53話 円踊の夜
太陽が沈み、夕暮れ時となり、ダキアの街が夜に染まる。
すでに街に放たれた火は消化され、今はオスマン領地の民衆が大挙して、街を埋め尽くしていた。
腐敗した領主と偽の金はすでに浄化され、オスマン自治領には新しい風が吹こうとしている。
それを祝うように、街では宴が開かれる。
そこには千差万別の人々が集っていた。
富を持つ者持たざる者、領民も外国人も入り混じる。身分を問わず、人種も問わず、エルフやリザードマン、ドワーフ、獣族も笑顔に満ち溢れている。
まだ街に平穏が訪れた訳ではない。
しかし皆がこの街が生まれ変わるこの瞬間に歓喜していた。
冷たい夜風なぞお構い無しに、皆が上着を脱ぎ、身をはだけさせて、景気の良い歌を声高に張り上げ、笑顔で舞い踊る。
シウラン達は宴の席で共に喜びを分かち合っていた。
ルァは報酬金の金貨の山に埋まりながら勝利の美酒に酔う。
「これよ! 念願の金銀財宝に囲まれて、幸せが一杯だわ! イズモ、おかわり!」
金の亡者となったルァに辟易しながら、イズモが酌をする。
「はしゃぐのはいいが、品を弁えろ。しかし、この連中はこれからこの街がどうなっちまうか不安じゃないのか? みんな、誰もが無邪気に笑い合ってやがる」
イズモが呟くと、半裸のルドラが酒の匂いを漂わせながら、礼を告げに現れた。
「勿論、民草はお上の政なんか分からんさ。けどな、何となく風を感じることはできる。そういう機微に敏感なんだ。この街が生まれ変わろうとすることが肌で伝わってきているのさ。それに皆んなの顔を見てご覧よ。誰もが明日から頑張ろうって顔をしている。今回の件は苦労をかけさせてしまった。すまないとは言わない。ありがとう、と感謝の言葉と礼金を贈る。さぁ今宵は楽しんでくれ!」
キアヌを膝に抱きながら、デーヴァが果実酒を舐めて、ぼやく。
「人って理解に苦しみますね。僕には何故ここの人達が笑っているのかわかりかねます。現在この街は政治転覆が武力で敢行され、統治機能を失っています。現在この街は無法地帯となっています。極めて危険と判断します」
そこに傷が癒えたナレスが現れ、デーヴァに諭す。
「無論、不安は皆が心の内にある。だがそれよりも金に縛られた心を解き放たれたことに謳歌しておるのだ。自由という風に満喫しておる。民草は衣、食、住を得たところでその内に秘めた欲を満たすことはできん。人としての尊厳、人間としての自由、この二つの欲望を満たしてやらねばならない。政りごとはわからずともこうして祭ることによりその成就を切願しておるのだ」
デーヴァは首を傾げる。
「ナレスさんの説明は抽象的過ぎて理解できません」
デーヴァの反論にナレスはクスリと笑みを浮かべ、泥酔したライエルの方へ指を指す。
「お仲間は満喫しておるようだ。めでたき宴だ、お主も見習え」
酩酊状態のライエルをイズモが叱る。
「ライエル! そんなところでションベンするな! 何思いっきり酔っぱらってやがる! お前、今回全然役に立ってねーだろ! 俺達は観光に来たんじゃない!」
全裸で踊りはしゃぐライエルをよそに、シウランは対照的に静かに佇んでいた。
先の戦いではジークに実質的に敗北していた。
シウランは痛感した。
もっと強くなる必要がある。
もっと力が欲しい!
その焦燥感に駆られていた。
それを紛らす為に強い酒をあおる。
しかしいくら飲んでもその心を誤魔化すことはできなかった。
「クソ、いくら飲んでも酒が不味い。心が病んでる証拠だぜ……」
するとシウランの赤い頭に花飾りが置かれる。
シウランが見上げるとルァとデーヴァがいた。
不服そうなルァと不安気なデーヴァ、二人がシウランに声をかける。
「よくわかんないけど、女はこの花飾りを身に着けて踊れって言ってるわよ。ホントに頭が花畑の連中ね」
「シウラン、僕もみんなと踊れば、みんなが喜んでいる理由が理解できますか?」
シウランの耳に華やかな楽器の音色が聞こえる。
見渡せば、この街の若い娘達が曲に合わせるように楽し気に踊っていた。
そして困惑していた二人に目を映す。
シウランは苦笑いしながら、席を立ち、両手で二人の手を引っ張る。
うじうじ悩んでてもしょうがねー、せっかくな祭りだ。
楽しまなきゃ損だぜ。
慣れない踊りに戸惑う二人をリードするように、シウランは舞った。
汗が滴るほど、激しく身体を動かして、華麗に舞い踊る。
不慣れなルァやデーヴァもシウランに合わせるように、音色に乗って舞う。
赤い髪、青い髪、黒い髪が夜風と華やかな舞踊によって靡いていていった。
三人の美しく舞う姿に観客達は歓喜の声を上げる。
シウランはそれに応えるように、焚き火を背に鮮やかに舞う。
心の憂さを晴らすように、踊りに熱中する。
自然と顔に笑顔が浮かんでいく。
ルァも、デーヴァもその舞いに不思議と顔が綻んでいく。
曲調も激しくなり、三人は肢体を激しく揺らし、無邪気に微笑みながら華麗に舞い踊った。
街に集まった男達は三人の少女が舞う姿に見惚れている。
その美しさに瞳を完全に奪われていった。
シウランはそんな眼差しを意に返さず、ひたすら舞い踊る。
三人の少女の美しい円舞に夜のダキアの街が彩られていった。




