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23話 デーヴァ

 

 ホテルグラントの奥の豪華な部屋の一室。


 朝食とはいえ、テーブルには豪華な料理が配膳されていた。

 しかし椅子に座っている五人の食事は進まない。

 武神は鋭い眼光を銀仮面に浴びせながら、料理には手をつけず、持ってきた酒をあおり続ける。

 銀仮面は何か思案するように手を組み、料理には手を出さない。

 シウランとルァは緊張と師への恐怖で、食事が喉に通らない。

 そんな様子を尻目に、ネムだけが美味しそうに料理を堪能していた。

 そして無邪気な笑顔で銀仮面に声をかける。

「えっと、賢者様。この柔らかくて固くて美味しいピンク色のヤツはなんて肉なの?」

「新鮮なメカジキの刺身ですよ。口に合いますか?」

「うん! 口の中で蕩けるみたいで、すっごく美味しい!

「それはよかったです。今夜は港に停泊している船でナイトクルージングを予定しているのです。そこでディナーもいかがですか? お嬢様方」

 武神が会話を遮る。

「残念ながら、正午には仙霊山脈に旅立つ。馬鹿弟子達も連れてな。全く自堕落な生活を送りやがって……。ルァ、ハッパの吸い過ぎだ。半人前には禁煙生活でも更生させなくてはな」

 ルァがゲッとしたような顔をしながら、しぶしぶ手持ちのハッパを武神に差し出す。

 そして武神は溜息をついてシウランの方に目をやる。

 シウランは抗議する。

「俺はルァみたいにハッパに溺れていねぇ。一応自主トレも毎日こなしてきた。こないだもギャング共を壊滅させてやったぞ!」

 武神がシウランの肩に手を置く。

「ついに殺っちまったな……。お前の武術は人を活かすためのものだろう。殺してどうする。しかも二人も殺っちまったとは……。俺のデビュー戦より早くてちょっとヒクわ。まさか殺人鬼を育ててしまうとは……」


 犯した過ちを師に指摘されたシウランは良心の呵責に苛まされてしまう。


 武神は二人の弟子が身震い姿を見て、告げる。

「お前ら午前中に、この街に立つ支度をして来い。その根性叩き直してやる」

 銀仮面は溜息をつき、エコーを呼び出す。

 エコーは両手いっぱいの紫色の花束を持ってきた。

「残念ですね。シウラン、貴方とはもっと話していたかったのですが……。これはせめてもの贈り物です。それと……」

 銀仮面は鞄から神秘的な光を放つ宝石が散りばめられた首飾りを取り出し、シウランに手渡す。

 そして仮面の下に笑顔を送りながら、優しい声をかける。

「年頃の女の子なら喜ぶと思って用意させました。貴方はそんな道着姿より、ドレスの方が似合うと思いますよ」

 シウランはそれを手に取り、花束を受け取る。

 紫の花からは爽やかで心が落ち着くような、どこか懐かしい香りを感じた。

 武神が両手を叩く。

「ハリーハリー、さっさと部屋から出て身支度しろ。俺はここのホテルにいる。正午までに来いよ。楽しい修行生活の再開だ。たっぷり可愛いがってやるよ」

 すると銀仮面は武神にも手土産を渡す。

「遠方から取り寄せた銘酒です。趣味に合うかはわかりませんが」

 武神はニヤリと笑みを浮かべてそれを受け取る。

「気配りがいいな。星霜の」

 シウラン達は足早に部屋から出た。




 帰りの道中、シウラン達は作戦会議を始めていた。

「どーする!? 世の中で一番厄介な奴が出てきたぞ!」

「こっちが聞きたいわよ!? あの野朗のことだから私達の家も店も把握してるわよ! とりあえず帰って身支度しましょう」」

「……俺、あんな地獄みたいな修行生活送りたくねぇ……」

「私だって同じよ! とにかくここは逃げるわよ! いざとなったら、賢者様に匿ってもらいましょう!」

「相手は世界最強の武神だぞ! あのヒョロそうな兄ちゃんが敵うか?」

「最近、その最強の看板だって、最近下ろしたらしいわよ。アイツだって無敵じゃない! 姑息な手を使えば勝てるわ」

「アイツが暴れりゃこの街が火の海になる……。さて、どうする……」

「とにかくこの街から逃げましょう! ベストはあの賢者とアイツをぶつけて、その隙に遠くまで逃げるのよ!」

 ネムがシウランに尋ねる。

「さっきからシウラン、花束抱きしめて持ってるけど、花なんか好きなの? そういうの興味ないと思ってたけど。シウランも女の子なんだね」

 確かにネムの指摘通り、シウランに花を愛でる趣味はない。

 その証拠に花の名前を一つも覚えていない。

 だがこの紫色の花の香りは気持ちを落ち着かせ、どこか懐かしい感情さえ芽生えてしまう。


 そうこうするうちに、ネムと別れ、愛しの我が家へと帰ってきた。


 シウラン達は気が重い。



 これから身支度して、修行の日々か……。

 キアは連れて行くぞ!

 師匠に半殺しにされてもキアは手放さねー。

 けど修行の里、空気薄いんだよな。

 猫とか生きていけるのかな?



 シウランが深く溜息をつきながら、ゆっくりと部屋を開ける。

 その瞬間、シウランは我が目を疑った。


 散らかってた部屋が隅々まで片付いている!

 チリや埃の一つもないピカピカだ。

 何故かテーブルの上にキアヌが姫のようなドレス姿で優雅にミルクを舐めている。

 キアヌの頭を優しく撫でている少女がいた。

 見知らぬ少女だ。


 同じ女のシウランすら目を見張るような美少女であった。

 黒く靡かせた髪には癖毛のひとつもなくサラサラに肩まで真っ直ぐに伸びている。

 健康なシウランも肌には自信を持っていたが、目の前の透き通るような白い肌の前では相手にならなかった。

 まるで職人が作ったかのような繊細な繊細で精巧な顔立ち。

 男に媚びるような顔ではなく、男が平伏すような美しさがそこにはあった。

 その宝石のように銀色に輝く瞳とシウランは目が合う。

 そして小鳥の囀りのような美しい声色でシウランに尋ねる。

「どちら様ですか?」


 シウランは脳の整理が追いつかない。

 その場で硬直してしまう。

 後ろにいたルァがシウランを押し退けて、部屋に入り、少女の美貌に一瞬目を奪われたものの、糾弾する。

「貴方誰よ? 部屋のハッパはどこにしまったの!」

「私はデーヴァと申します。質問を質問で返されたことに困惑しています。なお、人体に有害のある物質は全て廃棄させて頂きました」

 シウランとルァは見知らぬ少女の前で頭を抱える。

 シウランが絞り出すような声で尋ねる。

「どっから入ってきた? この玄関にはルァの結界魔法が仕込んであるんだ。前に泥棒で酷い目に遭ったからな!」

 少女が窓の方へ指を指す

 窓ガラスが割られていた。


「この部屋のセキュリティレベルを上げることを忠告します」

「こんな美人さんの空き巣がいることにビックリだよ! 何もんだテメェ!?」

「同じ質問をされたことにさらに困惑しています。私はデーヴァ。コード515のナビゲーションロイドが役割です」

 デーヴァと言う少女の発する言葉にさらに、二人は頭を抱える。

「ルァ、よくわかんねーけど摘み出していいよな? 早く身支度しねーといけねぇ」

 ルァが無言でこっくりと頷く。

 すると黒髪の美少女が困惑した顔をした。

「困りました。私は追われている立場なのです。この状況で外出するのは危険と判断します」

 シウランが腰に手をやり問い詰める。

「はぁ? 追われてるだぁ? 誰にだよ? その身なりからすると、どこぞのご令嬢だな? 追っ手は召使いか、お節介な執事か?」

「海賊です」


 開いてるドアからノック音が響いた。


「よう、久しぶりだな。また仕事の邪魔をしてくれるじゃないか。お嬢さん方、言ったよな次は殺すって」

 シウラン達が振り返ると以前洞窟で遭遇した海賊の片割れがいた。


 確か名前はルーファウスとか呼ばれてたな……。


「その娘をこっちに寄越せ。そしたら命まではとらん」


 ルァがすかさず少女をルーファウスに手渡す。

「はいどうぞ! その娘連れてって、さっさと消えてくれる! 面倒ごとはごめんなのよ! 私達は何も知らない。全部忘れるから。それに今日の正午にはこの街に立ち去るハメになるのよ!」


 ルァの捲し立てに、ルーファウスは思わず面喰らう。

「今日は偉く物分かりがいいじゃないか……。なんかこう、邪魔したりするもんかと思ったぜ……」


 ルーファウスに抱かれた少女はボソリと呟く。

「想定の範囲内です。では人質を取らせて頂きます」

 少女の両手にはキアが抱かれていた。

 それを見て、思わずシウランが駆け出す。

「おい、待て! 猫は置いてけ!」


 ルーファウスがなんとか少女から猫を奪おうとするが、少女はなかなか手離そうとらせず、逆にキアがルーファウスの手に噛みつく。

 ルーファウスは溜息を吐く。

「猫は諦めくれないか?」


 シウランが闘気を纏う。

「テメェと戦う理由ができたみたいだな」

 ルァがボソリとルーファスに告げる。

「あんた、一応海賊なんだから、多少その娘に乱暴して、猫引き離せばいいじゃない」

「……これでも元騎士だ。か弱い少女に乱暴な真似なんかできるか」

「私達はどうなの?」

「冗談言うな、お前達は論外だ。手痛い目に合わせて、大人の厳しさを思いしらせてやる」

 するとシウランとルァが身構え、ルーファウスに告げる。

「じゃあテメェは世間の厳しさを思い知らせてやる」


 ルーファウスは二人の臨戦態勢に溜息をつき、抱いていた少女を自分の側から離し、腰の鞘に納めていた剣を抜く。


「なんでこう、暴力で解決させようとすんだ。お前らは……」


 ルーファウスは残念な顔して、闘気剥き出しのシウランを見つめた。


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