルァ……。あれでも一応仲間なんだから見捨てたりは出来ねーよ……」

 二人はこの船旅で確かにイズモへのフラストレーションは高まっていた。

 しかし仲間想いのシウランはここでイズモを見放したりはしなかった。

 シウランがもっと冷徹な判断ができる人間なら、イズモはここでパーティから追放され、この船の雑用としてこき使われる運命であったであろう。 


 イズモを置き去りにして、客室に通されたシウラン達はその光景に圧倒される。

 至る所に水槽があり、その中には見たこともない珍種の魚や小型の水獣が泳いでいた。

 思わず皆は水槽に瞳を奪われる。

 シウランが見惚れている水槽の生き物の正体をクロエは優しく答える。

「これはシーラカンスよ。絶命していたとされる古代魚なの。ヒレが普通の魚と比べて八つもあるの。生きている化石とまで呼ばれている魚よ」

 水槽を見つめるデーヴァがクロエに尋ねる。

「このカタツムリみたいな貝の中でイカのような動きをしている生き物も古代魚ですか?」

「それはアンモナイトね。これも古代に絶滅したとされる生物よ。まだ調査途中だから、これがオウムガイかイカやタコのような軟体動物かはわからないわね」

 珍しい生物に心を奪われていたシウランがクロエに失念していた挨拶をする。

「悪りぃ挨拶が遅れたなシウランだ。隣の青髪はルァ、黒髪はデーヴァだ」

「フフ、そんなに畏まらなくてもいいのよ。ゆっくりしていって」

 珍しい魚達に目を奪われているシウラン達の中からライエルがクロエに切り出す。

「先輩はこの生物のハントのためにこの船に乗ってるのですか?」

 クロエは少し迷った眼差しをしながら答える。

「ええ、後はこの船の護衛ね。最近この海域に海賊船が出没してるから、私みたいなベテランハンターが必要なのよ」

 シウランがクロエに尋ねる。

「ここの生き物はどうするんだ? 食べんのか?」

 シウランの脳筋な言葉にクロエは思わず失笑して答える。

「フフ、食べないわよ。生態を調査したら、海に帰すわ。ハンターは危険な生き物じゃない限り狩りはしないわ」

「ライエルとはどんな知り合いなんだ?」

「この子が新米の頃にサバイバルの教官をしていたのよ。最近のハンターはこの子みたいに研究肌の人間が増えてきてるわね」

「冗談言えよ、その言い方だと自分もライエル系みたいに言ってるけど、あんたは武闘派だろ?」

 シウランが不適な笑みを浮かべ挑発するようにクロエを睨む。

 クロエも微笑みながらも、シウランを見定めるように見つめた。


 二人の間に緊張が走る。

 しかしその気配を感じ取れなかったライエルは能天気にクロエに尋ねる。

「先輩はこのまま調査を?」

 シウランを一瞥し、微笑を浮かべたクロエは答える。

「いいえ、今は帰路よ。このままボンベイの港街に寄港予定。私には別の依頼もあるし」

「モンスターハンターの先輩に依頼? ボンベイには危険な獣なんていないはずでは?」

 クロエはしまった、という顔をしてから、シウランと隣に並ぶルァをよく品定めする。

「ライエル、貴方の仲間、かなりの使い手ね。まだまだ荒いけどよく洗練された(タオ)の流れを持っているわ」

 ライエルは自分が褒められたかのように、シウラン達のことを絶賛した。

「彼女達は凄いですよ! まだ少女だというのに、ギャングはおろか、海賊の精鋭だって撃退するし! この間なんて大勢の軍隊相手の圧勝してますからね!」


 ライエルの言葉を聞いて、クロエは熟考する。

 沈黙の間が空く。

 クロエのアライグマのような耳が左右に振られる。

 そして静寂を破る言葉をクロエはライエルに放つ。

「ライエルはどうして船旅なんてしてるの?」

 ライエルは言葉に詰まる。

 まさかドタバタ劇で連れ去られたとは言えない。

 代わりにシウランが答える。

「仲間の治療にコイツの力が必要なんだよ。俺達は古代遺跡の秘術を探してるんだ。悪りぃが後輩君は渡さねぇぞ」


 ライエルは少し感激した。


 今まで旅のお荷物だとばかり思ってたのに、シウランは必要だと言ってくれたことが堪らなく嬉しかったのだ。


 そうだ、僕はまだこの船の中ではしゃいでいる中年とは違う。

 仲間なんだ。


 今までみんなのお荷物だと思っていたライエルの心にシウランの言葉は響いた。

 

 しかし久々の旧知のハンターであるクロエと出逢い、出来れば故郷に、陸の生活に戻りたいという強い願望もライエルにはあった。

 

 シウランの返答にポーカーフェイスな表情で返し、クロエは水槽の古代生物を眺めながら囁く。

「なら今回は依頼という形をとるわ。ライエル、そして貴方たちの力が私には必要なの」


 思いがけない言葉にシウラン達は戸惑い、そしてそれが新たな船旅に試練の呼び水だと理解した。


 シウランはその澄んだ青い瞳に力を宿す。

 

 無言で強い意志と信念の籠った視線をクロエに向けた。


 その目の光は熟練のハンター、クロエの琴線に触れた。


 クロエはシウランという目の前の赤毛の少女に益々心から興味が湧く。

 自慢の耳が頭からピンと立つ。


 なかなかの逸材と出逢ったわ……。

 


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