39話 ルァの激闘!
闇夜のダキアの市街地で巨漢の男とルァの攻防が激しい攻防が続く。
巨躯から繰り出される大斧の強烈な斬撃を身軽なルァは軽快に避ける。
その斬撃の威力は家屋を両断する凄まじさだ。
冷や汗を掻きながら、ルァは何度も身を翻す。
しかも、力任せの攻撃ではない。
巨大な斧を鋭く振り裁き、まるで片手剣を振り回しているかのように軽やかに扱う。
いくらルァが肉薄しようにも、徹底して間合いを作っている。
接近戦に持ち込みたいルァが歯軋りする。
斧の斬撃を躱して、ルァは宙に回転して舞いながら両手で印を結ぶ。
「これならどう? 水斬」
巨躯の男の周囲に無数の水が生成されていく。
それが刃物のように鋭利な形に変化し、水の刃となって、巨躯の男の身体に一斉に襲い掛かる。
だが巨躯の男はその水の斬撃を斧で悉く弾く、巨漢からは信じられないほどの素早い動きだ。
圧倒的な膂力。
脅威的な身体能力。
達人とも呼べる斧技の技量。
しかしルァは見逃さなかった。
巨躯の男が水の斬撃を弾く、その防御に集中している隙を。
水の斬撃に紛れて、巨躯の男に肉薄する。
すかさず全てを両断する斧の斬撃がルァの身体に迫った。
しかしルァは頭上から来る斧の腹を右足で捌く。
防御するのではなく、斧の斬撃の軌道を逸らした。
そして回転するように身を翻し、巨躯に肉薄した瞬間、気を集中させた手刀で巨漢の男の首を狙う。
ルァは勝利を確信した。
この手刀は喉元を裂く。
しかしそうはならなかった。
巨躯の男は鋭利な手刀の一撃を察知し、下顎を下げて防ぐ。
刹那、ルァの指先に激痛が走る。
男の鎖骨と下顎がルァの手刀を挟んだのだ。
万力のような力で。
巨躯の男はすかさず片手でルァのか細い腕を掴む。
小柄なルァの身体は男にとって新しい武器でも手に入ったかのように振り回されてしまった。
容赦なく地面に叩きつけられるルァは、巨躯の男が覆面の下でほくそ笑んでいることを直感した。
……舐めんじゃないわよ!
ルァは残った片手で印を結び直す。
「永年水牢」
巨大な水の膜が巨躯の男の身体を覆う。
それは水柱となって、空高くまでそびえ立ち、激しい水流の結界が巨躯の男を閉じ込めてしまった。
ルァは肩で息をしながら、痛んだ右手を見る。
絶対折れてるわ……。
ホントにどっかの誰かみたいな馬鹿力なんだから!
ルァが周囲を見渡した時、盗賊団の姿は街から消えていた。
あんなに大勢いた盗賊団が霧のように姿を消したことに、ルァは思わず首を傾げる。
いったいどこへ逃げたっていうの?
そういう自分も逃走途中だったことを思い出し、すぐにイズモやシウラン達と合流しようとした時、背後から不穏な気配を感じた。
なんと自慢の結界術が男の膂力によってひび割れ始めてきている。
その底無しの膂力にルァは思わず空いた口が塞がらなかった。
巨躯の男が結界を音を立てて破った。
瞬間、ルァは近くにあった壺を男に向かって放り投げる。
壺は丸太のように太い腕で破片となって砕ける。
ここになって悪あがきかと巨躯の男は思った。
しかしルァは優雅にハッパを吸っていた。
少女の不可解な挙動に不審に思った男は、そこで初めて気付く。
あの壺に入っていた溶液の中身を。
油だった。
全身水塗れだったから、巨躯の男は気付くのが遅れた。
ルァの次にやる行動を理解した男はルァに向かって突進して防ごうとする。
ルァはニコリと笑みを浮かべて、ハッパを男に向かって放り投げた。
「神のハーブをゆっくり味わいなさい」
突如、燃え盛る火炎が巨躯の男を覆い尽くす。
あまりの火力に巨躯の男はのたうち回った。
ルァは豪炎を眺めながら、呟く。
「あんだけタフなんだから、死にはしないわよ。次は対戦相手間違えないでね。さてと、イズモ達と合流するために、ホテルに戻るとするかしらね」
周囲が業火で焼かれる中、それを背にルァはハッパに火をつけ、一服しながら、その場を悠然と立ち去る。
なお、この大火事は盗賊団の仕業となり、真の犯人であるルァはご機嫌にハッパを吸っていた。




