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110話 大会優勝者

 

 空には澄み切った大海のような青空が広がっていた。

 先ほどまで、シュナの恐怖で凍っていた空気はその熱き日差しで溶けていく。


 会場の皆が晴天の空を見上げ、天に祈りを送り、神に感謝をした。

 それはシウランも同じだった。


 危険な賭けだった。

 命がけの綱渡りであった。

 どれだけシュナに転移石の存在を隠せるか、いかにシュナが勝利を確信し、油断させるか、ギリギリの駆け引きだった。

 まともに戦っていたら、傍らで倒れているライガーの二の舞だった。


 運も味方した。

 シウランとルァは常に仙霊山の追っ手、フェイの魔の手から逃れられるかの手段を講じ、対策していた。

 よもや、その抵抗手段がこのような形で使うことになるとは、身を助けるとはシウランも想定していなかった。

 仙霊山からニュークへ転移した時の転移魔法陣と砕いた石版を密かにルァと研究し、小型の転移石を開発していたのだ。

 転移魔法は魔法の知識が豊富なルァにとって難解なもので、転移先を二人の故郷である仙霊山の道場という限定的なものになってしまっていたことがネックであった。

 それに、使用すれば一度きりという消耗品な点も痛かった。

 ミスは許されない。

 だからシウランとルァは使用する時の連携の精度を磨き上げた。

 転移石も肌身離さず持ち歩いていた。

 実はシウランにはさらに奥の手のアイテムを持っていたが、こちらは使用すれば何が起こるか想定できない非常にリスクの高いものだったので、今回は転移石でシュナを仙霊山送りにするというアイディアを採用した。

 シウランの企みを相棒のルァはすぐに察して、術式が発動できる動作を取ることができた。

 結果は大成功だった。


 シュナという脅威は無くなった。

 空飛ぶ帆船も空域から移動を始め、光の階段も割れたガラスのように散っていった。

 会場に今立っているのは二人の少女達であった。

 しかも赤毛の方はドレスを着飾っていた。

 戸惑う試合関係者達であったが、会場の観客達は喝采と歓喜の声に沸いていた。

 観客席にいたデーヴァやライエル、イズモはなんとか命拾いしたかのような表情で、胸を撫で下ろしていた。



 かくして波乱万丈のベンガル天覧武闘大会は無事に幕を降ろす……とはならなかった。


 シウランの正体が少女。

 女ということが試合関係者はおろか、衆目に晒されたのである。

 これは誤魔化しようがない。

 当の本人であるシウランは派手な紅いドレス姿で無邪気な笑顔で観客に手を振って、肝心の目的を忘れて勝利の余韻に酔いしれている始末である。

 ルァはその相棒の無邪気な姿に呆れ、途方に暮れていた。

 そもそもこの大会に参加した目的は大会の目玉であるライガーを倒し、優勝して、ライガーに王配の座を諦めさせることである。

 肝心の優勝者が、女であるシウラン。

 大会関係者は当然それを失格とし、ライガーの不戦勝という形で協議をしていた。

 その話し合いにベンガル王女は頭を抱える。


 ハーフオークと婚姻なんて死んでもありえない!!

 

 倒れ伏しているライガーがこのまま命尽きてくれることを心の底からベンガル王女は祈った。

 しかし倒れ、絶命寸前のライガーをシウランは得意の複体修術で癒して、その命を繋いだのだ。

 シウランはニヤリと笑う。

「邪魔が入ったが、次はどっちが強ぇーか、白黒つけようぜ」

 シウランの回復術式により、ライガーは息を吹き返した。

 その結果に、ルァもベンガル王女も同じ想いだった。


 あの脳筋娘!! 

 何してくれてんだよ!!!!


 そう、シウランは何も考えていなかった。

 王女のハーフオークとの婚姻を阻止するという最初の目的なぞ、第一試合の時点でスッカリ忘れていたのだ。

 シウランはただ純然たる闘争心と強者との対決に魅力され、今はただ決勝で死力を尽くして戦うべきライガーとの対決を渇望していたのである。

 まさに脳筋である。


 その脳筋娘は何を考えているのやら、ライガーの巨躯を支えなんとか立ち上がらせようとしている。

 シウランの意思を汲み取ったライガーは全身の痛みを堪え、なんとか二本の足で毅然と起立して見せた。

 そして胸を張り、節度ある動作で試合会場の下にいた王女の前に歩み出し、武人らしく拝礼する。

 その勇姿に観客席からは感嘆の声が上がった。

 だが王女は顔を引き攣らせ、内心、絶望感に打ちのめされていた。

 

 終わった……。

 ハーフオークとタネツケ……。

 サヨナラ私の純潔……。

 

 そこでライガーは頭を覆ったプレートヘルムを脱冠したのだ。

 初めてその素顔を見せるライガー。

 その面立ちは勇壮で、整った顔立ちからは不釣り合いな力強い瞳、引き締まった口元、まさに武人らしい美丈夫であった。

 醜いオークの様相の欠片も無かった。

 そこらの王族の王子よりも優れた容姿であったのだ。

 あまりの光景にベンガル王女は腰を抜かし、そしてその勇壮な表情をするライガーの虜となっていた。


 嘘でしょ!????

 めっちゃイイ男じゃない!!!??

 え???!!!

 全然、そこらの人族よりも美男子なんですけど!!??


 ベンガル王女のハートはライガーのその素顔に鷲掴みにされてしまった。

 この王女、元々面食い文化で育ったため、スッカリ骨抜きにされてしまったのである。

 しかしライガーは再び面を下げ、悲痛な声で涙しながら謝罪する。

「このライガーが不甲斐ないばかりに姫ばかりか観客や市民にまで危険晒してしまい面目ありませぬ……。このライガー、再び姫に相応しい武人になるために武者修行の旅に出て、己が腕を研鑽し、この世の逸脱者とも負けぬ武人となり申す……。まずは姫の命を脅かした不埒者の首級を献上し、合間見えること誓い上げましょう。それまで暇を頂き申す……」

 ライガーは振り返り、その場を立ち去る。

 すれ違い様にドレス姿のシウランを見下ろし、ニッと笑う。

「互い高みを目指そうぞ……」

 シウランはライガーの言葉に心を震わせ、その大きな拳に自身の小さな拳を重ねる。


 二人の再戦の誓いだ。

 二人は互いに背を向け、背中で互いに未来の栄光を讃え合った。

  


 かくして、ベンガル天覧武闘大会は無事幕を降ろすことができた。

 シウランは優勝こそ逃したが、実質的な勝者であり、ベンガルの首都を守り抜いたことはベンガルの民は皆瞼に焼き付けていた。


 紅い閃光のシウラン。


 その異名は中央大陸の大国ベンガルに轟いた。




 だが王女だけはなんだか納得できなかった。

 惚れた男が一瞬で消えたからである。

 しかも次に会うのはこの世の逸脱者と渡り合うなどという途方もないことを抜かして。


 ベンガル王女はなんとか自分の純潔を守り抜くことができたが、その代償は大きかった。


 王女はこの時、まだ知らない。


 自分が生涯独身で終わり、従兄弟を養子に取ることになる運命を。


 後世の歴史書に『難攻不落の、鉄壁の女王』と記されることを。


 後にベンガルの首都は王女の異名にあやかり、ヴァージニアと呼ばれた。


 逃した魚は大きかった。

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