38話 弱きを助ける
ダキアの夜は底冷えする寒さに支配されていた。
そんな中シウランとライエルは震えながら、貿易商人がいる豪邸を警備している。
篝火で明かりは照らされているが、砂塵が舞い、視界が悪い。
砂が目に入り、腕で瞳を洗いながらライエルが呟いた。
「こういう街の砂嵐に紛れて、現れるから砂の団と言われたそうですよ。狙うのは富裕層や奴隷商なんかです。奪った金銀で街を追われた人達に配って回ってるそうです」
シウランが腕を組む。
「いわゆる義賊って奴か。奪うのは財宝だけじゃないだろ?」
「ええ、街の市場で売られた使用人として扱われている人達も解放しているそうです」
「そんな大所帯どこで養ってるんだ? 近くの漁村の連中もそうだし、結構な数になるぞ」
ライエルが両手を上げて答える。
「さぁ? それより寒い! シウランちょっと篝火の所、どいて下さいよ」
ライエルの要求を無視し、砂塵の乱れから、襲来者の気配を感じ取ったシウランは身構え、ライエルに呼びかける。
「どうやらやって来たみたいだぜ。しかし砂で視界が悪いな、団扇で仰ぐか」
するとシウランは近くにあった大木を引っこ抜き、それを勢いよく振り回す。
その風に砂塵から隠れていた影が明らかになった。
みすぼらしい姿をした者達が木の棒や包丁を持って、飢えに苦しんでいるせいか、荒んだ目でこちらを見ている。
その中にいる一人の女性が声を荒げる。
「赤ん坊にあげるお乳が必要なの! そこをどいて!」
その剣幕にシウランとライエルは戸惑う。
そして二人でヒソヒソと話し出した。
「おい、ライエル。なんか盗賊団って感じじゃないぞ」
「どう見ても、飢えた暴徒です。盗賊団とは無関係でしょう」
すると、邸宅にいた豪商の一人が、また来たかのような顔をして、夕飯の残飯を路上にぶちまける。
「面白いぞ、鶏が餌を食べるみたいにがっつきやがる。なかなか滑稽だ。餌が無くなったら消えるから安心しろ」
その言葉にシウランの心の中でナニカがブツんと切れる。
先ほど叫んでいた女性が路面に散らばる残飯に手を伸ばそうとした時、シウランはその手を制した。
「そんなことは人間がすることじゃねぇ!」
そして邸宅の門を蹴破り、飢えた人々に呼びかける。
「この家に食糧が山ほどある! 好きなだけ盗ってけ! けど命は奪うなよ」
シウランは痩せた赤ん坊に囁く。
「こんなに細くさせてすまねぇ。栄養は十分にとれよ」
豪邸に暴徒達が殺到する。
豪商の悲鳴が響きわたる中、ライエルにシウランは不思議そうに尋ねる。
「意外だな、お前は止めるかと思ったぞ」
「弱きを助け、強きを挫くですよ。第一、僕では君は止められませんよ。それに僕達の使命は盗賊団を捕まえること。この家の警備ではありません」
二人で笑い合いながら、両手を叩く。
シウランはルァがらくすねたハッパに火をつけ、深く肺にいれる。
漂う煙を眺めながら、相棒のルァも同じ境遇に陥っているのかと思い耽る。
「ちょっと対戦カード間違ってるんじゃない!?」
ルァとイズモ、デーヴァは盗賊団の襲来を受けていた。
ルァの眼前に自身の二倍はあろうかという巨躯で筋骨隆々の男が覆面をつけて立ち塞がる。
イズモは大勢の盗賊団を前に他勢無勢と察して、デーヴァを連れて逃げ出していた。
ルァも捕縛は諦め、その場を立ち去ろうとするが、巨漢の男が執拗に襲いかかる。
ルァは舌打ちをしながら、
「こういう相手が大好きな奴がなんでこの場にいないのよ! アイツなら目をキラキラさせてたでしょうね!」
ルァがいくら水弾を撃ち込んでも、巨漢の男はものともしない。
すかさず巨大な斧を振るい、ルァの姿を両断する。
手応えがないこと察した巨漢の男は背後に向けて斧を放り投げる。
そこには紙一重で避かしたルァの姿があった。
「私の水分身を見極めるなんて、結構手練れじゃない。やっぱり対戦相手を間違ってるわ。シウラン、早く来なさい!」
ルァの悲痛な叫びがダキアの街に響きわたる。




