11話 蛇の口の中へ
ニューク、観光区の外れにある古聖堂の前にシウラン達はいた。
変装したライエルがシウランに尋ねる。
「ここがこの街で一番古い教会になるのかい?」
シウランの代わりにルァが答える。
「帝国創立前からあった建築物よ。あんまりにも古い教会だし、宗派も帝国のものじゃないから、今は無人で立ち入り禁止になっている無人教会よ」
ライエルは懐に入れた手帳を取り出す。
「ここに、遺跡へ訪れた最後の巡礼者の記録が残ってるはずなんだ。残念ながら遺跡がどこにあるかはわからない。だが巡礼者の足跡を辿れば遺跡への行き先もわかるはずなんだ」
シウランが拳を握り、ネムに指示を出す。
「よし、ネムは見張りだ。ギャングどもや怪しい奴がきたら、知らせろ」
シウランの言葉にネムが抗議する。
「えー! 観光地って言っても、この通り、人っ子一人通らない場所だよ。ここの周りなんて空き地ばっかりじゃない」
「文句言うな。よし、ライエル。中に入って宝探しだ」
ライエルが手帳の続きを読み上げる。
「恐れず蛇の口に手を伸ばせ、そこに墓碑への道が開かれる、って記述がある。とりあえず蛇の絵があったならそれが手掛かりだ」
唾を飲み、シウラン、ライエル、ルァは古聖堂の中に侵入していく。
聖堂の中は三階建でできており、それぞれのフロアに様々な彫像が置かれていた。
最も殆どの彫像は風化して、原型を留めてない状態だが。
聖堂は蜘蛛の巣が大量に張りめぐらされており、ルァが顔を顰める。
「きったない所ね。もうここが遺跡なんじゃない? あーもう埃が酷い!」
「我慢してくれ。蛇の彫像や絵、模様、何か手掛かりがありそうなものを知らせてくれ」
ライエルを中心に三人は聖堂の中を隈なく捜索した。
だが、三時間の調査結果、三人は何の成果も得られなかった。
シウランがライエルの首を絞める。
「蛇どころか動物の彫像すらなかったぞ! 仕事しろ! トレジャーハンター!」
「……きっとどこかに隠し部屋があるはずなんだよ!」
見張りに飽きたネムがシウラン達の様子を見に来ると、聖堂の中の汚れ具合に驚愕した。
「よくこんなところで調べごとなんかやってたね……。シウラン達の部屋が可愛く見えるぐらいだよ。こんなところ、少しは掃除でもしないと見つかるものも見つからないよ!」
そう言ってネムは三階の階段へと駆け登る。
ネムの行動に疑問を持ったシウランが三階に上がったネムに呼びかける。
「何で三階に行くんだ? ここら辺なんて蜘蛛の巣だらけだろ?」
「わかってないなー、シウランは。掃除の基本は高い所から始めるんだよ!」
ルァは溜息を吐く。
「ちょっと掃除したぐらいで、見つかるから三時間も埃まみれになってないわ……。本物の蛇なら彷徨いても不思議じゃないけど……」
すると、三階からネムが素っ頓狂な声を上げる。
「ルァ! 床下、よく見て! 蛇がいるよ!」
ルァはネムの言葉に驚き、思わず壁の隅に後ずさる。
言ったそばから蛇!?
「ルァ、違う! 違う! 床に蛇の模様がおっきく描かれてるの!」
シウランとライエルがマジマジと床の全体を観察すると大きく、蛇の模様が描かれていた。
そして自分達は丁度蛇の口の場所に立っていた。
ライエルがその床下をつぶさに調査し、その床部分をコンコンと叩く。
「ここだけ空洞になってる。蛇の口に手を差し出す、つまりこの下に手掛かりがあるんだ!」
ライエルが所持していた小型ピッケルを取り出そうとすると、シウランが有無を言わさずその拳で床を叩き砕く。
そして中の様子を見る。
「真っ暗でわからねぇけど。確かに隠し通路はあるみたいだな。ライエル、ルァ、入るぞ。ネム、今度は連れてってやる」
功労者のネムは満面の笑みを浮かべて、勇んでシウラン達の後に続いた。
四人が聖堂の地下に入っていく。
すると、二人のダークエルフが姿を現す。
スーフーヤのギャング達とは一線を画した、凶悪そうな面構えと出立ち。
彼らこそ本物のアレンティ兄弟だ。
アレンティ兄弟は自分達の名を語り、好き勝手にやったシウラン達に腑が煮えくりかえっていた。
そしてアレンティ兄弟は決意する。
あの赤髪と青髪の女二人だけは許さん。
ここを奴らの墓場にしてやる。
不穏な気配が迫って来ていることをシウラン達はまだ知らない。