首都上空にて
「シクス将軍様!敵艦隊視認まで残り間も無く!」
友軍の艦と艦の間を切り裂く砲弾の音と共に敵の艦隊が姿を現した。帝国の航空艦隊よりは少しずんぐりとした体型で機敏に動けそうには見えないが、艦のあらゆる場所に大砲が備え付けられているのがわかる。そこから一斉に放たれる砲弾のいくつかは友軍の艦に当たり、炎上している。シクス将軍は戦艦シクスの司令室にいた。
「機動戦闘機隊および機動爆撃隊を発進せよ」
そう告げると航空機が射出され、敵艦へと向かっていった。
「第二次攻撃隊発進完了」
艦内には慌ただしくアナウンスや警報が鳴る。その度に艦のどこかで大きな音が鳴り、揺れる。シクス将軍は昔、侵略戦争時代の華々しい海上戦の話をワンス将軍に聞いたことがあったが、現実は想像以上に汗臭く緊張感が漂っており、どこにも華々しさはない。
「敵機接近!敵機接近!10時方向撃ち方始め!」
アナウンスがあると全ての大砲が同時に火を吹き、敵機はあっという間に撃墜された。今のところ航空機相手には少々力を持て余しているが、敵の航空艦隊には一つの攻撃もできていない。早く大きな一手を打たなければ膠着状態となり、被害が増すだけになるだろう。
「友軍駆逐艦に敵の砲撃が命中!炎上しています!」
「すぐ付近の艦に救助命令を出すんだ!」
駆逐艦は燃え盛り、黒煙を上げている。近くにいた別の駆逐艦が救助のために近づいているが、あの様子では近づけそうもない。救助活動が十分にできないまま、駆逐艦は艦中央で爆発を起こし真っ二つに割れて地上へと墜ちて行った。帝国軍航空艦隊史上初めての損害となった。
「第二次攻撃隊より報告!間も無く敵艦隊上空。爆撃態勢に入る、と」
「シクス将軍様、ここは航空攻撃が終わり次第こちらも主砲を発射すべきかと。距離は近いですが、あの装甲なら十分主砲の有効射程内です」
将校がそう告げる。彼の名前はドーゲンと言い、侵略戦争時代では海上艦に乗っていたベテランだ。
「わかった、そうしよう。第二次攻撃隊の攻撃終了に合わせて主砲の一斉射を行う。各員準備せよ」
主砲発射準備のブザーが鳴ると、艦の前方に搭載されている主砲が敵艦隊に向けて大きく首を動かした。
「第二次攻撃隊の予定攻撃終了時刻まで残り30分。ただ今の損耗率はおよそ10%です」
敵艦隊上空の激しい戦闘の様子がここからでもよく見える。空は黒い弾幕で覆われ、ところどころで爆発が起こっている。敵か味方かわからない火球も地上へと降り注いでいる。初の艦隊戦、一筋縄ではいかない。
第二次攻撃隊の作戦終了が告げられた
「第二次攻撃隊は各機帰還中です。損耗率は50%」
「戦果は?」
「巡洋戦艦1、巡洋艦5、駆逐艦多数撃沈です。敵艦隊の戦艦級は残り3隻です」
「攻撃隊の空域からの退避が完了しました!いつでも撃てます!」
レーダー部隊から活気のある声が聞こえてきた
「総員!衝撃に備えよ!」
大音量のサイレンが艦隊中に響き渡り、最終確認が始まった
「砲弾装填完了」
「主砲をレーダーに連動。弾道計算開始」
「甲板に出ていた兵の艦内退避が完了」
「弾道計算終了。誤差修正」
「全電源を主砲に接続完了」
「ブザー鳴らせ」
艦内に主砲発射のブザーが響く
「主砲斉射用意」
「発射!」
それまで静かだった空に、龍の咆哮が響き渡った。それは雷を束にしたような音で空気を振動させた。
「主砲発射成功」
「弾着まで残り15秒」
14、13、12 … カウントダウンが進んでいく。艦橋の空気は咆哮の余韻が漂い、微かに揺れていた。
「3、2、1、今!」
その瞬間、敵艦隊で大きな閃光が走った。砲弾は敵戦艦を縦に貫き、大爆発を起こして落ちている。
電源が落とされ薄暗かった艦内が爆発の光で照らされる。艦内は大いに湧き立った。敵戦艦の光に多くの笑顔が照らされている。
その時、艦隊左翼に展開している第一艦隊のワンス将軍から連絡が入った。
「シクス、飛び立った特別任務中の爆撃機から連絡はあったか?」
「いえ、まだ何も聞いておりません」
「そうか。なるべく早くしろと伝えてくれ。新兵器の威力をこの目で見てみたいからな」
「わかりました」
将軍は通信兵に任務中の爆撃機に伝言を伝えるように命令した。艦内の興奮が冷めることはなかった。
「おい、ワンス将軍から早くしろと連絡があったぞ」
「こっちだって敵のレーダー網かいくぐってる最中なんだから呑気なこと言わないでほしいな」
ジェルソン大尉とヴェルン大尉が話しているのが後部銃手席にまで聞こえてくる。
母艦を出発してから3時間。大きく迂回をしながら三番機は草原の上空スレスレを飛んでいた。舗装された道が多くなり、民家も目立ってきた。敵の首都まではもう間も無くだ。
「もうすぐ敵首都だ。みんな、気を引き締めていけよ」
ジェルソン機長はそう言うと機体を大きく持ち上げてグングン高度を上げていく。機内には被探知警報が鳴る。
「見えたぞっ!首都だ!」
地上に広がる放射状の街並みは中世から続いてきた古い歴史を感じさせる。その街に配置された高射砲から砲弾が飛んでくるのもよくわかる。
「敵さんが花火を上げてくれてるぞ」
「こっちもすぐにお返ししましょう」
爆撃手キースは地上と地図を見比べながら大統領府を確認している。
「ありました!あのバカでかい石レンガの建物が共和国大統領府です!」
「よし任せろ!爆弾槽開け!」
扉が開き、共和国の風が流れ込んでくる。機体は速度を上げ、大統領府へと向かっていく。
「投下!投下!」
爆撃手の声で新型爆弾が投下された。風を切る音が機内にも聞こえてくる。
機体は大きく旋回し、エンジンを唸らせながら速度を上げていく。
「もっとスピード上がらんのか!」
投下後は急いで退避せよ。これが将軍から頂いた命令だ。
「おいランドル!カメラ回せ!ワンス将軍様に送りつけるんだ!」
アモスが大声で叫んでいる。爆弾を投下したことで機内の雰囲気は最高潮に達した。
その時、機内が光に包まれた。
慌てて外に目をやると上空からは衝撃波がはっきりとわかり、大きな雲が立ち上っていた。空にかかっていた雲もすっかり晴れて、大きな雲ひとつだけが共和国の空に浮かんでいる。先程まで賑わっていた機内もすっかり静かになってしまった。全員が言葉を失っていた。これを使えば世界は本当に滅んでしまうかもしれない。帝国は世界を滅ぼしてしまうかもしれない。そんな思いが駆け巡る。
「広き大地に神の雷降りし時、人は作られ世界は生まれ変わった」
静かだった機内でランドルが始めに口を開くと機長も口を開いた。
「なんだそれ」
「世界神話の冒頭ですよ。人類誕生の場面です」
こんな破壊的な光景を目の前にして“誕生”などという言葉が出てくるのが疑問だったが、皆、そんなどころではないのだろう。母艦に帰るまで機内で会話が起こることは無かった。




