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17話 刺客との対決

 

 洞窟の最深部になんとか辿りついたシウラン達。


 目の前には埃に塗れた苔だらけの祭壇がある。

 それを見たライエルが嬌声を上げる。

「あれが巡礼者への門だ! 碑文の記載通りだ!」

 しかし、シウラン達は不満を漏らす。

「単なる行き止まりじゃねぇか」

「遺跡の入り口どころか、この洞窟の出口すらないじゃない。嫌よ引き返すなんて、クタクタだわ」

 するとライエルが懐から何かを形取った黄金を取り出した。

「これをこの祭壇に置く。そうすれば遺跡は眠りから起き、現代へと蘇る」

 シウランはライエルが手に持つ黄金を見て、思い出したかのように声を上げる。

「それ、ギャングどもが作ってた偽の金塊じゃねーか! 騙す気だな、モヤシ野朗!」

「落ち着いてくれ、元々これは遺跡の門の鍵として作る目的だったんだ。ギャングどもがそれが偽の黄金になると悪巧みしただけだ」

ライエルが特殊な形状をしている黄金を祭壇に置き、空洞だった箇所にはめ込み、鍵を捻るようにその仕掛けを回す。


 すると祭壇が沈み、閉ざされた壁が開きはじめた。

 目の前には高い、高い階段が現れた。

 その光景を見て、ライエルは自信満々の声でシウラン達に呼びかける。

「この先に遺跡の入り口があるぞ!」

 しかしライエルの期待に反して、シウラン達は無反応だ。


 肩に担いでいたネムをライエルに託し、低い声で呟く。

「……だそうだ、尾行野朗。不意打ち狙ったかもしれねーが、殺気がダダ漏れだぜ」

 すでにシウランとルァは臨戦態勢をとっていた。

 暗い洞窟の闇からゆらりと人影が姿を現す。

 数は一人。

 光に映った姿は銀髪の青年だ。

 禍々しい鎧と、シウランが見たことの無い形の不気味な武器を装備していた。

 青年は不適な笑みを浮かべてシウラン達に囁いた。

「別に隠れてたわけじゃねぇよ。俺の名はウェッジ、二太刀入らずのウェッジだ。死ぬ前に覚えておけ」

 ウェッジと名乗った青年は上背が高いわけではない。だが、その手に構えた異形の武器が彼を大きく見せた。


 シウランは武器を観察する。 


 先から後ろの端まで刃でできている。

 そもそも剣じゃねぇ、刃のところどころに間接している所がありやがる。

 

 得たいのしれない手練れ、初めて見る武器にシウランは動けないでいた。


 しかしルァは違う。

 手をかざし、間髪入れずに水弾の嵐をウェッジに放つ。 

 ルァは悟った。

 

 ウェッジと名乗る男が殺意を持っているのは明らかだ。

 ならば相手の武器の間合いに入る前に、魔法で距離を取ればいい。 

 

 ルァは攻撃の手を緩めない。

「水刃」

  水弾の雨と共に、高水圧で形成された水の刃がウェッジに迫る。

 ルァのその判断は間違っていなかった。

 しかし相手はルァの予想を超える動きを見せた。


 ルァの攻撃を避ける、でも防ぐでも無い、走って掻い潜ったのだ。

 ウェッジは嵐のような攻撃の隙間を通り抜けるように躱し、その異形の武器でルァに仕掛ける。

 ルァの認識ではまだ武器との間合いはあった。

 身を防ぐ為に防御魔法を展開しようとする。

 しかし、ウェッジが叫ぶ。

「遅ぇ! 」


 なんとウェッジが放った武器の刃の間接が伸び、蛇のような動きをして、その刃がルァの眼前に迫る。


 しかしルァの背後から入れ替わるようにシウランが現れ、間一髪で、その刃の腹を蹴り飛ばした。

 シウランは軽口を叩く。

「貸し一つな」

 シウランに攻撃を塞がれたことに、ウェッジは少し驚くが、躊躇なく、次の斬撃を放つ。

 ウェッジの持つ武器は双刃、そして刃の間接は自由に伸びる。

 まるで鞭のような曲線的な軌跡でシウランに襲いかかった。

 剣の達人でもこの攻撃から流れることはできない。


 だが、シウランは違った。

 ルァとの攻防でウェッジの武器の特性と動きを冷静に観察していたのだ。

 シウランは躊躇うことなく、刃の腹を払い、その間接部分を掴み上げた。

 そして渾身の力を込める。

「俺、こういう武器苦手なんだわ」

 なんとシウランはウェッジの武器を掴み、それを振り回す。

 迂闊にもウェッジは武器の柄を手放すことが出来なかった。

 逆にシウランの鞭の動きのような太刀捌きで、なすがままに地面に叩きつけられる。

 思わず呻くウェッジに、シウランは容赦なく刃の一端を投げ飛ばした。

 すかさずウェッジは態勢を立て直して、シウランの追撃を躱す。


 そして腰に差していた次の武器を取り出す。

 レイピアだ。

 ウェッジが叫ぶ。

「俺の獲物をぶっ壊しやがって! この脳筋女が! コイツなら掴めねーだろ!」

 ウェッジはレイピアの切先を前に突き出すように構えた。

 追撃を加えようとしたシウランの足が止まる。

 寸前のところで、その鋭い突きを躱す。


 内心、シウランはしまったと痛感した。

 相手の剣の間合いに入ってしまったからだ。

 これでは迂闊に肉薄できない。


 ウェッジは大きく突き出したレイピアで、突きの嵐を繰り出す。

 シウランがなんとか上下左右に動こうとしても、その剣撃の前に止められてしまう。

 しかもウェッジのレイピア捌きの前に、躱すどころか、斬り傷を負ってしまう。 

 シウランは首を中心に固くガードし、身体を左右に揺らし、相手の隙を伺った。 

 しかし前へ行くどころか後退するのもやっとの状態である。

 なかなか致命傷を与えられないウェッジも苛立っていた。


 さっきの武器破壊といい、俺の武器捌きに初見で対応するなんて何モンだ!?

 この脳筋女!?


 シウランは静かに待った。

 傷を負っても、なお相手の脚の動きに目を離さなかった。


 コイツは、必ず大技を仕掛ける。

 

 シウランの読みは当たっていた。

 しかしそれはシウランの読みから少し外れたものだった。

 ウェッジは後ろ足を少し引き、タメをつくる。

 自身の秘技、三段突きを繰り出すためだ。

 初段の突きの速度を最大限に上げ、その勢いで次の攻撃を高速へと繰り出す必殺戦法だ。

 目にも止まらぬ剣撃がシウランに襲いかかる。


 しかしシウランは避けなかった。

 その高速の突きを敢えて自分の右前腕で貫かせる。

 そして渾身の力を込めて、レイピアの動きを封じた。

 思わず呆気に取られたウェッジの顎に衝撃が走る。

 シウランが右手を引いたことにより、レイピアを持つウェッジの身体は前のめりになってしまったのだ。

 痛恨の前蹴りがウェッジのガラ空きの顎に炸裂する。

 だがウェッジもここで倒れる男ではない。

 切り札の隠しナイフをシウランの胸に刺そうとした。


 しかしその手は止められる。

「時間だ。今日はここまでにするぞ、ウェッジ」

 不意打ちの手を止めたのは黒髪の男だった。

 ウェッジが歯軋りする。

「……ルーファウス!」

 シウランは新手の出現に咄嗟に身構える。

 そんなシウランの動きを横目に、ルーファウスと呼ばれた男は静かに呟く。

「もう遺跡の眠りは起きる。俺達の目的は果たせた。それに連中の力量もな。コイツら(タオ)の力を隠し持ってやがる。食わせものだな……」


 シウランが闘志を剥き出しにして、ルーファウスに挑発する。

「そこの曲芸野朗よりできそうな奴じゃねぇか。ビビってねぇでかかってこいよ」

 ルーファウスは溜息をして、顎を後ろに向ける。

「お嬢ちゃんは、後ろでのびてるお姫様の介抱をした方がいいな。目の前の戦闘に夢中になって周りが見えて無い。慌てなくても、そのうちまた会うことになるだろう」

 シウランが振り返ると、ルァが倒れていた。

 急いでルァの元へと走り出す。

 それを見たルーファウスは手負いのウェッジを起こし、捨て台詞を吐く。

「覚えておけ、お嬢ちゃん方。大人の世界に次はないということを。今度は殺しに行く。お前達は刻の刃を敵に回した」

 するとルーファウス達は魔法瓶を叩き割り、煙と共に姿を消す。


 シウランはルァに駆け寄り、安否を確認した。

 ルァは忌々しい顔をしながら、負け惜しみを呻いた。

「やってくれたわ、あの黒髪……。こんな狭い場所じゃなきゃ本気出せたのに……」

 ルァの無事な様子にシウランは安堵し、右腕に刺さったレイピアを抜いた。

 右腕から滴る血を見て、その瞳の色が青色から赤く染まっていく。


 そして誓うように呟いた。

「ああ、次は必ずぶっ殺すぜ……」


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