戦後処理
帝国の新兵器による共和国首都の消滅によってシグマ・ラース戦争は停戦することとなった。
それによりシクス将軍は第六艦隊と共に共和国に駐留し戦後処理にあたる事となった。ワンス将軍とジース将軍は仕事があるからと戦後処理からは逃げたようだ。
道中で見た共和国“旧”首都は全てが破壊され何も残っていなかった。草原の中にぽっかりと穴が空いているような見た目で、街の中心部と思われる場所には小さなクレーターが出来ていた。
シクスは共和国の臨時首都に駐留した。この街も古くから栄えており、中世の雰囲気が色濃く残っている。
帝国軍の入城を祝して、臨時首都にて軍事パレードが行われることになった。
街のいたる所に帝国旗が掲げられ、壮大な音楽と共に帝国の兵士達が行進してきた。当たり前だが、共和国市民に歓迎の様子はなく、家の窓は閉ざされ、路地裏にすら人の姿は見えない。
「将軍様、少しお話したいことが」
パレードの最中、将校の1人が声をかけてきた。席を外し、人目のつかない所まで行くと話が始まった。
「共和国の技術研究所から航空艦隊に関する情報が見つかりました。おそらく帝国から持ち出された物かと思われます。他国に送信された記録も見つかりましたので、航空艦隊が世界中に普及するのも時間の問題かと思われます」
「誰が漏らしたのか調査しなければならないな。ありがとう。本国にもそう伝えてくれ」
まずいことになった。帝国の技術が漏れていただけならまだマシだったが、それが全世界に共有されたとなると、これまで技術力だけで世界を席巻していた帝国の立場が揺らぐことになるだろう。世界戦争に発展するかもしれない。
「シクス。もう話は聞いていたか」
「ジース兄さん?もう帰っておられたのでは?」
振り向くと、本国に帰ったはずのジース将軍が立っていた。シクスの質問は無視し、ジース将軍は話を続けた。
「帝国の技術が漏れたということになっているが、実際は違うんだ」
「どういうことですか」
「シクスは『世界神話』を読んだことがあるか?」
「はい。子供の頃に絵本で読みました。世界の成り立ちについて書かれていましたが、少々現実離れしたところがあったと記憶しています」
「実は、世界神話は世界中の神話や伝承を集めて似通ったところを繋げた話なんだ」
「はあ。世界中に無数にある神話が繋がるなんて不思議ですね」
「なぜなら、全ての神話には“原本”が存在するからだ。我々はそれを『惑星記』と呼んでいる」
「少し話が掴めません。一体どういうことですか?」
ジースは普段、表情がわかりにくい人物なのだが、この時は少し緊張した様子だった。
「シクス。これから言うことは全て信じろ。現皇帝ルーサスが即位して数年が経った頃、帝国領内で『惑星記』と書かれた本が見つかった。調べてみると世界神話によく似たことが書いてあり、加えて古代の技術が記されていた。研究者によるとそれらは数億年前に栄えた生物が発明した技術らしい。航空機や戦車などの侵略戦争時代に実用化された兵器は全て惑星記を基に作られた。もちろん航空戦艦もその内の一つだ。しかし、同時に世界には『惑星記』の写本が多く存在することもわかってきた。帝国にあるものにも欠けている部分が多くある。だから皇帝ルーサスは世界中にある惑星記を秘密裏に回収し、惑星記の完成を目指していた。そんな時に共和国は惑星記を使って航空艦隊を完成させた。他国も共和国からの技術提供で続々と艦隊を建造中らしい」
ジース将軍から話された内容は衝撃的すぎて頭が混乱した。人類だけがこの惑星で唯一知能を持った生物じゃなかったのか?帝国は独自の技術力で世界を支配したのではなかったのか?ひとまず混乱する頭を整理しながら、シクスは聞いた。
「ジース兄さんはいつからこのことを知っていたのですか?」
「将軍に就任してから知った。シクスにもいずれ話されると思っていたが、父上もワンスも何も言わないから私が代わりに言っている。おそらく新兵器のお披露目の時にでも言うつもりだったのだろう」
「ということは、あの新型爆弾も?」
「ああ。A-1 通常爆弾型核兵器だ。放射能…というものの制御を行なって純粋な爆発力だけを取り出しているらしい。皇帝陛下も他国が航空艦隊を配備することがわかっていて新兵器をワンスに持たせたんだろうな」
全く意味がわからないまま、ジース将軍は去っていった。遠くでは帝国を讃える勇猛な音楽が流れていた。
「帝国初の航空戦艦撃沈と共和国首都の制圧に貢献された搭乗員の方々です!拍手でお迎えください!」
空気をビリビリと振るわせる拍手で出迎えられたセイツェマン達は帝都でテレビ番組に出演していた。
本国に帰ってからというもの、第六航空艦隊第三中隊三番機は一躍有名となり、新聞やテレビに引っ張りだことなっていた。
「戦艦を撃沈した時はどのような気持ちでしたか?」
「討ち取ったり!と大声で叫びましたよ」
アモスは自慢げにそう語るが、本当は怖くて目を瞑っていたのは搭乗員の誰もが知る事実である。以前、除隊すると言っていたアモスだったが讃えられるのが嬉しくなったのか、戦争が終わっても軍を離れることはなかった。
「共和国首都に爆弾を落とした時はどのような気持ちでしたか?」
セイツェマンにも順番が回ってきた。
「これまでに死んだ仲間の敵討ちができたと嬉しくなりました」
この手の質問にも慣れてきたが、初めて聞かれた時は戸惑ってしまった。こんな兵器がこの世に存在して良いのか、そう思ったのが実際の感想だ。一瞬にしてこれまで築き上げてきたものが崩れ去る光景は一生忘れられないだろう。
「以上で今日の番組は終了です!みなさま、ごきげんよう!」
テレビ収録が終わり一息ついていたところにランドル少尉が近づいてきた。
「セイツェマン、僕たちがやっていることは間違えてないよね」
「どうしたんだよ、急に」
「戦艦も沈めて首都も破壊して、数えきれないくらい多くの命をたった6人で失わせたのに、こんなに褒められても良いのかな。立場が違えば大量殺人で死刑だよ」
「元々攻撃してきたのはあっちだ。だからこんな仕打ちを受けても文句は言えないよ。だから気にする必要はない」
「そうか。ありがとうセイツェマン」
セイツェマンはランドルの後ろ姿を見ながら自問していた。私たちは多くの人々を殺した。共和国の首都にいた罪のない人をも巻き込んで。あの閃光の下には日常があった。それをたった6人で徹底的に壊したのだ。こんな世の中は間違えている。人を殺すことで讃えられる世の中、この世の中は早く終わらせねばならない。
「おい、セイツェマン。集合だ」
アモスの声で我に返る。
軍服を着た将校は6人全員が揃っていることを確認すると
「シクス将軍様がお呼びです。早く支度を済ませてください」
と言った。テレビでの発言が不味かったのだろうかと話しながら重い足取りでシクス将軍の待つ「帝都参謀本部」へと向かった。




