63話 ゴースト&ダークネス②
瞬く陽光に照らされた大海原に浮かぶシャイン号にはイルカの群れが集まっていた。
しかしシウラン達と戯れていたイルカが次々と船から離れていく。
シウランを乗せたイルカもシウランを海面に下ろして、逃げるように泳ぎ出した。
デーヴァが首を傾げる。
「さっきまであんなに懐いていたのに、急にどうしたんでしょうか?」
ルァが両手を上げる。
「まぁ気分屋なんでしょ。おかげで漁が再開できるわ」
シウランは残念そうな顔をする。
「もっとあのデカい魚を乗りまわしたかったぜ」
看板にいるライエルとイズモが揉めていた。
「あんたが刺身にするとか旨そうな目でイルカ達を見てたから、怯えて逃げたんですよ!」
「んな訳ねーだろ! たかがイルカに、はしゃぎやがって! そんなに好きなら水槽で飼いやがれ!」
「できる訳ないでしょ!? おや? まだ一匹いますよ。 背鰭がこの船に近づいてます。 群れから離れたのかな?」
ライエルの言葉に反応したイズモがその背鰭を見て訝しんだ顔をする。
「ありゃイルカじゃないな……。しかも結構デカいぞ……。あれはまさか……。マズイ! シウラン! ルァ! デーヴァ! 一旦船に戻れ!」
イズモの大きな呼びかけにシウランは首を傾げた。
「なんだよ、急に? せっかく漁が再開できるっていうのに……。お? またデッカい奴が近づいてきてるじゃねぇか!」
大きな背鰭がシウランに急接近した。
しかしその魚影は一旦海中に沈み込む。
巨大な影がシャイン号の真下に入り込んだ。
焦ったイズモは叫ぶ。
「馬鹿野郎! そいつはイルカじゃねぇ! ライエル! シウラン達の回収を急げ! 俺は武器を取ってくる」
シャイン号の梯子に乗ったルァがぼやく。
「いったいなんなのよ。今度のイルカはずいぶんシャイな奴ね。海中に隠れちゃうなんて」
ルァに続くシウランも溜息をつく。
「せっかくの大物イルカなんだから派手に乗りまわしてぇよ」
先に看板に上がったデーヴァが首を傾げる。
「イズモさんの様子がおかしかったですね。あれはイルカじゃなく、別の魚では?」
「ああ、知ってるわ。クジラって言うんでしょ。海にいる大きな牛みたいな魚。あれも西側じゃ神聖な生き物って言われてるわね。イルカより大きいらしいじゃない」
するとシャインがけたたましい警報音と共に警告の声を船内に響き渡らせる。
「エマージェンシー! エマージェンシー! 海中で急接近する生物反応有り! 可及的速やかに船内に避難して、近くの物につかまって下さい! 衝突の恐れ有り!」
シウランが両手を上げる。
「なんだこの野郎。さっきまで大人しかったのに急に喚きやがって」
デーヴァがシウランに告げる。
「シャインには生物の攻撃性を見極めるセンサーがあるんです。さっきのイルカの時はイルカに敵対意識が無かったから反応しなかったんでしょう」
ルァが呟く。
「つまり、今度のデッカいイルカはこの船に喧嘩売る気満々って訳ね。? イズモがデッカいクロスボウみたいなの持ってるわよ?」
呑気にしてる少女達をライエルが船内に避難誘導させる。
その最中、イズモはマッチロックガナーを改良した銛を射出する銃を構える。
突然、船内が激しく揺れた。
まるで大地震でも起きたかのようだ。
堪らずシウラン達は床に転げてしまう。
何が起きたかわからないまま、シウランは急いで甲板に出る。
船首にはイズモが大きな銃を構えていた。
そして海面には巨大な影がシャイン号に忍び寄っていた。
巨大な背鰭が海面に現れる。
シウランがイズモに呼びかけた。
「イズモ! やべぇイルカなのか!?」
「……シウラン。イルカなんてかわいいもんじゃねぇ……」
海中から、突然巨大な顎が現れた。
まるでシャイン号を食いちぎるかのように。
シウランが目にしたのは大きな口、凶悪な、まるでナイフのような歯だった。
船首にいるイズモが丸呑みされる勢いだった。
だが、冷静なイズモはその大口の中にめがめて銃を放つ。
大きな銛が口の奥へと突き刺さった。
その一撃が効果的だったのか、その顎は閉じられ、身を翻す。
間一髪のところで、イズモが、シャイン号は助かった。
シウランの目にはその巨大で、凶悪そうな魚の姿が鮮明に焼きつく。
くたびれたかのようなイズモがその魚影を睨みつける。
「シウラン、ホオジロザメだ。コイツに多くの船乗りが犠牲になった。しかもコイツは……8メートルまでありやがる。この船じゃ小さ過ぎる……」
退く魚影に看板から樽が連れられていく。
「奴の動きを鈍らせるために樽を3本括りつけた。奴が疲れて弱った所を叩くぞ。……シウラン行けるか?」
「誰に言ってやがる。俺は首長竜だって仕留めたんだぜ」
シウランがにっと笑うと険しい顔をしたイズモが思い出したかのようにふっと微笑む。
しかしシウランは知らなかった。
今襲ってきたホオジロザメと先ほどシャイン号の船底を揺らした正体が別であるということを。
二匹の鮫は海の暗闇へと身を潜める。
鮫達は知っていた。
夜が絶好の狩り時ということを。
シャインは今二匹のゴーストに狙われている。




