54話 報奨金の使い道
翌日、オスマン自治領はその自治権を領主から領民に譲渡した。
その地に住まう者が皆、政治に参加する権利を与えられ、この地の秩序を回復させ、守ることに皆が躍起になっていた。
当然、砂の団も解体された。
ルドラやナレスも今やこの地に住まう領民の一人となった。
使用人という名の奴隷も解放された。
この地に住む者は平等に生きる権利を得た。
市場に流れた偽金貨の流通も止まり、物価の高騰も次第に回復していくだろう。
シウラン達は馬車で街の中へ巡り、旅に必要な物資を買い出していた。
シウランはルァとデーヴァ共に旅に必要な衣服を買い出していた。
仕立て屋でルァが調子に乗る。
「絹のドレスはないかしら? 王族が着飾るような上等なものが欲しいわ」
シウランが溜息をついて、突っ込む。
「ルァ、船旅にそんな服いらねーだろ? こんなに服買い込みやがって……。食糧の買い出してるイズモに叱られるぞ」
「ケチなこと言わないでくれる? 私には金が大量にあるのよ。シウランこそ、胴着や作業服ばっかり着てないで、オシャレなドレスの一つぐらい買ったらどうなの? デーヴァを見習いなさい」
ルァが指で示すとデーヴァが店員の言われるがままにコーディネートされた高級な衣服を着飾っている。
とても旅に耐える機能性は無い。
どこぞの貴族令嬢が晩餐会に行くかのような格好だ。
シウランは頭を掻きながら店員を追っ払う。
「デーヴァも店員の相手なんかすんな! アイツら俺達が金持ってるの知ってるから、妙なもん買わせようとしてんだよ!」
無表情のデーヴァは首を傾げる。
「お言葉ですが、シウランは衣服のレパートリーが少ないと判断します。人間は見た目で人を判断するとこの街で学習しました。金が豊富な私達は着飾ることで他人を畏怖させるのが好ましいと判断します」
「ガチでクソな街だな。お前におかしいこと覚えさせやがった。段々お前が嫌な奴になってきているのは気のせいか?」
ルァが悪い笑みを浮かべながら、シウランの肩を叩く。
「デーヴァの言う通り、貴方もスタイルいいんだからドレスの一つぐらいは買いなさい。これからの旅で偉い人に会うこともあるかもしれないわよ。あ、後でハーブショップに行って高級ハッパ買い込まなきゃ」
ルァの言葉も一理あった。
ルドラもナレスも元々この街の上流階級の人間であった。
あの時は状況とルドラ達の人格者であったから問題なかった。
シウランも服を着飾るつもりは無いが、場合によっては今後恥をかくこともある。
ルァとデーヴァに流されるように、気付いたらシウランは純白のドレスに手をかけてしまった。
馬車の中でイズモが不機嫌そうにタバコを吸っている。
そして額に青筋を立てる。
「これから舞踏会にでも参加する気か、お姫さん達よぉ……。そうだろうな、お前ら踊るの大好きだもんな。俺知ってるよ。昨日の踊りで調子に乗っちゃったんだよな? にしてもこんなに山ほど服買ってどうする!? 洗濯するライエルの気持ちも考えろ!」
イズモの眼前にはドレスを着飾った三人が座らされていた。
申し訳なさそうにシウランがそっぽを向き、デーヴァは何故怒ってるのか理解できないといった表情だ。
悪びれる素ぶりも無くルァは文句を言う。
「いつも思うんだけど、何でライエルが乙女の私達の服を洗ってるのよ。正直キモいのよ。アイツ、変なことしそうだし」
「だったらお前ら自分の服ぐらい自分で洗濯しろ! お前らが家事全くやらないからライエルが洗濯してんだろーが! あと、旅の仲間をそういう目で見るのはやめろ。もっとチームワークと思いやりを持て」
馬車を運転するライエルが振り返る。
「私がどうかしましたか?」
イズモが手を振る。
「ああ、大丈夫だ。誰もお前のこと洗濯するしか能が無いとか言ってない。そうだ、お前は古代文明に詳しいトレジャーハンターだもんな。海の上じゃ何もできないのは知ってる。だからいつも頑張って家事とかやってんだもんな。ああ、ちゃんと前見て運転してくれ、危ないから」
昼が過ぎ、ダキアの街を抜けて、廃村の浜辺に隠したシャイン号に辿り着く。
シウラン達を探知したシャインが船外から音声を響かせる。
「おかえりなさいませ、皆様。ずいぶん長い買い出しでしたね。ちょっと放棄されたかと心配しましたよ」
シウランが肩を竦める。
「お前みたいな奴でも冗談言うんだな」
「いいえ、冗談ではありません。燃料が切れかかってる私を乗り捨てたと本気で心配しました」
イズモが首を傾げる。
「燃料? よくわからんけど、お前さん魔法の力で動いてるんじゃないのか?」
「確かに動力部は極めて精密な魔導システムで起動しています。しかし燃料が無ければ動力炉は動きを止めてしまいます。わかりやすく言うなら、私だって人と同じようにお腹が空けば動けないのです」
シウランが訝しんで尋ねる。
「お前何食ってんだよ? 魚とか肉とかじゃねーよな?」
「原子番号79Auです。流体が好ましいですが、個体でも問題ありません。こちらで融解します。満タンまで重さにして50キロですね」
「原子番号?」
「ああ、馬車の荷台に山積みに! 皆さんサプライズに私にプレゼントしてくれたんですね!」
皆が一斉に振り返る。
馬車の荷台には褒賞の金貨の山があった。
一同の空気が急に重たくなる。
冷たい風が皆の間に吹いていった。
誰もが聞きたくないことだった。
しかし確認しなければならなかった。
シウランは声を震わせてシャインに尋ねる。
「お前の食い物って……。まさかアレか?」
「あれぞ正しく原子番号79、金です。皆様、ありがとうございます。あれだけあれば十分な船旅が出来るでしょう。目的地までは少々不安ですが」
シウラン達は痛感した。
こいつはとんだ金食い虫だ。
古代民族が遺跡に封じた理由も納得できる。
ルァが最後まで抵抗していたが、断腸の思いで褒賞金をシャインに譲り渡す。
シャインが不満を言う。
「不純物が多いですね、純金が好ましいのですが」
それを聞いたルァが絶叫する。
ルァの悲痛な叫びは水平線の先まで轟くようだった。
その夜、ルァは枕を濡らして泣き続けていた。
シウランは涙に溢れる相棒にどう声をかけていいのか、わからなかった。




