34話 漂流物
夜の海は静寂に包まれている。
三日月の光のみが射しているだけで暗闇が周囲を覆っていた。
シャイン号の前照灯がその中で眩しく闇を裂いて、海原の景観を映しだす。
船室で宙に浮かぶ板を見つめたデーヴァがシウラン達に切り出す。
「あと、2日もすればオスマン自治領の港に着きます」
シウランが前から疑問に思ってることを口にする。
「なぁデーヴァ、その地図とか文字とか浮かんでくる板はなんなんだ?」
「これはモニターです。タッチパネルで、指スライドするだけで細かい入力ができます」
その答えに、ライエルは感嘆する。
「なるほど、古代遺跡に書物の類が殆どないのは古代民族が紙を使用していなかったということですか。こういうカラクリで記録とかをとっていたのですね」
それを聞いたルァがボヤく。
「何とも便利なものね。文字の読み書きが必要ないなんて、隣で寝ている脳筋女が喜びそうな文化だわ」
気づけばシウランは机の上でイビキをかいて寝ていた。
ルァの言葉にシャインが反応する。
「識字率は100%でした。ただ紙を必要としていなかっただけです。加えて言うなら、鉱物など、耐久性が高い物には文字を掘る習慣がありました。……ところでこの船の船長は文字の読み書きができない蛮族なのですか?」
シャインの疑問にルァが答える。
「名前とか数字が読めるぐらいだわ。本なんてさっぱり読めないわよ。師範が魔導書で魔法を教えるの投げ出すぐらい、致命的に頭が悪いわよ」
イズモは溜息を吐く。
「世の中には勉強したくても学べることができない奴らばかりなのに、コイツときたら……。英才教育をボイコットしやがったのか……」
ルァが寝ているシウランの赤髪を弄りながらボヤく。
「コイツが真面目に魔導書読んでたら、私と同じように無詠唱で魔法を扱えるぐらいの魔術士になれたのに。まぁ、シウランが魔法を使う姿なんて想像つかないけど」
ルァの言葉に一同がどっと笑い声を上げる。
そしてイズモがデーヴァに話しかける。
「とりあえずこの船は漁船が彷徨ってたら、港に流れ着いたってことにする。流石に古代の魔法船で航行してるなんて言えんからな。船に即席のマストを付けておいたが、この船で遠洋航海してるなんて言えんからな」
ルァがイズモに尋ねる。
「大昔の人間は筏で海を渡っていたんでしょ? この船だって帆船じゃないけど、そこまで怪しまれる?」
「お前、筏で海を渡った奴らが全員無事に陸に辿り着いたと思うなよ。大半の筏は沈没してたんだよ。今のように船の造船技術が無かったからな」
すると、シャインが警戒音を出しながら、一向に呼びかける。
「前方に不審な浮遊物を発見! モニターに映します」
モニターから拡大されて映った映像には筏があった。
まごうことなき、ボロボロになった筏が映し出されていた。
筏の上には人のようなものがしがみついている。
ルァが我が目を疑ったイズモに聞く。
「どこの原始人かしらね?」
デーヴァが平然とした顔で尋ねる。
「不審浮遊体に威嚇射撃を敢行しますか?」
イズモが声を大にして叫ぶ。
「馬鹿野朗! やめろ! どう見ても漂流者だ! すぐに救助するぞ!」
ライエルも飛び上がる。
「ぼ、僕も行きます!」
ルァはハッパに火をつける。
「こういうのは男の仕事よね、デーヴァ、貴方も一服いる?」
デーヴァはルァに言われるがままに、ハッパの煙が充満した容器にブクブクと音を立てて、肺に吸い込む。
「とても気持ちが落ち着いてきました。意識が快楽に浸されていくのがわかります」
船内がハッパの煙で充満する中、シウランだけは大きくイビキをかいて熟睡していた。
30分後。
戻って来たのは人質にされたイズモとライエルだった。
ライエルの首筋にナイフをちらつかせていたのは以前、遺跡の洞窟でシウランと激闘を繰り広げていた青年だった。
「やっと見つけたぜ。クソガキども……。おい、そこの赤毛の女! 何寝てやがんだ! 青毛の女、そいつを起こせ!」
二太刀入らずのウェッジの再来であった。
目的地を前に闇夜の海からの海賊の襲来に、船内は戦慄が走った。




