37話 成金タウン
シウランとルァによって袋叩きにされた子供は、今は美味しそうに海亀の干し肉を頬張っていた。
シウランが一緒になって干し肉を噛みながら、呟く。
「腹が減ってたなら、そう言えよ。まだまだ干し肉あるから、遠慮せずに食え」
覆面を外した少年は夢中になって干し肉を食べて、感謝の言葉を伝える。
「姉ちゃん達、外人の癖にいい人だな。街に向かうんだろう? 案内するよ」
イズモが眉を顰める。
「何? 俺達が外国人だと思ったから、襲ったってのか? うーん、一応帝国の市民権は持ってるんだかな。自治領だと、その辺がややこしいのか」
シウランがイズモに首を傾げて伝える。
「市民権? そんなの俺もルァも持ってねーぞ。勿論デーヴァもキアもな」
ルァがぼやく。
「市民権なんて持ってたって、くだらない税金取られるだけよ。スラムには無用なものよ」
ライエルが申し訳無さそうに手を挙げて、発言する。
「私はハンターライセンスがあるので、どこの国も自由に行けます。まぁ物騒な国とかは無理ですけど……」
シウランが瞳を丸くして、ライエルの肩を叩く。
「なんだよ、ライエルがいればどこの国も行き放題なのか! 流石ハンターだな!」
イズモが頭を掻く。
「で、さっきまで物騒なナイフ持っていた少年の案内で、オスマンの港街ダキアまで行くのか。先が思いやられるな。まぁ俺も商業手形も持ってるし、街には問題なく入れるだろう」
廃村の漁村から一向は旅立ち、少年の案内のもと、港湾都市ダキアの門まで辿り着く。
シウランは驚いた。
港湾都市ダキアは城塞都市となっており、巨大で堅牢な壁が街全体を囲っていたのだ。
警備の兵も多く、厳戒態勢が敷かれていた。
幸い、イズモの商業手形とライエルのハンターライセンスのおかげで街に入ることはできたが、所持品検査で全裸にされたのは衝撃的だった。
まるで囚人を監獄に送るかのような徹底ぶりで、女性の警備兵とはいえ、尻の穴まで検査されたのはショックだった。
街に入ったところで、ルァが鞄の底からハッパを取り出す。
「ザル警備ね。爪が甘いわ」
シウランがルァのハッパを取り上げて、文句を言う。
「お前みたいな奴がいるから、あんな厳重な警備してるんだろ!」
イズモが訝しんみながらも、皆に伝える。
「なんか街の雰囲気が妙だな。まるで戦争でも始めるかのようにヒリヒリしてやがる。まぁ俺はさっそく得意先で香辛料の交渉をしてくる。ライエル、宿の手配を頼んだ。みんなも観光でもしていけ。色々珍しい物とかあるだろ」
イズモが立ち去り、残されたシウラン達は街の観光を始めた。
土産物屋に訪れたシウラン達は絶句する。
「ヤシの実が銀貨100枚!? ニュークなら銅貨100でもお釣りがくるぜ! 俺達が観光客だからってぼったくってんのか!」
ライエルも驚きを隠せない。
「ただの肌着のシャツが銀貨500枚ですよ……」
ルァが溜息を吐く。
「この街の領主の顔が彫ってある記念銅貨が金貨一枚よ。何? この街じゃ金貨と銅貨の価値が同じなわけ?」
キアヌを肩に乗せたデーヴァが呟く。
「これじゃ宿代も相当な値段がしそうです。物価のインフレが起こっていると推察します」
肩を落としたシウランが土産物屋から出て、不景気そうな顔をしながら街を歩く。
しかしそんなシウラン達とは対照的に歓楽街は賑わっていた。
行き交う人々も、よく見れば絹でできた高級な織物を着ており、派手な宝石の首飾りや腕輪をしていた。
貧富の格差を感じたルァはハッパを吸いながら、ぼやく。
「金持ち野朗の街ね。なんだか腹が立ってきたわ」
すると市場で歓声が上がる。
シウラン達が何事かと駆けつけると、奴隷の競売の現場が目に入った。
年端も行かない半裸の少女に人々が嬌声を上げながら、その少女の値段の言葉を張り上げる。
「金貨50だ!」
「なんの、金貨70」
「これはいい娘だ、金貨100だそう!」
我が目を疑ったシウランの瞳が朱色に染まる。
ルァとライエルが全力でシウランを羽交締めにして、その怒りの行動を抑えた。
慌てたライエルが疑問を口にする。
「おかしいです! ルシア帝国は奴隷制を禁じてるはず!」
すると側にいた成金の商人の一人がシウラン達に声をかける。
「お前さん方、この街は初めてか? 教えてやるよ、これは奴隷市じゃない。使用人の競りだ。まぁ庶民も奴隷も大差無いな。ご主人様のご機嫌伺いが人生なんだか……」
その成金商人の言葉をシウランは拳で黙らせる。
そして街の路面に唾を吐いて、シウランはその場を立ち去った。
「胸糞悪りぃ街だ。今すぐ出ていきてぇ!」
苛立ちを隠せないシウランをキアが慰めるように鳴く。
「キューン……」
高級ホテルの一室でシウラン達は街の様子をイズモに話した。
イズモは難しい顔をしながら、話を切り出す。
「そうか、嫌なもん見せてすまなかったな。この街の様子がおかしいのは気になってたんだが……」
ルァが怪訝そうな顔をする。
「ここ、スウィートルームじゃない? 宿代大丈夫なの? 私達お金無いわよ」
「安心していい、得意先が支払うことになってる。それより、交渉が難航してな。しばらくかかりそうになる」
シウランが激昂する。
「ざけんな! こんな成金タウン、とっととおさらばだ!」
「どうもな、この街の商人や外国人、要人なんかを狙う盗賊団がいてな。西側諸国へハンターの要請を出してる始末なんだ。この盗賊団が街の貿易を妨げてて厄介なんだよ」
ルァは優雅にハッパを吸いながら尋ねる。
「貴方の得意先の成金商人はなんて言ってるの?」
「安全な貿易ができるまで、取り引きできないそうだ。盗賊団は砂の団って言うらしい。領主の私兵や帝国軍でも手を焼いているそうだ」
シウランが思い出したかのようにライエルの方へ顔を向ける。
「ハンターなら目の前にいるじゃねぇか。イズモ、その砂の団ってのは懸賞金出てるんだろ?」
「ライエルはトレジャーハンターだろうが……。こういうのはブラックリストハンターの仕事だ……。まぁ懸賞金はたんまり出てる。まさか、お前ら……?」
シウランが机に足を乗せて高らかに宣言する。
「俺らがその砂の団って、盗賊団捕まえてやるよ!」
ライエルは頭を抱える。
「私の専門は考古学ですよ……。しかも軍も手を焼く盗賊を捕まえるなんて……」
デーヴァが空気の読めない発言をする。
「僕、お店で綺麗な絹の服を見かけたんです。懸賞金でショッピングしましょう」
呆れたルァが溜息した。
「やれやれだわ……」




