40話 魔術士
昨晩の騒動から翌朝になり、結局シウラン達は盗賊団の足取りを捕まえることができず、見事な空振りをしてしまった。
ホテルの部屋ではシウランとルァが盛大に大喧嘩をしていた。
「なんで盗賊団が現れたのに逃げ帰ってんだよ! 今から追いかけて捕まえてこい!」
「うるさいわね! なんで私が筋肉ダルマの相手しなきゃならないのよ! あーいう時は遅れてやってくるのが貴方のポジションでしょうが! 何ノコノコ、ホテルに帰ってきてんのよ! この脳筋女!」
二人が取っ組み合ってるのを呆れながら、イズモはボヤく。
「二手に別れたのは失敗だったな。予想以上に盗賊連中は手強い。しかも足取りも掴めないときたもんだ。突然現れて、煙のように消えていくか……」
ライエルも訝しんだ顔をする。
「私達の前に現れたのは盗賊団じゃありませんでしたが、屋敷を荒らした後に、消えるようにいなくなってしまいました。魔法道具でも使ってるんでしょうか? でも転移魔法なんて幻の魔法ですよ。賢者のみが扱うことができる神業を盗賊連中ができるとは思えません」
無表情なデーヴァが冷静に情報を整理する。
「昨夜の行動を分析すると、盗賊団、暴徒の類はこの街に潜んでいる可能性が高いです。どこかに隠れ家があると推察します」
イズモが首を傾げながら答える。
「しかし、この街はニュークみたいなスラムや廃建はないぞ。いったいどこに潜んでいることやら……。ところで、いつまでやってんだ! そこの馬鹿二人!」
お互いの顔を掴み合いながら、シウランとルァが一斉に答える。
「「こいつが悪い!」」
朝のティーを飲みながらライエルは疑問を口にする。
「そういえば、シウランはともかく、ルァは何故武器を持たないのですか? 無詠唱魔法の使い手なら武器を持った方が有利に戦えると思うのですが。以前戦った危なそうな海賊も武器を持っていましたし」
シウランがルァの顔を捻りながら答える。
「そりゃ俺達が魔術士だからだよ」
「魔術士? 魔法士ではなく? 魔法剣士とかは聞きますが魔術士は初耳です」
ルァがシウランの髪の毛を引っ張りながら、シウランに突っかかる。
「貴方は魔法が使えないから、魔術士じゃないでしょ! ライエル、魔術士ってのは無詠唱魔法を体術で戦う流派なのよ」
「何故体術なのですか? 素手より武器を持った方が有利に戦えそうですが……」
「百聞は一見にしかずね、イズモ、テーブルにあるナイフを全力で私に投げてみなさい。 シウラン、いい加減離してよ!」
イズモが食器用ナイフを軽快に捌きながら、ルァに向かって鋭く投げ放つ。
ルァはそのナイフを避けずに、人差し指で容易く両断する。
金属製のナイフが真っ二つに指先一つで斬られたことに、ライエルやデーヴァ、イズモも感嘆の声を上げる。
シウランを振り払ったルァは説明する。
「魔術士ってのは自分の身体が武器になるのよ。そこら辺のロングソードなら素手で受け止められるわ。師範クラスになるとこの世のどんな魔剣でも素手で叩き割るわ」
シウランが割って話出す。
「それに武器を持った相手だと、身体が無防備になるから、俺らの流派はそこをつくんだよ」
イズモが思い出したかのように呟く。
「そういえば創世の賢者カインが変わった戦い方を西側諸国に広めているとか聞いたな。それが魔術士ってヤツか。俺の極東の祖国でも、素手で戦う流派はあったな。それでも剣術が主流だがな」
ライエルが興味深そうにイズモに伝える。
「そういえば、十年以上前にあった統一戦争、伝説の十三星雄がいたでしょ? 彼等は武器も持たずに大軍を殲滅したって伝承があるんですが、シウラン達の話を聞くと信憑性がありますね」
シウランが不思議そうに答える。
「何言ってんだ、ライエル。ニュークの港で暴れたネズミがその十三星雄だよ。師匠が前に言ってたな。強くなり過ぎて、はしゃぎ過ぎて大国を滅ぼしたって」
ドンビキしたライエルがティーの中身を床に溢してしまう。
ルァがつけ加える。
「ちなみに私もシウランもその戦争の戦災孤児よ。赤ん坊の頃に、師範に誘拐されて、辺鄙な山奥で修行漬けの日々を暮らしてたわ」
シウランが感慨深気に語る。
「地獄みてぇな毎日だったぜ……。ルァ、上手くバックれられたな!」
「けどこの旅が終わったら、確実に師範に連行されるわね……」
「……そうか、ネムに悪いけど、この旅の終わりが、俺達の地獄の復活になるのか……。気が重いな……。師匠がネズミのままでも勝てる気がしねぇ……」
ルァとシウランが意気消沈としているところで、イズモが次の作戦を切り出す。
「よし、今日は市街地の中で散策するぞ。何処かに隠れ家があるはずだし、ルァを襲った男はあの巨体だ。火傷もしてるはずだし、目立つだろ。ソイツを見つけ出そう」
こうしてシウラン達は昨夜の大男を探すために、昼間のダキアの街へと足を進めた。
賑わう街中へ歩みを進めながら、ライエルは昨夜のことを疑問に思う。
昨日の昼に街を観光していた時は浮浪者の一人もいなかったのに、何故昨夜はあんな数の暴徒が現れたんだ?
この街はおかしいぞ……。
ライエルは賑わい、眩い都市の影を、暗闇を垣間見ていた。




