第三章:雪中の出会い
この章では、凛音と少年との出会いが彼女の運命の始まりを示唆しています。運命的な出会いが彼女の心に変化をもたらし、物語が動き出します。
冬の山中、雪が舞う
凛音は12歳で、母と共に遥かな山の奥へと向かっていた。雪が積もった道を歩きながら、周りの景色は一面の白で覆われ、どこか遠い記憶のような、しんとした静けさが漂っている。山の深い谷間に差し込む日差しが、雪面に反射してキラキラと輝き、寒さの中に一瞬の温もりを感じさせた。
「凛音、少し休んで。」
母親の声が聞こえ、凛音は足を止めた。彼女の母親は、信仰心が篤く、山の中で行われる宗教儀式に参加するためにここまで来たのだ。母親の顔は柔和で、年齢を重ねてもその美しさは衰えていなかったが、凛音には時折、彼女がどこか心を隠しているように感じられることがあった。父親の死後、母親は凛音を一人で育て、常に強くあり続けた。
「お母様、私は大丈夫。」
凛音は少し不安げに言った。母親と一緒に過ごしていると、どうしても父親の欠けた部分を感じてしまう。母親は優しく微笑み、凛音の手を軽く握りしめた。
「私はすぐ戻るから、ここで少し待っていて。」
母親は凛音に向かって静かに言った。「お前も少しは一人の時間を持ったほうがいい。大切な何かを見つけられるかもしれない。」
凛音は頷き、母親が神聖な儀式のために山のさらに奥に向かうのを見送った。雪が静かに降り積もる中、母親の背中が見えなくなるまで凛音はじっとその姿を追っていた。母親の言葉に従い、しばらく一人で歩いてみることにした。
しばらく歩くと、少年が現れた。
雪の中、凛音は目の前に現れた一人の少年を見つけた。彼は大きな体格をしていて、雪にまみれた黒い髪と、鋭い目元が特徴的だった。少年の笑顔はまるで寒さをものともせず、陽気で元気な印象を与えていた。彼の姿勢は自然と堂々としており、周囲の雪と風の中で、どこか魅力的に輝いているように感じられた。
「おい、小さな姫、待ってくれ!」
少年は凛音に向かって歩み寄り、明るい声で話しかけてきた。彼の目が輝き、口元には軽い笑みが浮かんでいる。
「あなた、誰ですか?」
凛音は少し驚きながらも、警戒心を隠せずに尋ねた。
少年は軽く笑って答える。
「俺か?俺はここを治める王の息子だ。」
彼は自信たっぷりに言うと、雪を踏みしめるように足を前に進めた。「まあ、今日は王子じゃなくて、ちょっとした面白いことをしてるだけだ。」
その瞬間、彼は突然凛音を抱え上げ、逆さにして雪の中で倒立を始めた。
「何をするの!?」
凛音は驚き、体が宙に浮く感覚に慌てて叫んだ。
「大丈夫、怖がらなくても。」
少年は笑いながら、さらに凛音を逆さまに持ち上げ、顔が雪に近づいていった。
「お願い、放して!」
凛音は慌てて声をあげ、必死に少年に頼んだ。心臓が激しく鼓動し、顔が雪に触れそうなほど近づいていた。
少年は少し笑いながら、彼女を雪の中に降ろした。
「冗談だよ、怖がらなくていい。」
凛音は顔を赤くしながら雪から立ち上がり、少年に向かって少し怒ったように言った。
「本当に!危なかったじゃない!」
少年は肩をすくめて笑い、目を細めながら答えた。
「お前、なかなか面白いな。ちょっとビビってたけど。」
凛音はその無邪気な笑顔に、心の中で何かが温かくなったような気がした。彼はまるで彼女の心の隙間を埋めるかのように、存在感を示していた。
少年は軽く微笑んで言った。
「また会おうな、凛音。」
その言葉を残して、少年は雪の中に消えていった。凛音はしばらくその場で立ち尽くし、彼の背中が見えなくなるまでじっと見守っていた。突然、母親の言葉が頭に浮かんだ。
「輪廻は無駄に繰り返されるものではない。」
母がいつも言っていたその言葉が、凛音の胸の中で静かに響いた。彼との出会いに、何か不思議な感覚を覚えた。
「あの少年、どこかで…」
その瞬間、凛音は感じた。まるで過去のどこかで、この少年と出会ったことがあるような気がする。それが何なのかはわからなかったが、心の奥底に深い何かが触れたように思った。
その瞬間、彼女は母が言った**「輪廻」**の意味が少しずつ理解できる気がした。すべては繋がっている、そしてこの出会いもまた、どこかで繋がっているのだろう――そう感じた。
無論、私たちがどこに行っても、それが私たちが行くべき場所であり、私たちが経験すべきこと、出会うべき人々と出会うのだと感じながら。
ご覧いただき、ありがとうございます。これから彼女の成長と変化を追っていきます。