15話 ビーチの秘密
ニュークの浜辺、季節は夏、眩しい陽射しのサンビーチには水着姿の人々が溢れかえっている。
遺跡探索に躍起になっているライエルを除き、シウランもルァもネムも水着姿になって、夏の海を満喫している。
シウランとネムはヤシの実を目隠して割っていた。
流行りのビキニスタイルをシウランはその身に飾る。
豊満なシウランの胸が浜辺の男達の視線を熱くさせている。
同じく水着姿のルァはビーチサイドチェアで寝転び、優雅にハッパを吸いながら、ゆったりと読書を楽しんでいた。
海を満喫している三人とは対照的に、ライエルは暑苦しい作業服で、手帳を読みながら、ブツブツと呟き、遺跡の痕跡を探している。
「おかしい! 地下の墓標から歩いて三千七百歩、そこに巡礼への門があるはずなんだ! だが、このまま真っ直ぐに歩くとどう計算しても海中だ! 何が間違ってるんだ!?」
ルァはハッパを美味しく吸いながら、トロンとした顔でライエルに声をかける。
「さっさとしてちょうだい。さっきシウランとルァが海の中に潜った時は何もなかったわよ。っていうか遺跡って海の中にあるの? 海中探索なんて冗談じゃないわよ」
ヤシの実を見事に割り、ネムと一緒に果実を味わいながらシウランが提案する。
「もうひと泳ぎしてみるかー?」
ライエルは首を横に振る。
「巡礼者の碑文には海ではなく、地上に現れたと記述されていた。きっと計算と解読法が間違ってるんだ! そうに違いない!」
ネムが無邪気な声でシウランに呼びかける。
「シウランー! 今度は釣りでもしよー。今夜は新月になるはずだから、潮が変わっていい魚が取れるよ!」
「悪いな、ネム。俺は魚は掴み取りする主義なんだ。釣りとかそういうまわりくどいことはしねぇ」
ネムは指を左右に振る。
「シウランは釣りの醍醐味がわかってないなー。釣竿からくる魚の引きの興奮、それを釣り上げた感動、それがいいんだよ」
するとライエルはハッとした顔になってネムに尋ねる。
「今なんて言ったかな?」
真顔のライエルに少し戸惑いながらネムは答える。
「え? 釣りの醍醐味だけど?」
「その前だ、今夜はなんだって?」
「え? 新月だけど……」
ライエルは手帳を再び手に取り、そのページを捲りながら、声を上げる。
「そうか! 引き潮か! 謎が解けた! よし、今晩またこの浜辺に訪れよう! 僕の仮説が正しければ今夜、巡礼への門が開くことになる!」
シウランは海水浴に夢中になりながらライエルに尋ねる。
「夜の方がデカい魚が泳いでるもんな!」
「そうじゃない! 君達は目的を忘れてる! 僕達は遺跡探索に来たんだ! ニュークの浜辺でバカンスするために来たんじゃない! そもそも危機感が無いのか!? さっきみたいにスーフーヤの連中が襲ってくるかもしれないんだぞ!?」
ハッパを吸いながらルァは平然と答える。
「あれぐらいの連中なら問題ないわ。けどギャングはしつこいから、どうしようかしらね。遺跡の財宝山分けしたら、許してくれるかしら?」
海水に浸りながらシウランは意見を言う。
「そうだな、山分けすりゃあ、アイツらも文句言わねーだろ。ただキアヌは渡さねぇ」
ライエルが手を叩き、話しをまとめる。
「遺跡の財宝については発見してからだ。とにかく夜更けにもう一度ここに来よう。……昼間のうちは海を満喫してくれ。……寝過ごすなよ?」
シウランが首を傾げる。
「夜の海水浴は禁止されてるぞ?」
「泳ぎに行くためじゃない!」
月のない闇夜の浜辺。
昼間とは違い、人の気配はない。
深い闇と静寂が四人を包む。
ライエルが詠唱を唱え、呟く。
「聖光」
すると光が四人を包む。
ライエルは潮が引いた岩場を丹念に調べ、手帳を読みながら、探索する。
「ここだ、単なる岩場に見えるが、ここだけ岩石の種類が違うし、海藻が生えていない」
ライエルはその岩場の箇所を軽くピッケルで叩く。
「やはりここだけ空洞だ。シウラン、自慢の怪力でここを叩いてくれないかい?」
シウランが躊躇なく、そこに渾身の力を込めた拳打を繰り出す。
すると岩場は粉々に砕け、中から洞窟のようなものが現れる。
ライエルはガッツポーズをして喜びの声を上げる。
「やはりここが巡礼者への門だ! 当時異端とされた遺跡の巡礼を隠す為に、潮の満ち引きを利用したんだ! やったぞ!」
ルァが喜ぶライエルを尻目に、早く入れと言わんばかりに催促する。
「さっさとしてくれない? 寝不足は肌に悪いわ」
半分眠りこけてるネムを抱えながらシウランもライエルにうったえる。
「早く行こうぜ。扉壊したから、潮が戻ったら海中探索になっちまう」
「僕は叩いてくれと頼んだんだ! 破壊してくれなんて言ってない! うん、すぐに探索を始める。ただこの洞窟には巡礼者の試練と呼ばれる、危険な仕掛けがあるんだ。先頭は僕が行くよ。世界でも稀有なトレジャーハンターの力の見せ場だな」
シウランとルァは顔を見合わせて、眉を顰める。
コイツ、大丈夫か?
なんかこう、頼りないんだよな……。
二人の不安そうな顔を見たライエルが訴える。
「本当に大丈夫だって! 頼むから君らは余計な罠に引っかかってくれるなよ」
ライエルが勇んで洞窟の中に入る。
シウランは背後からルァの耳元で小さく囁く。
「……おい、尾けられてるぜ」
「ええ、どっかの兄弟とは違って、結構腕が立ちそうよ。確実に先頭のマヌケが尾行されたんだわ……」
「どうする? 今やるか?」
「ほっときましょう。連中も遺跡の財宝が目当てなら、しばらく泳がしても問題ないわ」
「わかった、背中は任せたぜ、ルァ」
「マヌケのフォローは貴方に頼むわ、シウラン」
二人は拳を突き合わせて、ライエルの後に続く。
漂う殺気の中、二人は遺跡へと繋がる洞窟へと入った。
それを見た刻の刃の二人は会話をする。
「ガキが相手とは舐められたもんだな、ルーファウス」
「油断するなウェッジ、おそらく向こうは俺達の気配に気付いている」
「ダークエルフ共はガキの始末を依頼したんだぜ? なんで仕掛けねぇんだよ?」
「姉御は『遺跡が起きるのを待ちたい』と言っていた。奴らが遺跡に辿り着くまで、様子見だ。そもそも俺達じゃ遺跡探索はできん」
「ちっ、仕方ねぇな……」
忍び寄る魔の手を背に、シウラン達は遺跡への道へと突き進む。