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21話 ご指名

 

 夜と朝の境界線の刻。


 シウラン達が店閉まいの準備を終えて、雑踏の中帰りの歩みを始めていた。

 焼き芋を頬張るシウラン、優雅に高級ハッパを吸うルァ、今日の稼ぎの金貨の数を楽しそうに数えるネム。

 周囲の店も看板を下ろし、呼び込みの人間も消え、道端には酔っぱらいが寝そべっていた。

 ネムが明るい声でシウランに声をかける。

「キアは寝てるかな?」

 シウランが屈託ない笑顔で答える。

「眠り姫には王子の目覚めのキスが必要だな」

 すかさずルァがツッコむ。

「貴方は女でしょうが。そもそも何で私ばっかり接客しなきゃいけないのよ。貴方だってやりなさいよ、接客。私より出るとこ出てるんだから」

 シウランが食べかけの焼き芋を飲み込んで答える。

「俺が美人局なんてできるわけねーだろ。妙なところ触ったら、つい拳が出ちまう」

 ルァが溜息を吐く。

「猫に服のコーディネートできる癖に、こういうの、貴方は不器用よね。まぁせっかく手に入れた店を殺人現場にしたくないから、当分私がやるわよ……」

 ネムが張り切って手を挙げる。

「ルァが困ってるならアタシがやるよ!」

 シウランが苦笑しながら答える。

「幼女趣味のロリコン野朗なんか街から追っ払ってやる」

 三人が笑い合いながら帰りの道を歩くと、それを立ち塞がる人影が現れる。

 シウランとルァは一瞬、警戒したが、それが殺気を放っていないこと、そしてその姿が自分達と同じぐらいの年頃の少女であることで構えをとく。


 金髪の少女だ。

 綺麗にそれを肩まで揃えてある。整った顔立ちはどこぞの貴族令嬢のようだ。

 身なりも小綺麗で金持ちの娘が外出するような服で、そこらの冒険者やゴロツキのように、金属製の類の装備品は身につけていない。


 その金髪の少女が華麗にお辞儀をして、挨拶をする。

「お初にお目にかかり光栄です。私はエコーと申します。赤毛の少女を探していました。どうか私と共にマスターの所までご足労願えませんか?」


 いきなりのご挨拶に三人は目をパチクリさせる。

 そしてルァがシウランに囁く。

「貴方のご指名よ。同業者かしら?」

 ネムが苦笑いする。

「こっちが呼び込みかけられると、緊張するね」

 シウランが指をポキポキ鳴らしながら、毅然として金髪の少女に答える。

「いいぜ。返り討ちにしてやる。店の有り金を絞り出してやる」

 エコーはニコリと微笑み、シウラン達を主の元へと案内する。


 シウラン達は建物の場所を見て、動揺を隠せなかった。

 エコーが案内したのはキャバレー、グラント。


 しかし、かつての面影はなく。汚れ一つない白色の外観、まるで高級ホテルの様に様変わりをしている。


 無論、黒服のダークエルフが出入口を見張っているような気配はない。

 ここのギャングは今は刑務所の中だ。

 代わりに白い肌のエルフが給仕として建物の中へ案内してくれた。

 屋内は今、エコーのような金髪を靡かせたエルフ達が店内で給仕をしていた。

 そのエルフの一人がシウラン達を出迎え、案内する。

「ようこそホテル、グラントへ。ゆっくりして行って下さいませ」

 ネムは気にして無かったが、シウランとルァは肩を寄せ合いながら、ヒソヒソと話す。

「……おい、白いエルフばっかりだぞ。しかも妖しいキャバレーから高級ホテルになってんぞ」

「……黒い耳長がムショにぶち込まれたから、入れ替わりに白い耳長が支配してるの? 黒いのとは大分趣味が違うわね。こっちのが品格があるわ」

 側にいたエコーが警告する。

「失礼します。この建物で種族差別発言は厳禁です。ここのスタッフは差別を非常に気にしております」

 内緒話を聞かれた二人はギクリとしながら、ぎこちない足取りでエルフの給仕の案内のままに、店の奥へと足を運ぶ。


 すると、大きな怒鳴り声が響く。

「ダークエルフはどこへ行った!? 俺はキャバレーを楽しみにきたんだ! 紅茶なんかじゃなく、シャンパンをよこしやがれ!!」

 シウランとルァは内心、よくぞ言ったと思いながら、声の方へ顔を向ける。

 すると酔っぱらいがエルフの少女の髪の毛を掴んで暴れていた。

 他のエルフ達は対応に困り、慌てふためいていた。

 酔っぱらいがエルフの少女の顔を舐めながら、下品な言葉を吐く。

「黒いのとどう味が違うか、たっぷりと味わってやるか。グヘヘ」


 酔っぱらいがエルフの少女の服に手をかけようとした時、その手は制止された。

 すぐに駆けつけたシウランが酔っぱらいの腕を掴んだのだ。

「嬢へのお触りは厳禁だ。下衆野朗」

 シウランは渾身の力を込めて、握った腕に握力を込める。


 ボキンと高い音を立てて、酔っぱらいの腕は破壊される。


 酔っぱらいは自分の腕がマッチ棒のように容易くへし折られたことに一瞬驚愕し、直後顔が歪むほどの激痛が襲った。

 すかさずシウランは酔っぱらいの股間の下にあるものを掴む。

「喜べ、たっぷりとサービスしてやる。絶頂すんなよ」

 シウランは手の中にある二つのナッツをころりと転がす。

 自分が何をされるか悟った酔っぱらいは必死で叫ぶ。

「……!? やめ……!!!」


 躊躇うことなくシウランは力の限り握りしめた。

 その強烈な握力の前に二つのナッツは粉々に砕かれる。


 酔っぱらいは激痛のショックで叫ぶ間もなく、その場で痙攣を起こして、失神した。

 呆気に取られたエルフの少女の頭を軽く撫でて、シウランは店の奥へと颯爽と立ち去る。


 その勇猛な姿に、店内のエルフ達から拍手の喝采が起こった。

 シウランの立ち振る舞いに後ろに控えていたエコーも手を叩き、微笑む。




 そして、影で見ていた銀仮面の男も拍手を送り、呟く。

「やっと見つけたよ、ノア……」


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