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62話 ゴースト&ダークネス①

 

灼熱の炎天下の下、キラキラと光る海面。


 広がる青い空と大海原。


 シウラン達をシャイン号は航海を続けていた。


 無事に女に戻ったシウランは新着の水着を身に纏い、ルァやデーヴァと共に海水の中で泳ぎ回る。

 長い船旅の中の息抜きも兼ねているがただ遊泳している訳ではない。

 シャイン号の食糧の備蓄はあるが、やはり節約の為に食糧調達は欠かせない。

 少女達は銛を持って魚達を捕まえようとしていた。

 イズモやライエルは釣り竿を海面に伸ばし、フィッシングで魚の捕獲をしている。


 天気晴天さらに波もなし。

 絶好のフィッシュハント日和であった。


 ライエルがぼやく。

「楽しそうにしてますね、シウラン達は。こっちものんびり釣りができます。あーいい天気だ」

 イズモが悪態を吐く。

「アイツらはしゃいでるせいで、魚が逃げて全然釣れんぞ。おい、ライエル。ちょっとアイツら注意してこい」

 ライエルは内心思った。

 

 どうして当たり前のように僕を使いパシリにするんだ!?

 貴方は何様だ?


 しかしライエルはイズモに叱られたくないので、言われた通りに動く。

 ライエルが海面で戯れる少女達を呼びかけようとすると信じられない光景が映った。

 イルカの群れがシャイン号を囲んでいた。

 海の素人とは言え、ライエルもイルカの知識はある。

 しかし群れとなって現れてくるその姿はまさに圧巻であった。

 子猫のキアヌのような鳴き声を上げている。

 

 何て美しい生き物、景色なんだ。

 良かった、船旅も悪くない。


 稀有な生き物を見れてライエルの心は晴れつつあった。

 しかしそれも束の間であった。

 銛を持ったシウランが今まさにそのイルカ達に襲い掛かろうとしていた。

 いや、すでに何匹かはルァの水魔法で拘束されている。


 海の妖精を捕獲して夕飯の食材にするつもりか!?


 ライエルは堪らず叫び声を上げる。

「シウラン! ルァ! 駄目です! イルカを、その生き物は捕まえてはいけない! 貴方達の役目はその生き物と楽しく戯れることだ! 蛮族みたいなことはやめて下さい!」

 ライエルの必死の制止の叫びにシウランが舌打ちし、大声で反論する。

「でっけぇ大物じゃねーか! 魚だろ!?」

「ノン! それは魚じゃない! 海の妖精だ! 傷つけることは僕が許さない! さぁ、イルカさん達! その少女達と遊んであげて下さい!」

 ライエルの呼びかけに答えるように、イルカ達はシウランやルァ、デーヴァの側に寄り、人懐っこくじゃれて来た。

 戸惑うシウランはライエルに尋ねる。

「コイツらがいると魚が逃げて、漁の邪魔だ。追い払っていいか?」

「ノン! 貴方はそのイルカ達の背に乗り、無邪気に遊ぶのが使命だ! さぁ役目を果たしなさい!」

 ライエルの言葉に呆れるシウランだが、隣を見るとイルカ達がデーヴァやルァをその背に乗せ、海面で優雅に泳ぎ回る。

 シウランがそれを見て頭を掻くと、脚の間からイルカの背が現れ、イルカはシウランを乗せて海原を泳ぎ出した。

 海の生き物に乗って、小舟のように海を渡るということにシウランは初めは戸惑いを覚えた。

 しかしイルカの素早い動きはまるで海面を馬に騎乗したかのようだ。

 イルカが空中で舞い、宙返りするとシウランは大きな高揚感を覚えた。


 シウランも、ルァも、デーヴァも夢中になってイルカに乗り、海原を駆け回る。

 海の妖精と戯れる少女達のシルエット。


 ライエルはガッツポーズをする。

「イエス! そうです! 絵面的には最高です! 何て幻想的な光景なんでしょうか!」

 するとライエルの後頭部をイズモが釣竿でぶっ叩く。

「静かにさせろって言ったじゃねーか! しかしイルカか……。刺身にすると旨いんだよな。濃厚でまろやかなトロける肉感……」

 イズモがイルカを食事対象として眺めていると、ライエルが殺意の眼差しでイズモを睨みつけた。

「……イルカタベルユルサナイ……!」

 ライエルの凄まじい殺気に流石のイズモも狼狽してしまう。

「ああ、悪い、悪い。西側の国じゃイルカは神聖な生き物だったな。俺は東大陸出身だからそういうの鈍くてな。しかし困ったな。これじゃ漁ができんぞ。しかもなんで群れになって現れてきたんだ?」

 その答えは水面下で静かに動いていた。

 大きなヒレが海面に浮かび上げ、狙った獲物達の追いかけてきた海のハンターが静かにシャイン号に忍び寄ってきていた。


 そう、イルカ達は捕食者から追われていたのだ。

 イルカは賢い。

 捕食者達に身代わりの獲物を差し出すためにシウラン達に近づいてきたのだ。


 そして海の捕食者は悟る。

 俊敏に動き回る獲物よりも止まった獲物の方が捕食しやすいことに。


 シウラン達は知らない。


 海の捕食者の姿を。



 しかしその影は静かに、迫ってきたのだ。


 海の暗闇の中、亡霊のように潜む陰に。

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