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60話 乙女の誤り②

 

 女性専用の寝室にデーヴァとルァがベッドで寝かされているシウランを見つめていた。


 高熱にうなされるシウラン。

 ルァはその熱を冷まそうと冷えたタオルをシウランの額に置く。

 無機質な表情をしたデーヴァがルァに尋ねる。

「中毒症状ですね。ルァ、何か心当たりはありませんか?」

 ルァは少し間を置いて、答える。

「この間のイズモといい、なんか変なものでも食べたのよ!」

 ルァはしらばっくれた。

 そして懸念を抱えた。


 まさかあの薬を飲んじゃったなんて……。

 発育を良くする効果がシウランにでたら、あの胸がますます大きくなるわけ!?

 いや、それよりまさか薬の副作用でこんなに容体が悪くなるなんて……。

 あのレシピにはそんなこと書いてなかったわよ!

 

 顔を青くしたルァが辛そうにするシウランを眺める。

 

 気のせいかしら?

 なんか顔つきに丸みがなくなってきたわ。

 身体もだんだん筋肉質になってる気がする。

 え!?

 ちょっと待って、シウランってこんなに色っぽかったっけ?

 なんだかだんだん理想のイケメンになってきてるんですけど!

 

 ルァの顔色が青から朱色に染まる。

 デーヴァは首を傾げながら、シウランの変貌する身体を見る。

「ルァ、これはただの中毒ではありません。シウランの身体に異様な変化が起きています。はっきり言います。シウランの女性ホルモンが減退していってます。このままだとシウランは……」


 シウランの意思は朦朧としながらも戻った。

 まだ目がぼんやりしている。

 自分の身体が別人のような錯覚に陥る。

 両手を見ると自分のものとは思えないほどゴツゴツと節くれ立っていた。

 寝返りをうつと、驚愕の表情をしたルァとデーヴァがいた。

 ルァはともかく、喜怒哀楽の少ないデーヴァがそんな顔をするなんて珍しい。

 シウランは低い声で呼びかける。

「ルァ、水をくれ……。喉がガラガラだ。別人みてぇだよ」

 シウランは言葉を発すると驚いた。


 これは自分の声じゃない。

 男のような低い声だ。


 シウランの頼みに答えて、頬を赤らめたルァがコップを差し出す。

 シウランはそれを受け取り、ゆっくりと口の中にに水を流しこんだ。

 そして起き上がる。

 まだシウランの意識はぼやけている。

 いつもと身体の動きが違うことに戸惑った。

 なんだか神妙そうな顔つきをするデーヴァが言い辛そうにシウランに告げる。

「シウラン、落ち着いて下さいね。貴方の身体は今、男性化しています……」

 唐突な言葉にキョトンとするシウラン。

 

 デーヴァのやつ何言ってるんだ?

 相変わらず意味不明なこと言いやがって。

 男性化って、俺が男に?

 そんなわけ……。

 ん!?

 胸が!

 胸がなくなってる!?

 身体が筋肉質になってる!?

 股の間に変な物ついてる!?


 その恐怖に、シウランは頭の中に冷水を叩き込まれたかの感覚に陥り、意識がはっきりとする。

 戦慄したシウランをデーヴァが悲しそうな目で見ながら告げる。

「ルァが白状しました。どうやら妙な薬を調合し、誤ってシウランが飲んでしまったらしいのです。今解毒薬をルァが調合している最中ですが、今日一日はその姿で我慢して下さい」

 シウランは怒りの矛先をルァにぶつける。

「ルァ、またテメェの仕業か!? この野朗、どうしてくれるんだ! 今度こそはぶちのめす!」

 シウランはルァに飛びかかる。

 いつもなら二人の取っ組み合いの喧嘩になるのだが、今のシウランの力は男の腕力だ。

 しかもルァがしおらしく、反撃することもなく、なすがままに組み倒される。

 そしてルァは赤らめた顔に目に涙を浮かべていた。

「ごめんなさい……。乱暴はしないで……」

 これではまるで婦女暴行の現場である。

 シウランは相棒のルァの反応がおかしいことに訝しんだ。

「なんか様子がおかしくねぇか、ルァ……。いつもならやり返すとかするのに、急に大人しくなりやがって……」

 ルァが頬を赤らめて、恥ずかしそうに呟く。

「だって、今の貴方。凄いイケメンだもの……。なんだかドキドキしちゃって……」

「はぁ!? お前ふざけるなよ!?」

 そこにイズモが現れる。

「何度言えばわかる。お前ら、船の中で暴れるなと……。……どこのハンサムさんだよ……。お前……まさかシウランか……?」

 イズモはシウランの姿を見て硬直する。

 シウランも混乱していた。

 代わりにデーヴァが解答する。

「目の前にいる男性はシウランです。ルァの薬の作用によるものです。船の乗組員はこの情報を共有して下さい」

 ありえない現象に眩暈を起こし、イズモは堪らず倒れ込む。

 その姿を見て、シウランは悪態を吐く。

「ショックなのはこっちだっつーの。……うぅ、トイレ行きたい! おい、デーヴァ、男の用の足し方がわからねぇ。教えてくれ」

 デーヴァがキョトンとした顔をして首を傾げる。

「僕達と同じでは?」

「いや、なんか股間にある変な物が疼いてしょうがねぇ……。イズモは倒れてるし……。そうだ、ライエルだ。アイツがいた。ちょっと聞いてくる!」

 シウランは足早に部屋から立ち去った。


 数分後、シウランは青ざめた顔をして戻ってきた。

 無表情のデーヴァが尋ねる。

「トイレは無事済ませましたか?」

 シウランが苦悶の表情をしながら、首を振る。

「……俺には無理だ。股に生えてる棒を摘なきゃならないらしい。そんなの……俺にはできない! 仮に摘めたとしても、ちゃんと的に当てる自信がねぇ! どうしよう! このままじゃ漏らしちまう……!」

 するとシウランの肩にルァが手を置く。

「大丈夫よ、今の貴方にとっておきの物があるわ!」

 恍惚の表情をみせるルァの手には尿瓶があった。


 いつものシウランならその尿瓶を握り潰していただろう。

 だが逼迫した事態と堪え切れない尿意が正常な判断を曇らせる。

 今のシウランにとっては救いの糸であった。

 我慢できずにズボンと下着を下ろし、ルァの介助のままになる。


 しかし、流石にシウランは恥ずかしかった。

 晒した自分の分身を、そこから用をする行為をルァやデーヴァに見られることに。

 シウランは身震いしながら、赤面して、嘆願する。

「……頼むから、見ないでくれ……」

 卑猥な顔をしたルァと無表情のデーヴァが思わず声を漏らす。

「へぇ、やっぱりシウランって男でも立派なのね……」

「男性器は初めて見ます。興味深いです。このままだと膀胱炎の危険があります。我慢せずに出して下さい」

 臨界点に達したシウランは絹を裂くような悲鳴を上げながら、尿瓶に水流を巻き上げる。

 シウランの尊厳は破壊される。

 満タンになった尿瓶を見て、頬から涙が伝う。

「うぅうぅぅ……こんなのあんまりだ……」


 恥辱の限りを尽くされ、泣きじゃくるシウラン。


 それを見てルァの胸の鼓動は大きくなる。


 いや、ときめいていた。



 ルァは男となったシウランに歪んだ初恋を覚えていた。

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