41話 金よりも尊きもの
シウラン達は日中にかけてダキアの混雑した街中を隈なく散策した。
建物の至る所、行き交う人々をつぶさに観察したが怪しい場所、人物は見当たらなかった。
眩しい日差しと湿気のこもった熱さに汗が滴り、シウランは襟で胸元を扇ぐ。
また二手に分かれて捜索をしたが、残念なことに収穫はなかった。
やむ無く合流して、大型馬車に乗り込む五人と一匹。
皆、くたびれ、意気消沈としていた。
シウランは馬車の床に向かって呟く。
「こんだけ探してなんで何も見つからねーんだよ……」
シウランの肩に乗っていたキアは盗賊を彷彿させるようなコスチュームを着て、シウランを慰める。
「キューン……」
イズモも不可思議そうに首を傾げる。
「街の連中は富裕層ばかりだ。逆におかしいぞ、この街は。まるで貧困層が見当たらない。せいぜいこの街の人間が言っている『使用人』という名の奴隷ぐらいだな……。笑っちまうよな、俺だってこの間まで会社の社畜だったのによ……」
ライエルが俯く。
「怪しい建物どころか、殆どが新築の家屋や立派な商館や屋敷ばかりでしたよ」
デーヴァが呟く。
「街を警備していたのが帝国軍の警備隊と領主の衛兵なんですね。共同で治安維持している体制のはずなのに、何だか縄張り争いをしたり、とても良好な関係とは思えません」
ハッパを吸う気力が無かったルァがぼやく。
「なんであんな馬鹿デカい図体している男が見当たらないのよ……。病院にも寄ったけど、そんな患者はいないって、いったいどこであんな火傷治療してるのよ! 不死身か、あの怪物は!」
馬車が停留所に停まり、次の乗客が乗り込んでくる。
それを見て、デーヴァが呟いた。
「驚きました。この場所は正確に時間に合わせて運転しているのですね。この停留所の到着時刻が分単位でもズレを起こしていません」
デーヴァの発言にイズモが答える。
「この街の連中は時間に五月蝿いんだよ。なんでも時は金なり、だどさ。とにかく時間でも、何でも金で捉えようとしやがる。人にも価値を付けるような細かい奴等さ。人に甲乙なんてつけやがって、何様だってんだ」
デーヴァがイズモだけでなく、皆に尋ねた。
「人の価値はどうやって決まるのですか?」
ルァが周囲の乗客を見渡して答える。
「身分ね。金持ち野朗は金で何でも解決するわ。貴族の爵位だって金で買ってるし、逆に金を持ってない人は例の『使用人』まで身分を落とされる。遺跡の金銀財宝を手に入れたら、この街に移住しようかしら」
シウランが顔を青くして、椅子から立ち上がり、周囲の街の景色を眺めながらぼやく。
「俺はこんな成金タウンに住みたくねーよ。しかしまぁ、何でこの街の連中は宝石とか身につけて、高そうな贅沢な服着てやがんだ?」
ルァが答える。
「派手で高級そうな身なりをしてれば、私これだけ金持ってるんですよって一目でわかるじゃない。案外盗賊団の正体も変装した金持ち連中なのかもしれないわね……」
イズモがルァの嫌味にくたびれかのように答えた。
「俺が金持ちなら、ここじゃなく、西側にあるベガスって街で暮らすよ。何でもカジノとか言う娯楽街らしいんだ」
「へぇ、カジノ……。ギャンブルで金を溶かす生き方も悪くないわね。今度寄りましょうよ」
「西側の国って言っただろ、俺達は東の果てに向かってるんだ。予定航路にはない。っていうか、シウラン。いつまで立ってるんだ。恥ずかしいから座れよ」
イズモの注意にシウランは反応を示さなかった。
シウランは真っ直ぐ前を見据えていた。
シウランの瞳には大きな荷物を無理に運んだ少女が、馬車道で倒れていたのだ。
それを馬を操る行者も発見し、手綱を緩め、馬車の速度を落とす。
すると乗客の中の裕福な身なりの商人が抗議する。
「何故馬車の速度落とす!? 商談に遅刻してしまうだろう!」
行者が訴える。
「このまま走れば、路面にいる少女を跳ねてしまいます。申し訳ありませんが、急停止させて頂きます」
顔を真っ赤にした商人が激昂する。
「貴様、もし遅刻して商談が破談になったらどうするつもりだ!? タイムイズマネー! 何だ使用人の子供じゃないか、跳ねたところで問題にならん。また買えばいいのだからな。それとも行者、貴様も使用人の身分に落とされたいのか!?」
するとシウランは馬車から飛び出して、馬よりも速く駆け抜ける。
そして路面に倒れた少女を抱っこして、天高く舞う。
馬車の天井を突き破り、さっきまで座ってた椅子に少女を座らせる。
あまりの人間離れした圧巻の光景に乗客は歓声を上げた。
しかしシウランはそれを無視し、さっきまで怒鳴り散らしていた商人の前に立ちはだかる。
シウランの鋭い眼光に怖気付いた商人は思わずたじろぐ。
「何だ貴様は!? 私を誰だと思って……」
シウランは躊躇うことなく、渾身の渾身の力を込めた拳で商人の顔を殴り飛ばした。
そして激しい感情を飛ばした啖呵を切る。
「テメェの薄汚ねぇ金で、子供の命が買えるか!! 馬鹿野郎!! 自慢の金で俺の怒りを沈めてみせろ! クズ野朗!!!」
シウランに殴られた商人は意識を失いかけている。
しかし、感情を抑えられなかったシウランは商人の胸ぐらを掴み、そのまま持ち上げ、振り回した。
「現実の厳しさを教えてやる! 金の力より強いもの見せてやる!!」
シウランがそう言い放つと、商人は馬車から投げ飛ばされる。
怒りの感情を爆発させ、激しい怒気を放つシウランに乗客達は震え上がる。
場が静まり返り、馬車も静かに止まった。
ゆっくりとルァは立ち上がり、皆んなに合図の言葉をかける。
「逃げるわよ!」
シウラン達は脱兎の如く、その場を立ち去る。
残された乗客や行者は唖然としていた。
一人を除いて。
威厳のある僧服を身に纏った男はシウラン達の行動に深い関心を示した。
「ふむ、これは面白き御仁と伺える……。悪郎に伝える価値はあるな……」
衛兵や警備隊を何とか巻き、シウラン達は街外れの所で息切れをしていた。
ルァがシウランに詰め寄る。
「気持ちはわかるけど、やり方と程度を考えなさい! おかげで逃げ回るハメになったじゃない」
ルァの説教にシウランが申し訳なさそうにすると、シウランの肩に乗っていた子猫のキアが抗議する。
「キューン! キューン!」
「何よ、キア、やる気なの?」
そんな毛を逆立てさせたキアの頭を優しく撫でて、笑顔のデーヴァが囁く。
「けど、何だか。胸がスッとしました。皆んなと走るのも、僕、楽しかったです」
肩を落としたライエルがぼやく。
「けど、これで街の散策は困難になりましたね……」
するとデーヴァが提案を切り出す。
「僕の記憶ではこの国に来た時、漁村で覆面をつけた少年と出会いました。明らかに彼はこの街の住民ではありません。そこで提言します。漁村に一度戻り、覆面の少年を待ち伏せし、彼を尾行します。彼の行き着く先に何か端緒が掴めるかもしれません」
ルァが溜息をついて歩み始める。
「確かにこのまま闇雲に探すよりは現実的ね」
イズモも賛成する。
「大男の覆面とも似てたな、あの少年の覆面は。確かに関係者。いや、出会った時にチンケなナイフを持ってたんだ。案外盗賊の一味かもしれん」
ライエルが落ち込んでるシウランに声をかける。
「さぁ善は急げですよ。行きましょう」
シウラン達は盗賊団のアジトを突き止めるために、この国の始まりの地へと向かった。
空が黄昏、夕日が沈もうとしていた。
昼と夜の境界線の先へシウラン達は向かって行った。




