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6話 ギャングのアジトへ


 黒装束の二人が闇夜に紛れ、夜のニュークの歓楽街を通り、スラム街へとひた走る。 


 フードを深く被り、大きなマスクで顔を覆っていた。

 その下に隠れる顔の肌には薄茶の化粧を施していた。

 全身黒づくめで、もはや暗闇の一部となっており、傍目からは暗殺者のように物騒な格好だ。


 着慣れない身なりにシウランが不満を言う。

「ルァ、この格好だと、動き辛いぞ。わざわざここまでする必要あるか?」

「シウラン、客も店員もダークエルフ以外入店禁止なのよ。文句言わないで」

「ダークエルフって物騒だな……。ヤベェ魔法とか化け物とかがいるのか?」

「そういう偏見から差別が生まれたのよ。いい!? アイツらただの肌が黒いだけの耳長族なの。悪魔の手先とか、そんなの、下らない神話物語とか陳腐な英雄伝説の本で描かれてるだけよ。いい? 黒いエルフのちょっと物騒な奴等の所に行って、穏便に子猫を取り戻すだけよ」

「……黒い、とか耳長、とかも差別的な言葉じゃねーかな?」

「し、着いたわよ」


 スラムの外れ17番通りに着くと、通りの住民は殆どがダークエルフで溢れている。


 人波を掻き分け、その通りの果てにある篝火で照らされた絢爛豪華な建物を目指した。

 そしてたどり着く。


 キャバレー、グラント。

 照明のせいで金色に輝くその建物はピンクや紫の落書き塗れであり、中から賑わう人の声が聞こえるも扉の前には、用心棒兼店番と思われる二人組のダークエルフの男しか立っておらず、客の出入りがないのが不気味だった。

 カタギのシウランとルァはその建物から滲み出る危険な気配に思わず怯む。

 ちょっと引いてるシウランにルァが囁く。

「ビビってんじゃないわよ、喧嘩最強。よほど闘技場の相手は腑抜けだったのね」

「別に怖かねーよ! ちょっと慣れない場所だから気後れしただけだ。よし! キアヌを取り戻しに行くぞ」

 勇み足を踏もうとするシウランにルァが呼び止める。

「ちょっとシウラン、相手はギャングよ。絶対暴力で解決しようしないでね。ここで喧嘩でもしたら、明日から私達、ギャングに追われるハメになるのよ。あと、黒いとか耳長とか言っちゃダメよ。差別用語禁止、いい?」

「けどどうやって入んだ? 黒服のダークエルフに『2名です』って言えばいいのか?」

「ったく、見てなさい」

 ルァがズカズカと店に入ろうとする。

 すかさず黒服がそれを止めにかかった。

 するとルァは無言で金貨二枚とハッパの束が入った袋を黒服に手渡す。

「……ビジネス。……ジャン、殺った……。スーフーヤー……マシュマー……依頼……報告……」

 シウランは耳を疑った。

 ルァが男のような低く、不気味な声で二人組の男に話しかけたからだ。

 ルァの言葉に、二人のダークエルフはニヤリと笑い、ついて来いと言わんばかりに顎をしゃくり、扉を開け、中へ案内した。


 店内は豪華で煌びやかに装飾されており、奥の客席の先には楽団が賑やかな楽曲を奏で、それに合わせるように客は踊っていた。

 華やかで際どいドレスを着た派手な嬢達が明らかにカタギとは思えない客席達に酌をしている。

 機嫌をよくした客が金貨をばら撒けば、嬢達はシウラン達が見たこともないような、クネクネした踊りを始め、ドレスをチラリとはだけながら、客の腰に手を回す。

 無論、全員ダークエルフだ。


 顔中、獣のタトゥーまみれのダークエルフの嬢とすれ違ったシウランは思わず声を上げてしまう。

「親から貰った身体になんてことを……!」

フードを深く被ったルァがシウランを肘で小突く。

そして小さく囁く。

「やっぱりビビってんじゃないの。お願いだからボロ出さないでよね」

 小声でシウランは返す。

「……怖かねーっつったろ! ……それよりよくあんな声出せたな……」

「……私、子供の頃から腹話術得意だったのよね」

 流石に挙動不審の動きを見せるシウランを怪しく思った男の店員がシウランの肩を掴み、呼び止める。

「ちょっと待てお前……」


 黒服の男の言葉が途中で遮られてしまった。

 シウランの肩に触れた。

 すると反射的にシウランの鍛え抜かれた身体が動く。

 瞬時に腰を右回転させ、男の鳩尾に横回転させた右肘が炸裂した。

 その勢いのまま、当てた右肘から右裏拳が繰り出され、それが男の顎に衝撃を与える。

 繰り出された一瞬の連打に男はたまらず、床に崩れ落ちようとするが、それは許されなかった。

 シウランは放った右手の軌道を残し、男の胸襟を掴む。

 そして全身の体重をかけた左回し蹴りを容赦なく顔面にお見舞いした。

 シウランが手を離すと意識を喪失した男が崩れるように床に倒れ伏す。


 一方的な暴力。


 しかし、あまりに鮮やかなシウランの攻撃の技裁きに周囲は氷つく。

 傍らにいたルァは思わず言葉を失い、その場から逃げようとしていた。

 シウランは自分でもビックリするくらいの低い声で全力で誤魔化す。

「……この黒耳……。……俺の背後に立った……。……俺の後ろに立つ奴、みんなこうなる……」

 すると、わっとダークエルフ達の歓声が湧き起こる。

「流石アレンティ兄弟だ!」

「ウチの若いモンを一瞬だぜ!?」

「やっぱり100人殺した噂は本当だったんだな!」

「今の動き、マジで伝説の始末屋だ!」

「ウチの連中は身の程をわきまえた方がいいな!」

「アレンティ!アレンティ!アレンティ!アレンティ!アレンティ!」

 シウランが逃げ出そうとしてたルァを捕まえ、小声で尋ねる。

「おい、誰かと勘違いされてんぞ! 誰だアレンティ兄弟って!?」

 ルァは首をぶんぶんと横に振る。

「私が知るわけないでしょう!? どうするの!? この状況!? あれだけ暴れるなって言ったのに!」

 すると先程門番をしていた黒服の男が頭を下げる。

「失礼したな、ウチの若いヤツは相手を見ることを知らないんだ。丸腰なのにウチのアジトに来るなんてアレンティ兄弟くらいだってのに……。ボスがお待ちだ。すぐに案内する」


 店の奥へと案内される二人は状況を切り抜けたことへの安堵した。

 そして理由のわからない賞賛に言いしれぬ不安を抱きながら、グラントの奥へ進む。

 ここを牛耳るギャング、スーフーヤの頭目、マシュマーの元まで足を歩めた。


 好奇と羨望の視線を浴びながら、シウランとルァの二人は思う。


 絶対勘違いされてる……!


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