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111話 大会終了後

 

 南天の澄み切った青空に輝く太陽の日差しが大地を照り返す。


 ただでさえ赤道近くの酷暑に、容赦のない日差し、イズモは汗だくになりながら、ベンガルの港湾都市ムーアで船乗りの寄り合い所、漁師たちの組合所を駆け回っていた。


 天覧武闘大会が無事に終わって、すでに3日経っている。

 王女は約束通り、遺跡から発見された王家秘蔵の古代魔術の古文書をシウラン達に読ませてくれた。

 しかしここで予期せぬ事態が発生してしまう。

 シウラン達はてっきり一冊かと思っていた。

 だが実際は王家の禁書庫の本棚にびっしりと並ぶ程の大量の古文書の山だったのだ。

 いくら古代語が読めるライエルとて、スラスラと読破できる訳でもない。

 仕方なく、古代語の古文書の解読はライエルに任せることになった。

 トレジャーハンターとしての血が騒いだのか、ライエルは取り憑かれたかのようにサンハーラの古文書を読み耽る。

 覚醒したライエルはシウラン達に、

「一週間あれば全て解読してみせます!」

 と、宣言してみせた。

 有象無象の古文書の山を眺め、戦慄した一同はライエルの正気を疑ったが、本人を信じるしかなかった。

 これだけの古文書があれば古代魔術の解読もできるとシウランは胸を撫で下ろしたが、ここでイズモのシックスセンスが光った。

「万が一、外れってケースも想定しなきゃならん。俺達は予定通り航海を続ける想定で動くべきだ。まずは大瀑布超えだ。東の果て、世界の果てにあるって言われる大瀑布への航路と大瀑布を超える手段をこの国で探そう。古代魔術はライエルに任せて、俺達は別行動だ」


 海に疎い、シウランやルァはあまりピンときてなかったが、航海士であるイズモは大瀑布への道のりの困難さを知っている。


 世界の最果てにあると言われる大瀑布。

 そこがどんなものなのかは誰も知らない。

 世界の数多ある海洋探検団が大瀑布の向こうの世界へと挑戦した。

 しかし誰も生きて帰った者はいなかった。

 けれど世界の船乗りの中では常識のように、世界の果てには大瀑布があるということを知っている。

 大瀑布の存在を知っている人間が世界にはいる証拠だ。

 大瀑布を見た者は必ずいる。

 それが伝承され、船乗りの常識となっているのだ。

 大瀑布という常識が帰還者の生存の証拠なのだ。


 イズモは今後の東南諸島への航海の物資調達と並行しながら大瀑布の情報を港町ムーアにいるベンガルの船乗りから聞き回っていた。

 イズモも東の最果ての島国の出身だが、東の果てへ渡航を挑戦する者は皆無であった。

 だが、東の果てには大瀑布があるというのはイズモの国でも西大陸の大国でも周知されていた。 

 灼熱の猛暑の中、大瀑布への手がかりの為にイズモは街の漁師や船乗りに聞き込みを行い続けた。

 汗だくになり、背中の汗が薄い上着に吸い付く。

 船の関係者どころか、街の情報屋まで根掘り葉掘り、噂の欠片の一つでも絞り取ろうと、必死になって喉がカラカラになるまで聞き回った。

 結果は無情にも空振りだった。

 そもそもイズモの国さえ、地図上では極東とされている。 

 地図では大瀑布は記載されていないのだ。

 地図にない場所へ誰が行くというのか。

 地図より東への航海は漁師の間では暗黙のタブーとされている。

 港湾都市ムーアではトチ狂った東洋人がダイナミックな自殺をしようとしていると噂されてしまっていた。

 あまりの猛暑の日差しに参り、ついにイズモは疲れ切って地面に倒れ伏してしまった。

 イズモは内心毒づき、地面を何度も叩く。


 俺が必死こいて汗掻いて働いてるのに、ライエルの野朗は王宮でのんびり読書か!

 船に戻ったらコキ使ってやる!


 ただの理不尽な八つ当たりである。

 ライエルだって有象無象の古文書の解読に取り掛かっているのだ。

 役割が違うだけである。

 ライエルは頭脳を駆使し、イズモは足を酷使している。

 だが、現場肌のイズモの視点ではライエルが楽をしていると捉えてしまうのだった。

 こうして二人の溝はさらに深まっていく。


 イズモがへばり切ったところに、快活なシウランの声が響き渡る。

「イズモー、水分補給受け取れー!」

 突然、大雨に打たれたかのような水飛沫がイズモの頭上に直撃する。

 何事かとイズモが立ち上がり、シウランの声の方角へ顔を上げる。

 するとイズモの眼前には巨大な象が長い鼻を揺らしていた。

 イズモがよく観察すると、シウランがは象の首の上に乗り、ルァとデーヴァが象の背中で椅子に座り、日焼け避けの屋根の下でお茶を飲みながら寛いでいた。

 その様子にずぶ濡れになったイズモは呆然と立ち尽くす。


 寛いでやがる……。

 俺が街中駆け回って聞き込みしてる中、こいつら呑気に観光してやがったのか……!?

 

 イズモは脳が沸騰し、顔が真っ赤になるのを実感した。

 怒りの感情が爆発し、身体が身震いを起こした。

 しかしそれを見下ろしていたシウランはへばったイズモが喜んでいると誤った解釈をしてしまい、鈎棒で象の耳元を叩く。

 その合図に象は嬉しそうな咆哮をしながら、鼻を上げ、その鼻から噴水をイズモにめがけて放つ。

 シウランが無邪気な笑顔で呼びかける。

「おかわり受け取れー!」

 それは高温で熱し炎を噴き上げる油に水を撒くような行為だった。

「そんなもんで水ぶっかけんじゃねー!!! どういう神経してやがんだ!!!???」

 再び水浸しになったイズモが激昂し、大声で怒鳴り声を上げる。

 するとイズモの目の前にいた巨象はその行動に驚き、咄嗟にその長い鼻を大きく振りかぶってしまう。

 そしてイズモは象の鼻に直撃したイズモの身体は吹き飛び、道脇にあったゴミ籠に叩きつけられてしまった。

 それを見たシウランは苦笑いしながら謝罪する。

「わりぃわりぃ、まだ乗るのに慣れてねーんだ。大丈夫かー?」

 全身に激痛が走り、とにかく抗議しようとしたイズモだが、強く胸を強打してしまい、上手く声が出せない。

 それどころか呼吸が乱れて、意識が朦朧していた。

 するとそこにもう一頭の象が現れて、その鼻でイズモの身体を持ち上げる。

 象の上に乗っていたシウランは鈎棒を上げて、向かいの象使いに謝礼の合図を送る。

 しかし象に跨る人物を見て思わず、驚きを隠せなかった。

 シウランの異変に気付いたルァがどうしたの、と声をかけるとシウランと同じ反応をしてしまう。

 向かいの象に乗っていたのは予期せぬ相手、クロエだったのだ。

 栗色の長い髪を靡かせながら、クロエは呆れた顔をしてシウラン達を眺める。

「相変わらず元気そうね。この再会は偶然かしら? ゆっくりそこのカフェでお茶でもどう?」

  

 デーヴァは無表情に小首を傾げていたが、シウランとルァは嫌な予感がして仕方なかった。

 

 また厄介ごとに巻き込まれる……!


 二人で仰いだ空は太陽が輝き眩しかった。

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