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52話 対決! ジーク③

 

 ダキアの街の上空では雷雲が渦巻いていた。


 急な五月雨と雷がダキアの街を覆う。


 大雨の中、雨粒に打たれ、気力も体力も限界のシウランはただ立ち尽くしていた。


 必殺の一撃で全てを出し尽くていたシウランはただ立つのが精一杯だった。

 そんなシウランの眼前に稲光りを帯びたジークが五人、今まさに必殺の奥義を放とうとしていた。

 奇しくもシウランと同系統の魔法の使い手、雷魔法も使う魔術士、それがジークの正体であった。

 ジークの漆黒の髪が静電気で逆立つ。

 そして神に祈りを捧げるように、両手で印を結ぶ。


「秘技、降龍雷蓮掌」


 天空から雷がジーク目掛けて舞い落ちる。

 ジーク一人ならその雷を浴びれば、ただ焼き焦げるだけだ。

 しかし全身を放電させ、それを五人がかりで受け流す。

 雷そのものを利用し、その膨大な電気エネルギーの塊を、ジークはその両腕に宿し、収束させた雷の掌打を相手の身体に叩き込む。

 相手に雷を直撃させる必殺の奥義。

 それがシウランの身体に叩き込まれた。


 豪雷の眩い光がシウランの身を包み込む。

 雷鳴が鳴り響き、周囲に瞬く閃光が走る。


 倒れたナレスが思わず目を閉じ、その目を開けるとそこには焼け焦げた影しかなかった。


 勝負はあった。


 そう思った。


 技を放ったジークでさえも。


 しかし、ジークは違和感を感じた。


 突如として降り出した雨。

 当然雨風にジークの身は包まれていた。

 しかしジークの眼前にはあるはずの雨の景色がない。

 まるで硝子に映されたかのような空間が広がっている。

 そしてジークは周囲をよく観察する。


 そこには先ほど投げ倒した青髪の少女、ルァの姿がない。


 してやられた!


 そう痛感した時、胴体に猛烈な衝撃と電流が直走る。


 ジークが飛びそうな意識の中で見た光景には、自身の懐に入り込んだシウランが紅い閃光を放ちながら、強烈な蹴撃を叩き込んだ姿だった。


 ジークは自身の心臓の鼓動が止まるのを自覚した。

 そして、悟る。


 この赤髪、意趣返しと言う訳か……!


 あまりの衝撃にジークの身体は吹き飛ぶ。

 その身が電熱により焼き焦げながら。


 それを見届けるシウラン。

 その背中の影に隠れ潜んでいたのは水魔法を自在に操るルァであった。


 ルァは突然降り出した雨を利用し、シウランを水の膜で覆い、ジークの必殺の雷撃を、その雷を水で受け流していた。

 雷属性のあるシウランはその膨大な電気を帯びた水を利用した。

 失った気タオを電気の水を浴びて吸収し、回復させたのだ。

 そして雷のあり余る電気エネルギーを攻撃に転用し、二度目の必殺の「瞬雷」と共に、ジークの放った必殺奥義を模倣し、炸裂させた。

 

 両者の考え方が勝敗を分けた。

 

 途中、ジークはシウランとの一騎打ちに興じるようになった。


 一方のシウランはこの戦いの始まりから、ルァと二人がかりでジークを倒そうとした。


 そして闘いの最中、ジークはシウランにばかり注目し、ルァの存在を忘れていた。


 始まりはルァの目眩しの幻で不意を打たれたのにである。

 


 無様に倒れ伏すジークを見て、シウランとルァの二人は両手で手を叩き合わせる。

 お互いが勝利の笑みを見せ、すぐに手負いのナレスの元へ駆け寄る。

「大丈夫か、坊さん。ひでぇ傷じゃねぇか……」

「見事な戦いであった。やはり儂の目に狂いはない……」

「シウランより、複体修術が上手いから心配いらないわよ。あんたがバキバキにへし折った肋骨も一晩で治したんだから。弁務官やら帝国の軍隊はちゃんと潰しておいたから、謝礼金忘れないでよね」

 シウランが呆れるようにルァを見る。

「ルァは本当に金のことしか考えてねーな」

 ルァはふくれ面で太々しく言い放つ。

「何よ、ちゃんと働いて稼いだ対価よ。当然じゃない」

 二人を交互に見て、寡黙なナレスが微笑む。


 その時、背後から低い声が響き渡る。

「残心を忘れているぞ。お前ら……。師匠に教わらなかったのか……?」


 シウランとルァが同時に振り返ると、ジークが殺気を放ちながら、静かに立っていた。


 さらに驚愕したことがあった。

 そのジークの隣には以前遭遇した銀仮面の男が立っていた。


 戦意旺盛なジークが身を雷光で包みながら、ぼやく。

「働くのはいい。素晴らしいことだ。だが金よりも大切なことがある。それは強い奴と戦うことだ。闘争本能を満たす喜びは何事にも勝る。もっとだ、もっと楽しませてくれ」


 シウランもルァも満身創痍であった。

 先の戦いも幸運で掴み取ったものだ。

 それ以上に、このジークという男はまだ力を隠している。

 さらに傍らにいる銀仮面の男、コイツは今の自分達では相手になる男ではない。


 二人は顔を引き攣らせ、身を強張らせていた。

 すると銀仮面の男がジークに告げる。

「ジーク、貴方の楽しみを奪うつもりはありませんが、仕事が先決です。この街での失態。最早我々では庇い切れるものではありませんね。上に報告が必要です。ここは大人しく退場しましょう」

「シュナ! 邪魔をするな! これは神聖な決闘だ!」

「決闘? 相手は女、子供なのに? ジークともあろう戦士がこんな歳端もいかない少女相手にムキになっているのですか? それよりも貴方が大切にしている仕事の報告です。報告、連絡、相談、基本を守りましょう」

 銀仮面の男の言葉にジークは項垂れ、身から宿していた稲光が静まる。

「……そうか、そうだな。これだから仕事は嫌いだ、大嫌いだ。忌々しいがやらなければならないな。失敗しました報告なんて、一番大嫌いなことだ。だが、仕事だからしなきゃならんな。それがプロだ」

「一緒に謝ってあげますよ、ジーク」

「だが、そこの赤髪と青髪! シウランとルァと言ったか? お前らの顔と名前は覚えた。仲間に伝えておく。情報共有は大切だからな。特に赤髪のシウラン、お前はもっと修練に励んでこい。今度はサシで付き合え! 死ぬまで死合うからな!」

「ジーク、レディにはもっと紳士的に振る舞って下さい。悪い大人の見本ですよ。ではお嬢様方、ご機嫌よう


 銀仮面の男が指をパチンと鳴らすとトランプが舞う。

 無数のカードが飛び交うと共に、ジークと銀仮面の男は姿を消した。


 

 あえなく難が去り、シウランとルァの二人はその場にへたり込む。


 気力、体力、全てを使い切っても勝てなかった。


 この世界には自分たちよりも強い存在がいるという現実を突きつけられ、深い敗北感を味わった。


 思わずシウランは身震いした。


 未知の強者と戦える高揚感に身を震わせずにはいられなかった。


 何より先の戦いはジークの言葉通り、金では手に入れることができない、シウランの闘争本能を刺激した。


 気づけば、降り出した雨は止んでおり、雨雲から陽光の光がシウランを照らし出していた。


 空は青になっていった。

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