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42話 あかずきんシウラン


 満月の下、月明かりを頼りにシウラン達は漁村の廃屋に潜り込んでいた。


 じっと覆面の少年が現れるのを待って、張り込んでいた。

「盗賊団って夜何してるんだろうな?」

 シウランの疑問にルァがハッパを吸いながらいい加減に答える。

「さぁ寝てるんじゃない?」

 イズモがすかさずツッコむ。

「そんな訳あるか! 昨日の夜に襲われたばっかだろうがお前ら! 奴等は必ず夜に動く」

ライエルが不安そうな声を上げる。

「こんなに暗くちゃ見えるものも見えませんよ……」

 シウランが首をコキコキと鳴らして、坐禅を組む。

 そして全身の(タオ)を収束させ、周囲に波のようにそれを放つ。

 シウランが非難めいた目を向けながらルァに文句を言う。

「お前もやれよ」

「いやよ、波門は疲れるし、貴方の方が遠くに飛ばせるでしょ」

 デーヴァが二人のやり取りに疑問の声を上げる。

「シウランは何をしているのですか?」

 ルァが代わりに答える。

「波門って言ってね。全身の(タオ)を放出して、周囲の気配を感じとってるのよ。シウランの場合、軽くこの漁村ぐらいは覆えるわ」

 デーヴァやイズモ、ライエルが感嘆の声を上げる。

 そしてシウランが漁村の浜辺の方に顔を向ける。

「数人いるな。海でなんかしてるみてぇだ。姿まではわからねぇ。近くに行って様子を見に行くぞ」


 浜辺で身をひそめながら、人影の方を伺うと、覆面を被った男達が荷台に魚を積んでいた。

 イズモがそれを観察して、声をひそめる。

「どうやら食糧を調達してるみたいだな」

 ルァがハッパを吸いながら、疑問の声を上げる。

「何でわざわざ夜中に漁なんてやってるのよ」

「昼間に堂々やるわけにゃいかんだろう。奴等はお尋ね者だからな。よし、あの荷台の行く先を追ってみよう。必ず奴等の隠れ家がある」

 しばらくして、盗賊団は漁が終わり、荷台に大量の魚を積んで移動を始めた。

 シウラン達もひっそりと後を追う。

 すると荷台は廃村の井戸へと止まり、井戸の中に数人が入り込み、積荷の魚を運んでいた。

 ライエルは思わず驚きの声を上げてしまう。

「まさか井戸の中に潜んでたなんて……」

 イズモは確信した顔で頷いた。

「間違いない。あの井戸から隠れ家へと出入りしてたんだ。よし、しばらくしたら、俺達もあの井戸に入るぞ」

 デーヴァが問題を提起する。

「見張り役が配置されていると推測します」

 シウランが首を縦に振る。

「ああ、今は人の気配がする。俺の波紋で気配が消えるまで様子を見よう」

 

 ルァがハッパの吸い殻を数本、地面にポイ捨てしてたところで、痺れを切らす。

「シウラン、まだなの?」

「ちょうど人気が遠くなったところだ。潜るぞ」

 ライエルが不安を口に溢す。

「罠とか仕掛けてるかもしれませんね……」

 イズモが頷いた。

「ああ、充分注意してあの井戸の先へ進もう」


 暗い井戸の下は地下道となっていた。

 真っ暗闇の中、シウランの波紋だけが頼りだ。

 シウラン達は慎重に地下道を歩いていく。

 地下道にはネズミが小走りしていた。

 キアがそれを捕まえて、収穫した獲物をシウランに見せる。

 シウランはキアの手柄にキスで答えるが、ネズミが嫌いなルァは眉を顰めた。

「キア、そんなものどっか捨ててきなさい。いつまでも嬉しそうに咥えてんじゃないわよ」

 するとシウランがルァの歩みを手で制する。

「俺の波紋に反応がある。この先に人の気配があるぜ」

 シウラン達は壁に忍び寄りながら、通路の先へと注視する。

 閉ざされた門の前に人の姿が見えた。

 何やら合図のような言葉を放っていた。

 それに耳を澄ませる。

「合言葉は?」

「開け、ゴマだ!」

 すると門が開かれ、人影はその中に入り、再び門は閉ざされた。

 シウランが告げる。

「門の先には人の気配が山ほどいやがる。なぁ流石に疲れたから、波紋解いていいか?」

 イズモが肩叩く。

「上出来だ。門の合言葉もわかった。波紋とやらはもういいぞ」

 ルァ達は合言葉を利用して門を開けようとしていた。

 しかし例外がいた。

 そして誤算があった。

 無警戒なシウランが門の前に立ったのだ。 

 そして全身の力を込めて、門を蹴破る。

 門番はシウランによって吹っ飛ばされた門と共に巻き込まれるように投げ出される。

 門の先には地下街が広がっていた。

 眩しい街の灯りが闇に慣らされたシウラン達の目が眩んでしまう。

 良く見ると、その地下街には大勢の住民がおり、何百という瞳が殺意を込めて、シウラン達に視線を浴びせていた。

 その剣幕にライエルは思わず腰を抜かす。

 すかさずルァがライエルを担ぎ上げた。

 シウランもデーヴァを抱き上げていた。

 そしてイズモが一斉に合図の声を張り上げる。

「逃げるぞ!!!!」


  住民達に追いかけ回されたシウラン達は地下街の奥へと駆け出していた。

 逃げれば逃げるほど追う数が増えていく。

 シウラン達は走りながら、人気のない区画へと向かって行った。

 そしてまるでニュークのスラムのような路地裏へと行き着く。

 追っ手を振り切りながら、路地奥にある空き家と思われる民宿へと入り込んだ。


 顔を真っ青にしたイズモが狼狽える。

「なんなんだここは? 街? なのか?」

 抱えたライエルを投げ捨てたルァが溜息ついた。

「盗賊団ってのはずいぶん大所帯ね」

 デーヴァを優しく下ろすシウランが首を傾げる。

「けどあいつら覆面つけて無かったぞ」

 地面に這いつくばるライエルが答える。

「表に出る時だけは覆面被ってるんですよ! 私だって家の中じゃ靴下脱ぎますよ!」

 すると逃げ込んだ家屋の奥に老婆が現れた。

 思わず警戒するシウラン達だったが、老婆はニコリと微笑み、優しく声をかけてくれた。

「おやおや、外からのお客さんなんて久しぶりだねぇ。安心しな、外の連中に突き出したりはしないよ。この水でも飲んで、ゆっくりしておいき、お客さんは丁重に扱わないとねぇ」

 その善意の言葉にシウラン達は胸を撫で下ろし、手渡された飲み水を受け取る。


 ゆっくりとこの家屋で腰を休めることができたシウラン達はすっかり緊張がほぐれた。

 イズモが飲み水を飲みながら、安堵の声を上げる。

「何だ、この街にも話せる人がいるじゃないか……」

 ルァがハッパで一服する前に、老婆に許可をとる。

「ここ禁煙?」

 老婆は優しく微笑み答える。

「好きなだけ吸ったらええ、ゆっくりしておいき。さてと、久々のお客さんだから、料理を振る舞ってやらないとねぇ」

 老婆が台所へ向かうとデーヴァがそれを手伝いに行く。

「僕も手伝います」

 するとシウランも立ち上がって、老婆の元へ駆け寄る。

「俺も手伝うぜ婆さん。俺、婆ちゃん子なんだよ」

 ルァがやれやれといった顔をしながら、ハッパを吸い出す。

 老婆の料理を手伝っていたデーヴァが疑問を口にする。

「この街のことについて教えて頂けませんか?」

「そう急くない。料理を食べ終わったら、ゆっくり話してやるよ」

 シウランも老婆に尋ねる。

「婆さん、この家で一人で暮らしてんのか? 家族とかいねぇのかよ?」

「もう長いとこ一人暮らしだよ。家族は皆んなあたしを置いて逝っちまったよ。そうさね、孫が生きてたらアンタぐらいの歳だよ……」

 シウランは気まずそうな顔をしながら、謝る。

「悪りぃ。ひでぇこと聞いちまったな……。婆さんすまねぇ……」

「いいんだよ。孫がいてくれるみたいであたしゃ今嬉しいよ」

 その言葉にシウランは目に涙を浮かべる。

 するとデーヴァがまた疑問を投げかける。

「お婆さんの耳は何故大きいのですか?」

「あたしゃ獣族だからね。耳が大きいのさ。おかげでお前さん達の声が良く聞こえるよ」

「お婆の目は他人より大きいと判断します。何故でしょうか?」

「こりゃ生まれつきだよ。コンプレックスをズケズケと言う娘だね……。まぁおかげであんたの可愛いいお顔が良く見えるよ」

「お婆さんは何故大型の柳刃包丁を研磨しているのでしょうか? 具材に比べて不適用と判断します」


 デーヴァの言葉にシウラン達が静まり返る。


 気づいたら、ライエルは失神し、ルァやイズモも痺れて身体の自由を奪われていた。

 シウランも強烈な腹痛に襲われる。


 デーヴァの疑問に老婆が不気味な笑い声を上げながら答える。


「クケケケケケッ! それはね! あんた達を美味しく食べるためさ!」


 デーヴァの眼前に凶刃が迫る。


 しかし、シウランの手刀がそれを防ぎ、手刀と柳刃包丁の鍔迫り合いが起こった。


 痛む腹部を片手で押さえてながら、シウランは涙を浮かべた。

「何てひでぇ騙し打ちしやがる! クソババア!」

「おや、薬の効きが悪かったかい。今楽にしてやるよ、小娘!」


 すると、強烈な爆音が鳴り響いた。


 硝煙の臭いと煙の中から、火縄銃を放ったイズモの姿があった。


 額に風穴を開け、崩れる老婆。


 痺れながらも、イズモはシウランに忠告する。

「油断し過ぎだ……ホントにお前らは……」

 腹痛で思わず身を屈めるシウラン。


 皆の様子を見て、戸惑っているデーヴァは狼狽える。


 すると家の窓から白い頭巾を被った少年が愉快そうな顔をして、笑い声を上げる。

「ニャハハハ! 遊興、遊興! 聞いてた話よりずっと面白い連中じゃないか! そこの黒髪の娘。連れは助けるぞ、心配そうな顔をするな! それより笑え、笑顔が其方には似合う!」


 謎の少年の笑い声が家屋の中に響き渡った。


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