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遅刻、そして誘拐

八話程度で終わるので、どうか最後までお付き合い下さい。

 もともと「デートの時間に」と約束した時刻からは、もう確実に、三十分以上の遅刻なのだけれど、そんなオレが、彼女のところに到着してすぐに発した第一声は、


「わり、遅れた」


 の一言であった。

 震える拳を抑えつつ、健気にも三十分間オレを待ち続けた彼女──小鳥遊(たかなし)さゆりは「はぁ……」と深く嘆息をする。


「……デートに遅刻とは、不心得者ね」

「悪い悪い」


 でもさ、とオレは続ける。


「ヒーローは遅れてやってくるもんだろう?」


 蹴られた。

 それも二発。


「痛ってぇ! 何すんだよこの暴力女!」


 更にもう一発。

 弁慶の泣き所。

 走る電撃。


「反省したかしら?」

「し、したした! 悪かったって!」

「ならよし」


 蹴られた患部をさすりつつ、オレはさゆりに「でもまあ、安心しろよ」と言う。


「今宵、最高の夜を約束するぜ」







「その後、顔見知りの魔物にさゆりが拐われたので、普通に今捜索中だ。……今のところは犯人との交渉に応じるくらいしか、取れる対応は残されていない」


 出し抜けに何を言いだすのか、と思わず人差し指でメガネのフレームを持ち上げた僕だったが、しかし彼、榊原英雄(ひでお)は、その程度の些事は意に介さない……、構わず続けて、僕の混乱を一層、助長させた。


「前に、異世界に巣食う悪を倒して、異世界を救う機会があったんだけどな? そん時に倒し切れなかった残党が、復讐の為にこの世界に来たらしいんだよ」


 ふんふんなるほど、と相槌を打ってしまうのは僕の悪い癖だ──こんなことだから相談を持ちかけられるのだ。

 以前、英雄とは第三次世界大戦を惹起(じゃっき)する筈だった、某国の暴走を食い止めた仲なのだけれど、それ以来、彼は世界の危機に関する難題を突きつけられると、決まってこの僕に相談を持ちかけた。

 その度にいみじくも名案──と言っても英雄が勝手に会話からヒントを得ていくだけなのだが。だから彼にとって大事なのは僕ではなく、どうしてか僕から得られるキッカケの方だ──を思いついてしまう僕も僕なのだが……、それ以上に「それでそれで?」と続きを促してしまうのも、やっぱり、僕の悪癖なんだろう。

 

「奴には明確な弱点がある。俺が救った異世界は七十八っつほど数があるのだが……、奴の出身は四十七個目の異世界で、俺たちの世界で言う『金細工』や『十字架』が苦手だった。今も一応、相手から分からないよう、かなり小さいけれど、一定の効力を発揮するくらいの物は持っている……、具体的に言えば、鉛筆の芯くらいの直径で、縦に二センチくらいのサイズしかない、本当に小さいやつが。対策として」懐かしさに目を細めて、英雄はそう言った。そして続け様に「そしてその弱点は、その世界を巣食う全てのモンスターと共通のものだった」とも。

 困惑気味に僕は言った。「なら、それを使えばいいじゃないか?」

「勿論、隙があれば使うつもりだ。ここまで小さければ効果は薄かろうが……、奴はその世界での俺の親友を殺した仇でもある。だからこの状況は、誤解を恐れずに言えば、願ったり叶ったりでもあるんだ」

「親友を……? そうか……」冒険譚には悲劇が付きものである。しかし、悲しいものは悲しいだろう。「でも、それなら余計にどうして?」

「一度それで滅ぼされたんだ。対策してくるに決まっている」何やら、そこは自信のある風だった。

「そう、か……」僕は声のトーンをいくらか下げた。「マジックみたいにミスディレクションでも出来ればいいんだがね……」

「ミスディレクション、視線誘導、か」

「思いつきそうか?」

「微妙だ」英雄は素直かつ端的だった。


「なにやらいろいろ企んでいるな」


 背後から聞こえた声に踵を返し、英雄はその声の主をきっ、と()め上げた。


「ザクレン!」

久闊を叙するよ(おひさしぶり)、サカキバラビデオ。こうして顔を合わせたのは、貴様が魔王様を倒して以来かな?」


 その男の、つまり、誘拐犯(ザクレン)の笑顔は、虚無主義(ニヒリズム)冷笑主義(シニシズム)悲観主義(ペシミズム)を足して、三で割らずに倍加したような……、ぞっとしない種類のそれであった。

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