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惑星記  作者: フランクなカイザーフランク
第三章 対帝国秘密同盟
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秘密行動

 ミニーム共和国軍の壊滅からしばらく経った。帝国は相変わらず眼前にそびえ立つ山脈を眺めるだけで、身動きが取れずにいた。ミニーム国内の情報収集が急がれる中、第29A特務大隊に新たな指令が下った。


「シクス将軍様から新たな命令を受けた。任務はミニーム共和国内の偵察と工作部隊の降下支援だ。明日から2週間毎日ミニームを偵察することになる。初日の明日は第一中隊が出撃し、その時にミニームへ帝国の潜入部隊を降下させる。その後も各中隊が日替わりで任務を行うことになるが、エネルギー残量に余裕がなくなった場合は無理せず撤退せよとのことだ。何か質問はあるか。…ないなら以上だ。各員出撃に備えてくれ」


 解散後、例によってアモスがセイツェマンに声をかけた。


「潜入部隊ってどこから飛び降りるんだろうな」


「新しく扉をつけるわけにもいかないから爆弾倉じゃないか?」


「そんなわけあるか。人間の権利ってもんがあるだろ。爆弾じゃないんだから」


 翌日の早朝。格納庫にパラシュートを背負った兵士がやってきて何の躊躇いもなく爆弾倉から機内に入った。呆然とそれを眺めるアモスにセイツェマンは言った。


「潜入部隊って意外と軽装なんだな」


「いや、2番機には爆弾を持った部隊が乗るらしいぞ。役割分担があるんじゃないか?」


「なるほど」


 第一中隊と潜入部隊の全員が機体に乗り込むと、全機のエンジンが始動した。


「第29A特務大隊第一中隊、全機発進」


 ジェルソン少佐の合図で全機が射出された。まだ日は昇っておらず、空は暗い青から少しずつ赤く燃え始めていた。


「予定通り少し迂回して山を越える。全員マスクをつけろ」


 機体は高度を上げ、気温も下がってきた。山は太陽を隠しているが観念するのももう間も無くである。


「これだけ晴れてれば見つかる可能性も高い。十分警戒しろ」


 編隊は高度を上げ、ついに太陽を見た。赤い光に包まれる空を中隊は飛んでいく。爆弾倉では潜入部隊の兵士が地図を見ながら今後の作戦を練っているようだ。セイツェマンは気温が下がっても銃座が動くことを確認すると雲ひとつない空を見渡した。太陽が昇っている反対の空には取り残された星たちが輝いていた。


 それから少し飛んで中隊は山を越えた。高度を落として山の影に入るとジェルソン少佐が言った。


「間も無く降下地点。降下まで残り1分」


 潜入部隊は装備の最終確認をし始め、中隊は速度を落とした。


「下部エネルギー装甲解除。爆弾倉展開。降下まで残り10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、降下」


 爆弾倉から潜入部隊が飛び降りると中隊は速度を上げて進路を変えた。潜入部隊の開いたパラシュートがかろうじて山肌に見えている。


「全機、高度を上げろ。偵察任務を行う。今回は主にミニームの都市を中心に撮影する」


 ジェルソン少佐が言うには、警戒されていないうちに首都を含めた主要都市の撮影を済ませるとのことだった。セイツェマンはそんなに上手くいくか疑問だったが、ここまでまだ発見されていないことを考えると意外と大丈夫なのかもしれないと思っていた。


「レーダーに何か映りました。おそらく敵です」


 キース大尉が言うとジェルソン少佐は中隊に命令した。


「全機、エネルギー装甲を展開して敵首都を強行偵察する。終わればすぐに帰還だ」


 中隊は速度を上げて目標の首都へと向かった。敵と思われる影はまっすぐこちらへ向かってきており、会敵は必至となった。


 太陽が完全に空を照らしミニームの街に朝がやってきた頃、突然警報が鳴り響いた。それは敵の襲来を知らせていた。


「キース!絶対に失敗するなよ!もう一回は無理だからな!」


 地上に加えて空中の戦闘機からの激しい攻撃に晒されながら中隊はミニーム首都上空を飛行していた。今回は爆弾を積んでいないこともあってエネルギーに余裕はあったが、それでも砲撃の中を飛ぶのは肝が冷え、一刻も早い帰還が望まれた。


 ふとセイツェマンが下を見ると、そこには初めて見るミニーム共和国首都の姿があった。政府の中央機関と思われる施設の前にはとてつもなく広い大通りがあり、中心部から少し離れた場所には工場の煙突が林立していた。


「任務完了!すぐにここを出るぞ!」


 山を越えるまで砲撃やミサイル、敵戦闘機は執拗に中隊を狙い、余裕だと思われていたエネルギーも艦隊に着く頃にはほとんどなくなっていた。ここで撮った写真はシクス将軍に渡され、シクス将軍は写真を受け取るとすぐにオトシュ王都にいる第七艦隊へと飛んだ。


 シクスが第七艦隊に着く頃にはすでに他の5人の将軍が集まっていた。第三将軍サースはシクスを見ると話しかけた。


「シクス、お前の活躍は聞いてるぞ。オトシュ攻略の後すぐにミニームの撃退までしたそうじゃないか。立派になったな」


「ありがとうございます。ですが今回は運が良かっただけですね」


「そうなのか?」


「はい。あの地域は最近地揺れが多いそうで、それに助けられたみたいです」


「そのイレギュラーがあっても作戦を遂行できたのは力があったからこそだ。もっと自信を持て」


「はい。ありがとうございます」


 そう話していると、皇帝が入ってきた。6人の将軍は立ち上がり、皇帝が座るのを待った。


「今日皆に集まってもらったのは、今後の計画を練るためだ。オトシュの件も片付き、他の参戦国とも交渉が進みつつある。だが、エアード王国やミニーム共和国とは依然として戦争中だ。皆の意見を聞きたい」


 皇帝が話し終わると、ワンス将軍が言った。


「まずは現状を確認します。オトシュ国内は帝国軍によって統治が行われています。対帝国同盟に加盟していたいくつかの国とも講和交渉が終わり、数カ国は調整中です。エアード王国はオトシュが降伏してから一切の軍事行動をしていませんが、講和の提案は全て拒否されています。シクス将軍、ミニームの方はどうですか?」


 指名を受けたシクスはミニーム首都の航空写真を含めたいくつかの資料を見せながら説明を始めた。


「これまでの情報から、ミニーム共和国は当初の想定よりもはるかに多い戦力を保持しているものと思われます。オトシュ王国などに残っていた資料からはミニームが武器の生産を増強させていたこともわかっています。またミニームは他国から鉱石や燃料を大量に買い付けており、その取引相手にはラースの抵抗勢力もありました。ミニーム共和国は今のエアード王国と同じくらいかそれ以上の継戦能力を有していると思われます」


「航空戦艦もあるのか」


 皇帝は少し驚いたように聞いた。手元の資料には谷を抜けた先にいる航空艦隊の記述があった。


「はい。おそらくエアード王国製のものだと思われます。ですがそれ以上に手を焼いているのは航空機攻撃です。ミニーム軍は絶えず航空攻撃隊を第六艦隊や地上軍に送っています。それにより弾薬の消費も多いため、より安定した補給が求められます」


 将軍たちは資料をめくり、黙って目を通していた。紙の擦れる音だけが響き、緊張した空気が流れていた。


「今の第六艦隊にミニームが山を越えてきた時に対応できるだけの戦力はありますか?」


 ワンス将軍の言葉が沈黙を破る。


「今の状態では厳しいと思われます」


「補給が十分であれば対応可能ですか?」


「兵士の疲労も重なっています。もう少し戦力が必要です」


 ワンス将軍は考え始めた。他の将軍はその様子を見ていたが、特にこれといって案があるわけではなく、再び沈黙した。


「A-1の無制限使用を許可するのではだめなのか?」


 皇帝の言葉に将軍たちは少し驚いた。


「ミニーム軍は谷から抜けてきます。敵がまとまった所に落とせば進軍を遅延させることはできるかと思いますが…」


 シクスはワンス将軍の顔を見た。ワンス将軍はまだ考えていたが、他の案は思いつかない様子であった。


「ならそうする他ないだろう。敵の侵攻時には私の責任でA-1の無制限使用を許可する」


 皇帝の言葉でミニームの話題は打ち切られた。ワンス将軍はどこか腑に落ちない様子であったが、次の話題に移った。


「次ですが、エアード王国についてです。エアード王国は我が国からの呼びかけに全く応じず、オトシュとエアード王国の間にはエアード王国軍が防衛線を築いています。オトシュ国内の不安要素を取り除くためにもエアード王国との講和、もしくは降伏は最優先事項です。そこでエアード王国侵攻作戦を実施し、対話の機会を作ります」


 ワンス将軍から資料が配られた。そこには作戦の概要とエアード王国の詳細な情報が記されていた。


「侵攻作戦には第二航空艦隊、第三航空艦隊、第四航空艦隊、第七航空艦隊が参加します。大まかな流れは第七艦隊の特殊砲を用いてエアード王国艦隊および地上の防衛線を破壊し、この川まで進軍します。川まで来たところでエアード王国に再度対話の機会を持ちかけ、ここで応じなければ王都まで一気に攻めます。強引ですが、第七艦隊を中心とする戦力であれば十分可能です」


 第七艦隊の威力はオトシュ戦線ではっきりと証明された。将軍の誰にも異論はなく、作戦は決行されることが決まった。


 一通りの話が終わると、皇帝が話し始めた。


「長い戦争になっているが、皆が全力を尽くしてくれていることに感謝する。…それと以前集まった時に、我々シグマ帝国は世界統一を目指すと言ったな。考え直したが、最近は少し先走り過ぎてしまっていたようだ。皆に苦労をかけたことを謝る。申し訳ない」


 謝る皇帝の姿を見て将軍は動揺したが、ワンスとシクスは静かにそれを見ていた。


「だが、来るであろう滅びの日までに人類が団結しなければならないのは事実だ。そこで皆に提案がある。各国の指導者や優秀な人材を集めて国際組織を作るのはどうだろうか。それにはかつての敵だったオトシュ王国や今現在戦争中のエアード王国も入る。皆の意見を聞きたい」


 皇帝が聞くとジース将軍が手を挙げた。


「その優秀な人材というのにはかつての敵国の戦争責任者にあたる者も含まれるのでしょうか」


「過去の罪は関係ない。優秀であると認められるなら採用されるだろう」


「ですが、それでは市民から疑問に思われるのではないですか?帝国を襲った張本人が世界の中心に来るとなると相当の反発があると思います」


 するとシン将軍が発言した。


「そういった人物がその国で支持されているのも事実です。世界をまとめようと思うのなら、帝国の人間だけで固めるのではなく、特定の地域をまとめて従わせられるような人物も必要だと思います」


 ワンス将軍もそれに続いて言った。


「私もそうだと思います。世界の中心になるなら、世界の隅々まで意見を聞かないと意味がありません。ましてや今回は人類の存亡が関わっているので、よりそういう点は意識すべきだと思います」


 一通りの意見を聞いて、皇帝は言った。


「そうか。皆の意見はよくわかった。参考にする。この国際組織を設立するかどうかも全く決まっていないが、その時には皆に伝える。おそらくこの中の何人かは入ることになるだろうからな」


 将軍会議は終わり、この会議でミニーム共和国の件は保留とし、エアード王国への侵攻が優先されることとなった。

 一方で戦後世界の構想も練られ、人類の誰一人も取り残さず滅びの日を迎えるために、帝国は密かに動き始めたのだった。いずれ地上から文明が消える、その日に向けて。

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