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113話 古代の闇

 

 古文書解読を始めて一週間後。


 ベンガル王宮の最上階、壁には涼水が流れ、窓から流れる風も地上の熱風とは違い、心地よい微風が靡く。


 その寝室でライエルはベンガル古式マッサージの施術を受けていた。

 ライエルは凄まじい疲労と眠気に誘われながらも、疲労回復のためにと整体で身体の不調を治していた。

 猛烈な睡魔に悩まされていたライエルだが、それ以上に古式マッサージの指圧の快感に堪らず意識が覚醒する。

 石のように固かった首肩、腰が強いもみほぐしと関節部の柔軟施術で血行が良くなり、どんどん凝りが解れていくのが実感できた。

 なかなか普段は取らない姿勢から受ける施術と、強い指圧にライエルは身悶え、軽く呻く。

 確かに痛みはあった、だがそこは身体の中でも辛い部分であり、そこの凝りがどんどん解されて、血流が良くなってるのが痛感できた。

 爪先から指先まで温かい血の巡りが全身を循環しているのが理解できた。


 こ、これは素晴らしい……!


「両手を頭の後ろに回してください」


 施術士が代わったのだろうか?

 声が若くて、なんか聞き覚えがあるな?


 そして、突然ライエルの腰が強い力で加圧された。

 同時に頭を後ろに大きく引っ張られる。

 施術士の豊かな胸の感触に幸せを感じながら、ライエルはなすがまま、背中を無理矢理仰け反らされる。

 猫背だった背骨が矯正されるのがわかる。

 背中がポキポキと心地よい音を鳴らしていた。

 しかし、まるで背中が千切れるかのような辛い施術だ。

 腰と背中の骨がベキベキと不穏な音を響かせ、上半身が捻じ切れると思ったライエルは堪らず絶叫してしまった。


 だが、この痛みが凝りを解すんだ……!


 あまりの痛みにライエルは涙が出てきた。

 ふと瞼を開けると悪戯っぽい顔をしたシウランがいた。

「よく効いたか? ライエル? ずいぶん満喫してんじゃねーか?」

 血行が回復したライエルの血の気が一気に引いた。


 げぇ!

 シウラン!?

  

 半裸のライエルが周りを見渡すと、他のメンツ、ルァやデーヴァ、イズモが呆れた顔をしていた。

 ルァがハッパを吸いながら、その煙をライエルに吹きかける。

「古文書の解読してると思ったら、サボりとはね……。これからは監視が必要ね」

 ライエルは全力で頭を垂れ、必死に抗弁する。

「誤解です。解読は今終わらせたところなんです。今はその疲れを癒してたところなんですよ!」

 シウランがライエルの髪の毛を掴んでその頭を揺らす。

「だったら何ですぐに連絡しねーんだよ!」

 半裸のライエルは情け無い格好をしながら言い訳をする。

「すぐに伝えたら、休む暇ないじゃないですか……。僕は知ってる、不眠不休のオーバーワークの僕を連れ回す貴方達の容赦のないところを……」

 ライエルの言い訳に腹を立てたシウランがライエルの首を肘関節で締める。

「さっさとネムの呪いの解術法を教えろ!」

 ライエルの小賢しい真似に怒ったシウランは思わず力加減を間違えてしまった。

 シウランに首を絞められたライエルは堪らず気絶する。

 ルァがその様子を見て、ハッパの煙を深く肺に入れ、溜息をつく。

「なにやってんのよ、あなたは……。さてさて気絶から覚醒させる薬はあったかしら?」

 するとイズモがそれを制して、シウラン達を宥める。

「ライエルも寝ずに古文書解読してくれたんだろ? 暫く休ませてやれ。それに書庫にはライエルか解読したメモ帳があるはずだ。焦ることはねぇ。こいつが起きるまでサンハーラの文献を読んでみようぜ」

 イズモの意見にシウラン達は渋々賛成した。

 半裸で無様な格好で床にへばりつくライエルを置き去りにして、王家の書庫へと向かった。

 振り返る者はいなかった。


 労を労う気持ちも無かった。

 全てライエルの小賢しく、浅はかな行動が原因だからだ。





 地下にある書庫は蝋燭の灯りだけという薄暗さだった。

 本棚が立ち並び、床には古代古文書とライエルの残したメモ帳が置かれていた。

 その中に『忌々しい呪いの解き方』

 と書かれたライエルのメモ帳をルァが発見する。

 これが呪いの解術法かとルァはそのメモ書きを手に取り、読んだ。

 するとルァの肩がプルプルと震えだす。

 相棒の様子がおかしいことを察した、文字が読めないシウランはメモの中身を訝しげながら尋ねる。

「ルァ、何て書いてあるんだ?」

 ルァは顔を青ざめながらメモの内容を読み出す。

「何よこれ……。『旦那死んでくれ』って? 内容がヤバいわよ……。『食ってはソファで寝っ転がって、小説ゴロゴロ読んでるクソ旦那まるで豚かよw ウゼェから死んでくれ』……」

 デーヴァが次のページをめくる。

「こちらにもありますね。『旦那が仕事辞めて、職探しせず、博打三昧。働いてる私に家事育児全部押し付けて、殺意がヤバいレベルで湧く。頼むから死んでくれ』……。次のページが殺人を仄めかす内容です。『離婚しても出て行かない。私の買った食べ物を勝手に食い散らかす……。赤の他人に殺意しか抱かない。……もう殺すしかない……』古代サンハーラ民族は何かしらの深い闇を抱えていたと推察できます」

 ルァも深く頷き、次のページをめくる。

「こっちもヤバいわよ……。『旦那が通勤で山道走ってるから、今日こそ崖から転げ落ちて死ねって、祈ってる。ちなみに私の日課は旦那の歯ブラシで便器のフチを洗って戻してる♪♯ 調味料に洗剤と洗浄剤を入れてる♪♪』殺意たっぷりよ……」

 純真なシウランは驚愕した表情で声を上擦ってしまう。

「え? 結婚した夫婦って仲良いもんじゃねーのか!?」

 眉間に皺を寄せたイズモがライエルのメモ帳を取り上げる。

「お前らはもう読むな……。……大人の世界は複雑なんだよ……。少なくともこれは俺達が期待している呪いの解術法じゃない……。やはりライエルが目覚めるのを待とう」


 イズモもバツイチという複雑な家庭事情を抱えた人間であった。

 イズモにはなんだか古代サンハーラ人の抱えていた気持ちに親近感を抱いてしまった。

 というより、心当たりが多すぎて胸が痛くなった。


 ルァがハッパを深く吸いながら呟く。

「サンハーラ文明ってのはあんまり夫婦仲良くないみたいね……」


 少女達は知らなかった。


 世界の裏に蠢く闇の部分に手を触れてしまったことを。


 それは古代だろうが、現代だろうが、時空を超えた深い闇だったのだ。


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