20話 新しい商売
遺跡の出現から一か月。
ニュークの街は観光客や冒険者で溢れ返り、派手な賑わいを見せていた。
突然、浜辺から浜辺の海に現れた遺跡。
その中の財宝で一攫千金を狙う者。
未知の遺跡を一目見ようと好奇心を刺激された観光客。
すっかりニュークは観光都市に様変わりしてしまった。
そんな中、シウラン達は……。
夜の繁華街。
ここはかつてスラム地区であったが、シウラン達が手に入れた金貨の投資で今はすっかり猥雑な地域になった。
今夜も男性客をもてなす煌びやかな女性達が酒場や宿屋へと誘う。
ピンク色の看板の前で、看板娘のネムが景気のいい声を上げていた。
「そこのお兄さん! 2時間で2銀貨ポッキリだよ! 今なら可愛い娘のお色気サービスがたっぷりだよ!」
店内では酔った客が派手に呑んだくれていた。
空いたグラスに高級な酒を妖艶な化粧をしたルァが注ぐ。
ルァはわざと肌が透けるような、布面積の少ない、妖艶なドレスで着飾り、髭面の客の耳元で囁く。
「あら、私、酔っちゃったみたい……。身体が火照るわ……」
そしてわざと胸元をチラつかせる。
それを凝視してしまった酔っぱらった男は長く鼻の下を伸ばし、思わずルァの腰に手を回して臀部を撫でていた。
ルァがニヤリと笑うと、酔っ払い男の頭はシウランに鷲掴みにされてしまう。
「おい、お触りは厳禁だ」
酔っ払い男の頭蓋骨がミシミシと音を立てる。
思わず泣き叫ぶ酔っ払いにルァは勘定表を放り投げた。
その金額の凄まじさに男は目を疑い、酔いがさめる。
「ちょっと待て! 金貨20枚はボッタクリだろう!? そんな持ち合わせは無いぞ!!」
シウランが低い声で凄む。
「あんだと!? テメー、うちの女の尻撫でてんだろうが! 有り金全部寄越せ! ホラッ、ジャンプしろ!」
シウラン達は小銭一枚も残さず男の身ぐるみを剥がして、店の外に放り出した。
ルァが店の外にいるネムに文句を言う。
「ちょっとネム、客は選びなさい。さっきのスケベ野朗、金貨10枚も持って無かったわよ」
ネムは指を左右に振り、したたかな顔で告げる。
「大丈夫! あの外人の名刺は押さえてあるよ! アイツ、あんな下品な面して貿易商人だよ。明日の昼間に取り立てに行こう!」
シウランは首を左右に鳴らして、ぼやく。
「全く外国人はいいカモだな……。この街の怖さを知らねぇ。ライエルみてぇな野朗がいっぱいいるぜ」
ルァは機嫌直しにハッパを吸い、旨そうに煙を吐きながらネムに尋ねる。
「そういえばあの腰抜けオタクは何やってるの? 遺跡の財宝は見つけたのかしら?」
ネムが両手を上げて答える。
「なんか遺跡探索も難航してるみたいだよー。こないだなんて帝国軍の軍隊が山ほど遺跡に入っていたよ」
シウランがせせら笑う。
「良い知らせじゃねぇか。遺跡の攻略が難航してくれるおかげで、俺達もこうしてボロ儲けできんだからよぉ」
ネムも頷く。
「外人どもにこの街のスラム住民の狡猾さをよーく覚えて帰国してもらおう!」
三人は高らかに笑う。
相変わらず目を覆いたくなるようなその治安の悪さに、帝国政府も手を焼いていた。
そして、星霜の賢者、シュナもこの喧騒とした夜の繁華街にいた。
すれ違う荒くれ者がシュナの肩にぶつかり、
「気をつけろ! 外国人!」
と罵倒を浴びせる。
シュナの傍らにいた金髪の少女がシュナに進言する。
「マスター、この街を破壊すべきと判断しました。空気の浄化の必要性を認識しております」
それをシュナは手で制する。
「やめなさい、エコー。どうやらこの街では外国人は歓迎されないか……。この街に溶け込むために仮面でもつけることにしますよ。もうすぐ娘と会えるのに、野蛮な真似は許可しません」
エコーと呼ばれた女性は鞄から銀製の仮面をシュナに差し出す。
「了解しました、マスター。これより捜索を開始します」
銀仮面を顔に覆ったシュナは穏やかな声でエコーと呼んだ少女に告げる。
「頼みましたよ。さてと、予約した宿屋でディナーをとっています。ああ、宿願成就の時だ……」
月の光がシュナの銀仮面に映し出される。
4
その銀色の仮面には満月が浮かんでいた。
妖しい光を照らしながら、銀仮面が輝く。
月光の下で、新たな影がシウラン達の元へ動き出した。




