47話 ダキアの悪夢
砂嵐が草原を舞う。
砂粒が軍勢の兵士達にぶつかる。
砂が甲冑や装備品に入り、それを払おうとする兵士達。
砂塵に人影がゆっくりと近づいてきていることに気付かなった。
その人影の正体はルァである。
ルァは長い詠唱を唱えながら、手で印を結び続けていた。
自身が近づいてきているというのに、それに気付かない帝国兵達に嘆息していた。
この砂風自体が自分のこみ上げた魔力の余波だというのに。
ルァは無詠唱で魔法を放つことができる。
今長い詠唱を唱え、丁寧に魔法陣の印を結ぶのは、これから放つ魔法の威力の底上げ、そしてルァが持っている魔法の中でも奥の手に入るものだからである。
事実、ルァはこの魔法を放つ為に、詠唱と印を結ぶという手順を踏む必要があった。
その魔法の標的から距離が離れていること、そして標的が無防備だからこそ実現できた。
詠唱を終え、放つ魔法に指向性を与える為に最後の印を結び終える。
両腕を高く上げ、十字にクロスさせ、その腕をゆっくりと下ろして、自分の顔の前で叩く。
そして閉じた両手を緩やかに開く、ルァの不敵な表情が徐々に手の中から開かれていった。
ルァの口元が歪む。
「超級魔法、流水接天」
ルァの全身から、幾重もの水流が放たれる。
その水流が何十にも折り重なり、いくつもの巨大な水の竜巻が形成されていった。
激しく、巨大な水流が渦となって、雷鳴を放ちながら、まるで海の巨大な渦潮のような嵐へと変化していった。
帝国兵士達は驚愕した。
突然目の前に大津波のような竜巻が現れたのだから。
その巨大な水の質量を前に立ち尽くすことしかできなかった。
硬直する帝国軍勢にルァの超級魔法は容赦なく襲いかかる。
その強烈な濁流に次々に飲み込まれる兵士達。
巨大な水刃となって、集められた帝国軍勢はズタズタに切り裂かれる。
水でできたハリケーンによって帝国の兵士達は次々に餌食になってしまった。
恍惚の表情を浮かべるルァ。
「ふぅ、久しぶりに本気出しちゃったわ」
運良くルァの水魔法の地獄から逃れることができた帝国兵士達が逃げるようにダキア街門へと逃れようとしていた。
とにかく逃げねば、その一縷の思いをかけて門へと目指す。
しかしそれは無情にも阻止された。
赤髪の少女が立ち塞がっていたのだ。
「誰一人逃しはしねぇ。覚悟しろテメェら!」
シウランはルァに共鳴したかのように昂っていた。
無理もない。
自分の相棒がとっておきの技を披露したのだ。
自分も負けてはいられないと体内に宿る膨大な気を天まで昇るように放出し、まるで猛獣の顎のような気の塊を形成させる。
ルァの超級魔法に呼応したシウランの気は膨大なものとなった。
それはまるで巨大な肉食獣を彷彿させた。
帝国兵は立ちすくむ。
眼前にティラノサウルスが現れたかのような恐怖に駆られてしまった。
シウランがありったけの雄叫びを上げる。
それは巨竜の咆哮であるかのようだった。
逃げ惑う帝国兵士達にシウランの牙が容赦なく襲いかかる。
帝国兵士達の逃げる足より速くシウランは猛追する。
獣の顎によって無惨に喰い破られるかのように、帝国兵士達は戦場に散らされていった。
そして残存兵達はその牙の餌食になり、喰らい尽くされる。
縦横無尽にシウランは戦場を駆け抜けた。
紅い閃光がダキアの平原をひた走る。
金属で固めた甲冑が無惨に砕け散っていった。
剣や槍といった武器も残らず破壊されていく。
帝国兵はその閃光に恐怖のあまり、瞼に焼き付けられてしまった。
そして、誰一人残らず意識を失っていった。
突如現れた少女二人に、帝国軍勢はなす術なく無惨にも蹂躙の限りを尽くされてしまった。
たった二人に何の抵抗も出来ずに倒れていったのだ。
帝国兵士達は二人の少女の悪夢にしばらく魘されることになった。
後世まで『ダキアの悪夢』と語り継がれることとなった。
合流したシウランとルァ、それにイズモやライエルディーバは街に向かって行ったルドラ達が気掛かりであった。
すぐに彼等の元へと向かった。
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