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112話 クロエ、再びの依頼


 シウラン達はこの港湾都市ムーアで最も高級なレストランにいた。


 店内の中央には噴水があり、水を煌めかせていた。

 使用人の女性店員達が優雅に大きな団扇でそよ風を室内に送っている。

 外は灼熱の地獄だが、この店内ではマイナスイオンが流れて、涼むことができた。


「マスター、この店で一番高いドリンク、上から三つ、五人分」

 ルァが五本の指の間に金貨を挟み、注文する。

 その仕草に対面していたクロエは思わず驚きを隠せなかった。

 よく見れば、イズモ以外のシウラン達は格好がおかしい。

 ベンガルの貴族が羽織るような、金箔の細長い布を肢体に巻き付け、着こなしていた。

 シウランの傍らにいる子猫でさえ、同じコスチュームで寛いでいる。

 ルァに至っては孔雀の羽で出来た大きな扇で顔を仰いでいた。

 その立ち振る舞いにクロエの代わりにイズモが逆上して詰問する。

「お前らな! 報酬金の無駄遣いをするな! これから長旅があるかもしれないんだぞ! 何呑気に観光楽しんでやがんだ!!」

 確かにシウランは天覧武闘大会では優勝できなかった。

 だが代わりに王女から王家の金銀財宝をたっぷりとせびることには成功したのだ。

 シウラン達は状況を楽観視していた。


 どうせライエル古代語を分析して、古代魔術を解析してくれると。

 すぐに意識不明のネムを回復させてくれると。


 なら、旅はここでお終いである。

 今のうちにベンガルの国を満喫する魂胆であった。

 しかし、ライエルを信用してないイズモはこの状況は不味い流れになると悟った。

 だから汗塗れになって港湾都市で大瀑布の聞き込みをしていたのだ。

 テーブルに冷えた黄色い果実のドリンクが置かれる。

 クロエはそれを見て驚いた。

 なんとドリンクの器は氷で形成されたグラスだったのだ。

 ルァが余裕そうに勧める。

「遠慮はいらないわ。氷が溶ける前にたっぷり味わいなさい。ドラゴンフルーツって果物で美容にもいいのよ」

 シウランもデーヴァも当たり前のように氷のグラスに入ったジュースを水でも飲むかのように喉に流し込む。

 まるでこの高級レストランの常連客かのように。

 デーヴァがクロエに忠告する。

「この店内の気温では10分以内に飲まないとグラスは融解を始めます。精密な氷魔法で精製されたグラスですが耐久性、機能性は問題有りです。なお、果実の成分には新陳代謝を促進する成分があるのは確かです」

 クロエが顔を引き攣らせながら、氷のグラスを口に運ぶ。

 そして改めて再会の挨拶を始めた。

「本当に相変わらずね……。この国の大会でずいぶん活躍したらしいじゃない? 腕を上げたわね、この海でもあなた達の二つ名は有名よ」

 シウランは無邪気にクロエのお世辞に照れていたが、ルァの眉がピクリと動く。

「あなた達? シウランの二つ名だけじゃないの?」

 クロエがキョトンとした顔をして、首を傾げる。

「ルァ、あなたの二つ名も結構有名よ」

 シウランが嬉しそうにルァの背中を叩く。

「やっとお前も有名人の仲間入りだな!」

 嫌な予感が走ったルァは恐る恐るクロエに尋ねる。

「ちなみに巷では私、なんて呼ばれてるのよ?」

「……水の悪夢よ……。紅い閃光より容赦がなくて、非道だって、海賊達の間で震わせているわ……」

 それを聞いたルァは頭を掻きむしった。

「だー! 私もブラックリストに載ったー! しかも何よ! その物騒な二つ名は! もっと海の妖精とかなかったわけ!?」

 デーヴァが思い出したかのように呟く。

「そういえば、この国に入国する前も海賊船を撃破しましたね。海賊が恐れるのも理解できます。ルァの水魔法は海上戦では脅威です。二つ名に相応しい存在だと認識します」

 ルァがデーヴァを黙らせようと、ほっぺを両手でつねる。それをシウランが喧嘩の仲裁をするかのように宥めた。

 イズモはやってられるか、とでも言いたげな顔をして口に咥えたタバコに火をつける。

 シウラン達の様子にクロエはクスリと微笑み、本題に入った。

「またあなた達に依頼したいことがあるんだけど……」

 瞬時にシウランとルァは目配せをして、二人で右手を前に出し、それ以上言わせなかった。

「聞きたくねー。どうせ海賊との厄介ごとだろ?」

「私達の旅路はここでお終いなのよ。今ライエルが古代魔術の解析をしているわ。それが出来たら、うちの眠り姫を眠りから覚まして、もう解決なのよ!」

 イズモは思わず凝視する。 


 コイツらのライエルの信頼の高さはなんなんだ?

 俺か?

 俺がおかしいのか!?

 用心の為に航海の準備や大瀑布の手がかりを探してることが間違ってるのか!!??


 強気のシウランとルァにクロエもたじろぐ、だがここで引き下がるクロエではない。

「報酬は弾むわよ、それに航路が東なら寄り道で行ける場所よ。依頼内容も前回と違ってそこまで危険じゃないわ」

 シウランが次に届いた赤い果実のドリンクをがぶ飲みして、冷えたグラスでテーブルを叩く。

「俺達の船旅は終わったんだよ! いや終わらせてくれ! 気持ちはもう陸のシルクロードで西に向かって、ベガスでバカンスだ!」

 ルァも頷く。

「第一、私達に依頼するってことは、腕を見込んでのことでしょう? シウラン、絶対海賊絡みよ、この依頼!」

 クロエが困った顔をして答える。

「確かに海賊関係ね……。けど今回は海賊を退治する人物と会うための私のボディガードだから……」

 シウランとルァはそれ見たことかと言わんばかりの顔をして、抗議する。

「こないだのハンターの連中なんて全然役に立たなかったわよ!」

「それに燕の海賊はこないだのことを根に持ってやがる! またトリケラトプスと追いかけっこかよ!」

 クロエも赤い果実のドリンクを飲みながら、身も心も冷やして、冷静な判断をしようとした。

 シウラン達の心を揺さぶるならこれだ。

「今回の依頼では大瀑布の帰還者と会うことができるわ。きっと大瀑布への航路もその先の大陸の手がかりも知ってるはず……」

 シウランが子猫のキアで服話術して、クロエを揶揄う。

『関係ねー。俺達にはライエルがいる! 海賊退治なんて真っ平ごめんだ!』

 その挑発に思わずクロエの栗毛色の長髪が逆立ち、頭の上にある耳がピンと立つ。

 そこにルァが追い打ちをかける。

「おとといきなさい」

 ルァがイズモのタバコをクロエの手に持っているグラスに入れ、浸した。

 タバコの火がジュッと消える音が響き渡る。

 クロエは怒りでワナワナと肩を震わせる。

「……相変わらずのクソガキっぷりね……」

 だがシウラン達とは違い、クロエの提案にはイズモは魅力的に感じた。

 慌てて、シウラン達に問いかける。

「いいのかよ? せっかくの大瀑布の手がかりなんだぜ!?」

 シウランは後ろで手を組んでふんぞり返る。

「大丈夫だ。俺達にはライエルがいる」

 ルァはさらにクロエを挑発する。

「マスター、一名様退店よ。お腹壊しちゃったみたいだから、廁まで案内して上げて」

 その言葉を聞いて、クロエは顔を真っ赤にして席を立ち、レストランを後にする。


 この時シウラン達は知らなかった。


 一週間後にクロエに土下座する自分達の姿を。


 ライエルの不眠不休の調査で、王家秘伝古文書の正体とネムを助ける術が今まさに判明しようとしていた。

 

 その時、シウランは思い知る。

 

 現実の過酷さを。


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