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57話  ライエルの悲劇③


 惨劇の夜が幕を上げた。


 熱々のシチューの入った鍋を囲むシウラン達。

 そこに突然発作を起こし、倒れ崩れたイズモ。

 救護のためにシウラン達は彼の介抱をしていた。


 仲間の一人が急に倒れた。

 いったい何故?


 そんな疑問が頭に過りながらも、すぐに痙攣したイズモの応急処置にシウラン達は懸命に動いた。

 床に溢れたシチューを眺めてシウランが呟く。

「まさか海賊の仕業か!? 料理に毒でも仕込んだのか?」

 イズモの容体を見るルァが首を振る。

「いいえ、このシチューは皆んなが食べていたわ。現にシウランなんかピンピンしてるじゃない。けどイズモだけが倒れた……。毒殺を仕掛けるなら皆んなが倒れてなきゃおかしいわ。食中毒の線も薄いわ。妙ね……。デーヴァ、イズモの容体は?」

「全身の皮膚に重度の発疹が発生してます。また、意識無し、呼吸は浅く、脈拍も異常に速いです。この様子では適切な処置をしなければ一時間以内に絶命するでしょう」

 オロオロするライエルがシラを切りながら尋ねる。

「シチューを食べる前は元気でしたよ? けど僕はシチューに変なものなんて入れてませんよ!?」

 狼狽えるライエルは発言にすでにボロを出している。

 ライエルも内心焦っていた。


 まさか玉葱を食べてしまったのが原因か!?

 野菜の好き嫌いではなく、食べれない身体だったのか!?

 知らなかったんだ!

 僕のせいじゃない!


 ライエルは白々しくシウランに呼びかける。

「そうだ、複体修術だ! あの回復技で治してあげてくださいよ!」

 無念そうな顔をしてシウランが首を横に振る。

「複体修術じゃ傷は癒せても、解毒はできねぇ……。チクショウ! 海の上じゃ医者も呼べねぇ! どうにかなんねぇのか!?」

 澄まし顔のルァがポケットから手帳を取り出し、冷静な言葉をかける。

「落ち着いて、皆んな。この症状、前に見たことあるわ。前にハッパ吸って昏睡した奴が同じ症状だったのよ。今薬剤のレシピを読み返すから。レシピで調合した薬を飲めば助かるわよ。作るのは初めてだけどね」

 そのルァの言葉にイズモを囲う皆の瞳が希望の光を見出す。

 無邪気にシウランがルァの青髪を撫でる。

「流石相棒! 伊達に薬師やってたわけじゃねぇな! 頼りになるぜ!」

 犯人のライエルもホッと胸を撫で下ろす。

 しかしルァがレシピのページを見て、声を震わせる。

「何これ!? こんなモン調合しなきゃならないわけ? 冗談でしょ? けど調合後の薬は以前棚に並んでたヤツと同じだわ。作るの嫌だけど、死なせる訳にはいかないわ……」

 そしてルァは真顔でライエルに指を示す。

「……ライエル、ザーメンを出しなさい」

 ライエルは固まる。


 今なんて言った?

 うら若き乙女の口から、ザーメンを出せという言葉出てきたのは聞き間違いか?

 

 恐る恐るライエルは確認する。

「……今なんて言いました?」

「薬の材料に人間のザーメンが必要なのよ。早く出して。イズモが死んじゃうから」


 なんだそのクソッタレな薬のレシピは!?

 今ここで出せと!?

 歳はもいかない少女達の前でセンズリしろというのか!?

 そもそもこんな状況で勃起なんてできる訳がない!

 変態じゃないか!


 無垢なシウランが皆に尋ねる。

「ザーメンってなんだ? ライエルしかできないことなのか?」

 無表情のデーヴァが解説しようとする。

「ザーメンはいわばスラングです。正しくは男性の精巣内で作られる精液のことで男性器の海綿体を刺激……」

 デーヴァの説明をルァは制止させる。

「あー! あー! シウランは知らなくていいの! ライエル、いいからマスかいて出して」


 事態は逼迫している。

 今ここでライエルがセンズリしなければ、イズモの命は助からない。

 ライエルとて、男として、いや名門の家に連なる一人としての矜持はある。

 しかしそれすらも捨て去り、ただ盛った猿のように本能向き出しの行為をするのには抵抗がある。

 だがこの場合、罪悪感が勝っていた。


 入れるなと言われた玉葱を憂さ晴らしに大量に入れて、仲間を今殺しかけている。

 覚悟を決めたライエルがベルトを外し、ズボンを脱ごとうする。

 すると少女達が大きな悲鳴を上げた。

 そしてライエルの顔に皿が叩きつけられる。

「誰がここでしろって言ったのよ!? トイレ行って一人でやってきなさいよ! この変態! あ、私達のことオカズにすんじゃないわよ! 気色悪いわ……」


 少女達の厳しい眼差しを受けながら項垂れるように、ライエルはコップを片手にトイレへと向かう。

 自分がこれからナニをするのか知られているのがライエルには辛かった。

 デーヴァのぼんやりした目、シウランの困惑した目、ルァの汚物を見るような目、三人の視線がライエルの心に突き刺さる。

 

 トイレのドアノブを手にかけ、ライエルは運命を呪う。

 

 神はいないのか……。


 そして祈った。


 どうかこれから行う行為で屈辱的な渾名がつけられないように。

 ライエルは内心思った。

 

 まだ小便を漏らした方がマシだったじゃないか……。

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