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104話 黒獅子のサザン

 

 男はベンガルの黒獅子と呼ばれていた。


 黒獅子と言っても獣族ではない。

 人族だ。

 だがその男はカタギではなかった。

 マフィア、裏社会に生きる男だった。

 その男の名はサザン。


 サザンは一人の無法者(アウトロー)として、マフィアの世界で生きる道を誇りに思っていた。

 裏社会を拳一つで駆け上がってきた。

 ベンガル最大のマフィア組織の若頭まで登り詰めた。

 欲に塗れた世界に身を置きながら、サザンは潔癖であった。

 ベンガルのマフィアの中でも浮いた存在であり、疎まれていた。

 だがサザンの圧倒的な力の前には誰もが黙るしかなかった。

 サザンはマフィアでありながら、真っ当なシノギをしてきた。

 傭兵同士のいざこざの仲裁、夜の店、キャバレーの経営やボディガード、酒場の酔っ払い等の揉め事の後始末、果ては祭りの出店でフライドポテトを揚げていた。

 地味で華やかさに欠け、稼ぎも少ない、ただサザンはそのシノギを誇りに思っていた。

 逆に非合法な薬の売買や人身売買、海賊との汚い取引、特に子供に危害を加えるようなシノギには激しく嫌悪し、その自慢の拳でベンガルから徹底的に容赦なく排除した。

 身寄りがなく、行き場のない少年達にとってサザンは希望であり、憧れであった。

 サザンは自負する。


 本来マフィアとはこうあるべきなのだ。

 はぐれ者、無法者達への夢となるべきだ。

 確かにマフィアの世界に身を置き、その手はとうに血に染まっている。


 だが守るべき者達の為に命を奪うことをサザンは是とした。

 その余りある膂力は何の為にあるのか。

 サザンは自慢の怪力でこの街の穢れを浄化していった。


 たとえこの身が汚れようと、心は錦。


 サザンの生き様に惚れた舎弟達はその大きな背中に黙ってついていった。

 またサザンの畏れられていることは、この国最強の戦士、ライガー=ウルバルトと義兄弟の盃を交わしていたことだ。

 二人は旧知の仲であった。

 幼少期、共に辛い貧困の時代を送り、互いに強大な力と気高き誇りで乗り越えていった。

 サザンとライガーが昵懇の仲ということは、ベンガル軍はマフィアと良好な関係だという証明だ。


 だがそれに目をつけた者がいる。

 ハーフオークのライガーと絶対婚姻関係を結びたくない第一王女だ。

 彼女はサザンに邪なでっち上げ話を吹き込んだ。


 このままだと権力を集めたライガーが王位を簒奪し、軍事革命を起こす。 

 オークの王国を築こうと企んでいるのです。

 そしてマフィアも巻き込み、帝国領へと侵攻することを画策している。

 このままだとあなたが大事にしている貧困街の少年達が戦場に駆り出されてしまいます。


 サザンは耳を疑い、不覚にもあからさまな流言によって義兄弟のライガーに不信感を募らせた。


 兄弟はそんな汚ねぇマネはしねぇ。

 だが王配の座を狙ってやがんのか、ベンガル中の武道会に出場してその力を見せつけてやがる。

 何てこった、俺が屋台でフライドポテト揚げてる間に兄弟は変わっちまったのか?

 アイツの真意を確かめる必要がある。

 言葉じゃダメだ。

 拳で語り合わなきゃ兄弟の心の内はわからねぇ。


 サザンは天覧武道会の出場を決めた。

 そして、その圧倒的膂力によって準決勝まで勝ち進んだ。

 立ちはだかる者には情け無用の拳を炸裂させていった。

 中にはサザンの二つ名、ベンガルの黒獅子と聞いて、棄権をした者さえいる。


 サザンの力は凄まじい。

 大剣を握り潰し、まるで飴細工でもするかのように圧縮変形させ、小さな塊になるまで凝縮させた。

 堅牢な大盾をまるで紙切れかのように引き千切る。

 異常な握力、そしてそれが握られた拳から発生する圧倒的なパワー。

 その拳を浴びた者は一撃で闘技場の果てまで吹き飛ばされ、再起不能となる。

 絶大な力、その純粋な力だけ見れば、この国最強の戦士ライガーをも上回った。

 サザンの2メートルを超える巨体と生まれついての圧倒的な(タオ)の潜在能力。

 その膨大な(タオ)による膂力は素手で難攻不落の城門を破壊することすら可能としていた。


 サザンは他の対戦者と違い、剣術や体術、武術の武技を持たない。

 虎や獅子が生まれついてから雄大な力を持つように、サザンも生まれついての強さを授かっていた。

 他の強者のように鍛錬というプロセスはない、数々の修羅場を潜り抜けてその強さを磨き上げたのだ。

 さらにサザンには脳内麻薬をコントロールし、常に火事場の馬鹿力がいつでも発揮できる先天的異能を持ち合わせていた。

 まさに純粋なパワー、それを頼りに小さな頃から素手殺(ステゴロ)で生き抜いてきたのだ。

 サザンは手に持つトランプの束を引きちぎりながら、決勝で雌雄を決する相手ライガーを睨む。


 兄弟よ、お前はひょっとしてチカラって奴に溺れちまったのかもしれねぇ。

 だったらこの拳で目を覚ましてやんなきゃならねぇ。

 それが兄弟である俺の責任だからな。

 

 残念なことにサザンの目には次の対戦者であるシウランのことは眼中になかった。

 サザンにとってシウランの存在なぞ、屠ってきた同じ対戦者と同列であった。

 それは驕りでもあったが、それだけサザン並外れた力の持ち主である事実であった。

 このサザン、ベンガルの王女の最大の切り札であった。

 この王女の迂闊な行為はこのカードとこの大会最大のジョーカーであるシウランを準決勝でぶつけてしまったことであろう。

 彼女は今頭を抱えている。

 こんなことならシウランにはリング外で闇打ちを依頼すべきであったと。

 前回奇襲を仕掛けたルァは今回に限り、動かなかった。

 純粋にシウランの強さを信頼していたからだ。

 力比べでシウランがどこまで通用するのか、相棒として期待していた。

 

 今、天覧武道会の準決勝に皆が注目していた。


 シウランは大盤狂わせのワイルドカードとなるか。


 誰もがこの試合の行方に心を躍らせていた。


 漆黒の髪と黒いスーツを纏い、ベンガルの黒獅子と恐れられるサザン、紅い閃光と海賊から畏怖されるシウラン。


 両者の戦いの火蓋が、今まさに切られようとしていた。

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