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16話 遺跡への試練

 

 シウラン達は暗い洞窟の中を進む。


 ライエルを先頭に光を照らしながら、足場の悪い狭い洞窟の通路を歩き続ける。

 ライエルは手帳を読みながら慎重に探索をしていた。

 何度も分岐点の通りに遭遇したが、ライエルは洞窟に生える苔の生態系や鉱石の種類を分析し、確実に正解への道を進んだ。


 ふとライエルが呟く。

「これは光苔だ。これは暗闇の中だと、蛍の光のように美しい緑色で輝くんだ。まぁ今は魔法で光が照らされてるから、その光も見れないんだけどね。この鉱石も衝撃を与えると灯が灯るんだ。流石、巡礼者への道だ。殆ど遺跡みたいな世界だ」

 ライエルの高説にシウランとルァの二人は全く興味を持ってなかった。

 ネムに至ってはシウランの肩でイビキをかいて寝ている。

「ルァ、俺コイツが何言ってるか、全くわからねー」

「大丈夫よ、生きていく上で必要のない知識をひけらかしてるだけだから」

 二人の感想にライエルはガックリと肩を落とし、ぼやきながら先へ進む。

「遺跡の浪漫がわからないのか……。みんな遺跡の財宝ばかりにしか関心が向かないなんて……。金が欲しいなら汗水掻いて働けばいいのに……」

 ルァが旨そうにハッパを吸い、煙をふかしながら返す。

「私の浪漫は一攫千金よ。埃り塗れの銅像より、金ピカに輝く黄金像よ」

 シウランも続く。

「だいたいお前が変なもん採掘したから、ギャングが偽の金塊作ったんじゃねぇか」

 ライエルは抗議する。

「あれは遺跡の門を開く為に必要な物だったんだ。たまたま、色と鉱石の成分が金塊に似てしまっただけだ。悪用されるなんて思いもしなかったよ」

 ルァがライエルの顔にハッパの煙を吹きかける。

「おかげで私達はギャングに追われる身になったわ。いい仕事するわね」

 ルァの挑発にライエルはワナワナと震えていた。


 しかしあることに気づく。

「ルァ、ハッパを吸ったのか!?」

「何、貴方もハーブ嫌煙者なの? 人生損してるわね」

「そうじゃない、まさか火を使ったのか!?」

 シウランが苦しそうな顔で呼びかける。

「……なんか息苦しくねぇか? ネムの唇の色がなんかおかしいぞ……」


 狭い密室や洞窟内での火気は極めて危険である。

 周囲の酸素濃度を減らしてしまい、呼吸障害や酸素欠乏症にかかるためである。

 ライエルはそのことを熟知していたが、当然、シウランもルァもそんな知識はない。

 四人は今極めて危機的状況に陥ったのだ。


 ライエルがルァのハッパを奪い、すぐに足で火を消す。

 そして叫ぶように注意する。

「洞窟内の空気が薄くなってしまった! 急いで奥に向かって、ここから離れるぞ! 奥まで行けば空気も良くなる。そこで呼吸を整えるんだ! 全く、余計なことしないでくれと言ったじゃないか!」


 四人は足早に洞窟の奥に進む。

 シウランがぼそりと呟く。

「先に言ってくれりゃいーのに、不親切なガイドだぜ」

 ライエルが顔を真っ赤にしながら叫ぶ。

「遺跡探索にハッパ吸う奴なんて想像もできなかったよ!」



 そして洞窟の深部まで進むと行き止まりに出会う。

 崖だ。

 崖の下はそこが見えないほど真っ暗だ。

 流石のシウランは焦っていた。

「おい、ネムの唇が紫色に染まって、身体がブルブル震えてやがる! ヤベェ!」

「道を間違えるとは大したものね! トレジャーハンターさん!」

 取り乱す二人とは真逆にライエルは慎重に周囲を物色し、手帳を読みながら冷静に対処する。

「碑文には信仰が強い者にだけ道が拓ける、見えない道すら歩めると書かれていた。おそらくここがそうだ」


 ライエルは崖をおそるおそる調べた。

 ライエルの指先には光苔が付着していた。

 そして確信し、光を照らす魔法を遮断する。

 すると洞窟の闇が四人を包む。


 一瞬シウランとルァは取り乱すが、先程まで暗闇に染まっていた崖から緑色に輝く階段が現れたことに気付いた。


 ライエルが慎重にその光の階段へ足を下ろす。

 そして足場を確認し、シウラン達に呼びかける。

「光苔が魔法の光で反射して映らない階段にびっしり生えている。魔法の光を頼りにしてたら見えない場所だったんだ。おそらく、この階段の先に遺跡への門がある」

 四人はゆっくりと慎重に緑に輝く階段を降りた。



 階段を降りると、ライエルは再び照明魔法を発動させた。

 そして三人に呼びかける。

「ここなら空気も綺麗だ。ゆっくりと呼吸してくれ、しばらくここで休もう。ネムの状態も心配だ」

 シウランがネムを介抱しながら、答える。

「ネムなら大丈夫だ。顔色もいいし、呼吸も落ち着いてる」

「やっと休憩? もうクタクタよ。しかもこんな骨ばかりの場所で休むなんて……。……何この骨?」


 シウランとルァが辺りを見渡すと人の骨と思われる物が地面に散乱していた。

 二人は思わず抱き合って身震いしてしまう。

 その様子を見て、ライエルは苦笑を隠せなかった。

「シウランもルァもこういうところは女の子なんだな。おそらく次の試練で命を失った者達の骸だろう」

 シウランが叫ぶ。

「こんな所で休憩なんてできるか!」

「我慢してくれ、少し調べたら、進もう。慎重に進まないと私達もこの人達の仲間入りだ」

 震えるルァが嘆願する。

「ハッパ吸わせて! お願い、リラックスしたいの! 気持ちを落ち着けたいの!」

「我慢してくれ、さっきみたいな酸欠騒ぎはごめんだ……」

 震える二人を他所に、ライエルは周囲を観察しながら、手帳を読む。

「悔い改める者だけが先に進める、か……」

 ライエルは天井付近の蜘蛛の巣に注目する。


 おかしい、この狭い通路ならこの道を塞ぐように蜘蛛の巣が張られているはずだ。

 床から腰のところまで空洞になってる……。

 ……まさか!?


 すかさずライエルは地面に伏せ、シウランとルァに呼びかける。

「二人ともすぐに屈んでくれ! 地面に這いつくばるように!」

 ライエルの呼びかけに応じて、二人はとっさに身を屈める。


 すると蜘蛛の巣が次々と宙に舞い、巨大な円状の刃物が現れ、逃げ遅れたシウランの後ろ髪の一部をバッサリと刈り取る。


 ライエルが叫ぶ。

「無事か!?」

 震えるシウランが尋ねる。

「なんだ今のは?」

「巡礼者への試練だ。ここでは悔い改めるように這いつくばって先に進もう」

 堪らずルァが悲鳴をあげる。

「ちょっと、骸骨塗れになりながら先に進めって言うの!?」

「そうしないと、彼等と同じ運命を辿るぞ」


 シウランとルァは身の毛がよだつ思いで先へ進んだ。


 眠りについて、夢の中にいるネムの寝顔は悪夢にうなされてるかのような表情であった。

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