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65話 予期せぬ再会

 今日も大海原をシャイン号は翔る。


 海鳥の群れが青空に羽ばたいていた。


 操舵室内でブリーフィングを指揮するイズモが皆に説明する。

「喜べお前ら。もう少しで陸に着くぞ。って言っても水や食料の調達なんだがな」

「次はどんな街なんだ?」

 シウランの疑問にイズモが答える。

「もう帝国の国境は超えている。ボンベイって国だ。そこの港街で買い出しをする予定だ」

 ルァがハッパを吸いながら、

「そこはどんな国なの? ハッパは合法?」

「文化は帝国とそこまで変わらん。西の帝国と東のベンガル王朝に挟まれてるが、敵対してないし、交易が盛んな国だから、外国人にも友好的だ」

 ライエルが溜息を吐く。

「また離れた漁村でこの船を着けるんですか?」

「いや、マストの偽装は済んでいる。デカい釣船として入港する予定だ。デーヴァ、港が見えたら微速して、風の力で動いてるようにしてくれ」

 デーヴァが航路図を確認して、答える。

「了解しました。それまで速度60ノットを維持します。皆さん、看板にて目視確認をお願いします。他の船舶がいた場合も警戒されないために、微速航行をします」

 シウランが感嘆の声を上げる。

「もうルシア帝国から抜けたのかよ。帝国海軍とは遭遇しなかったし、陸と違って関所もねぇ。大航海時代様々だな」

 イズモがそれに嘆息して返す。

「おかげで海は無法地帯で、海賊連中がのさぼってんだよ。この時代の航海は命がけなんだから、もっと自覚してくれ」

 ルァが文句を言う。

「けどこの船が航行中に海賊に襲われたことなんて無かったわ。まぁ漂流した海賊拾ったことはあったけど」

 イズモが両手を叩く。

「いーから、全員甲板に出て巡回警戒だ。さっさと外に出ろ」

 何故かその場を指揮るイズモに皆が舌を出し、不貞腐れたように重い足取りで看板に出る。


 無理もない。

 イズモは航海士でありながら、この航海に貢献できていない。

 加えて、先日の鮫襲撃の醜態だ。

 皆の信頼は失墜し、それでも航海士として振る舞うイズモに反感を抱いていた。

 しかも残念なことにイズモは皆の不信に気付くことができず、いつも通り、当たり前のように指示を出す。

 この船の不協和音に気付くことができなかったのだ。


 この物語が追放ものならイズモはパーティから外され、無職になって泣きながら大海原をイカダで漕いでいたであろう。 





 数時間後。


 夏の日差しで煌めく海面の照り返しに、シウラン達は疲弊していた。

 双眼鏡を持ちながら、何もない水平線を眺め続ける。

 身に染みる紫外線と滲み出る汗。

 シウラン達は交代して海の警戒をしていた。

 疲れ切ったシウランの肩にルァが手を置く。

「シウラン、シャワー浴びてらっしゃい。一休みしていいわよ。代わるわ」

 ルァに双眼鏡を手渡し、水瓶を飲み上げて、シウランは感謝の言葉を告げる。

「助かったぜ、ルァ。見渡す限りの青い海で心まで真っ青になっちまったよ。まぁ陸が近いからもう少しの辛抱だな」

 ルァがハッパに火をつけながら双眼鏡を眺める。

「今度の街ではドンパチは勘弁して欲しいわね。平和な街で優雅にハーブティーを飲みたいわ」

 シウランが汗を拭いながら、頷く。

「海賊共も空気を読んで欲しいもんだぜ」

 そう告げて、シウランがシャワー室に向かおうとすると、ルァが声を上げる。

「不審船を発見したわ! 数は二隻! 皆んな集まって!」

 シャワーを浴び損ね、落胆したシウランは汗の匂いを気にしながら、ルァの元へと駆け寄る。



 イズモが双眼鏡を眺めながら二隻の船を確認する。

「大型帆船が二隻か……。せめて海賊船か軍船かどうか見極めたいな。デーヴァ、もう少し近づいてくれるか?」

「了解しました」

 デーヴァが船の速度を下げ、船の方向を転換させる。

 震えるライエルが呟く。

「相手に見つからないうちに、離脱しましょうよ!」

 それにシウランが真っ向から反対する。

「ひょっとしたら海賊の奴らが他の船を襲ってるかも知れねぇ。もしそうなら見捨てることになる!」

 ルァも頷く。

「そうね。それに海賊と決まったわけじゃないわ。普通の商船か漁船かもしれないわ」

 双眼鏡で確認しているイズモが険しい顔をして、低い声を上げた。

「残念なお知らせだ。船の船体に燕ってマークがしてある。もう一隻は単なる帆船だ。おそらく海賊が襲ってる最中なんだろう」

 イズモの言葉を聞いて、シウランがデーヴァに呼びかける。

「デーヴァ、全速前進だ! 急いで海賊達から船を救うぞ!」

 すると双眼鏡を眺めていたイズモが素っ頓狂な声を出す。

「なんだありゃ!? おい、海賊船が沈められてるぞ! なんだあの帆船!? 軍船か?」

 皆が双眼鏡を手に取り、海賊船が海の藻屑になってる光景を目の当たりにする。

 するとライエルが嬉しそうな声を上げ出した。

「皆さん、安心して下さい! あれはハンター組合の船です。こちらの味方です!」

 ライエルの言葉を聞いて、一同は安堵の息を漏らした。



 白旗を掲げたシャイン号がハンター組合の船に寄せる。


 イズモがその帆船の姿を見て、感嘆の声を上げる。

「海賊船が襲ったってのに、傷一つねぇ。しかも最新式だ。船首の衝角が鋼で出来てやがる」

 看板に出たシウラン達が巨大な帆船を見上げていると、空中から一人の人物がシャイン号に舞い降りる。


「この船の責任者は誰?」


 その人物は綺麗な栗色の長髪を真っ直ぐに伸ばしていた。

 獣族特有の頭の上に耳をピンと立てていた。

 綺麗な顔立ちの女性であった。

 凛とした表情で槍を構えていた。


 その姿を見てシウランは一瞬構えるが、すぐにライエルが情けない声を上げながら、泣きながらその女性に抱きつく。

「しぇんぱぁーい! わだちです! ライエルです! 会いだがっだでず……」

 相手の女性も思わぬ人物に遭遇した為か戸惑う。

「え? ライエル!? なんでここに? どうして船なんかに乗ってるの?」

 ライエルの立ち振る舞いにシウランが頭を掻きながら、尋ねる。

「おい、ライエル。知り合いか?」

 泣き崩れるライエルに代わり、栗色の髪をした獣族の女性が答える。

「はじめまして。ハンターのクロエ=ヒューゲルです。貴方達はライエルの仲間なんですね。ああ、一応これの上司です。不本意ながら……」

 シウランが目の前のクロエと名乗る女性の放つ(タオ)に圧倒される。

「あんた強ぇな。海賊船沈めたのもあんただろ?」

「ふふ、これも仕事の一環ですからね。ライエルの友人というなら、船まで案内します。ほら、ライエル、いつまで泣いてるの!」

 かくしてシウラン達はハンター達の乗る船へ誘われる。


 この時シウラン達は知らなかった。


 これが次なる戦いの序幕であることを。


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