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惑星記  作者: フランクなカイザーフランク
第三章 対帝国秘密同盟
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国民が平等な国

 帝国軍により補給路が断たれ、送り込んだ師団の全滅が伝えられた時、ガイス大統領は生きている作戦責任者と政府の高官を別荘に集めた。


「シュトラーフェ少将が何とも痛ましい様子で亡くなっていたそうだ。悲しいことだ」


 大統領はそう言うと煙草に火をつけて白い煙を吐いた。壁に飾られた大統領の肖像画がテーブルを囲む人々を睨む。


「敵はすぐそこまで来ている。あの山の向こうだ。この意味がわかるか?」


 大統領が質問するが誰も話そうとはしない。大統領は煙草を直に机の上に置き、灰の落ちた場所は少し黒く焦げた。


「ここにいる誰もこの意味がわからないのか!」


 大統領は机を叩き、机を囲む人の前に置かれたグラスが揺れる。


「資源をあれだけ用意してやったというのに帝国の街一つすら攻められないお前達なら理解できないのも無理はないか。なら教えてやろう。お前達が作戦に失敗したせいでこの国は建国以来の危機に瀕しているのだ!何としてでも帝国を叩きつぶせ!ラースの資源地帯を確保しろ!」


 すると軍服を着た男が顔に汗を流しながら立ち上がった。


「大統領。帝国との間には山があります。手に入っている情報から、帝国の航空艦隊には山を越えるほどの能力はなく、谷を抜けるのにも一隻ずつでなければいけません。なので今すぐに攻められるということはなく…」


「そういうお前達の油断が今の状況を生んだのだ!おい、こいつを連れて行け!」


 男が連れていかれる中、大統領は声を荒げ、机を囲む全員が下を向いていた。


「言っておくがな、士官学校を卒業していない私はこの国のトップにまで上り詰めたんだぞ!ろくに学校にも行けていない私でさえここまでのことができるのに、士官学校というのは無能製造機なのか!」


 誰も話さず静まり返った部屋で、スウィンターは大統領に言った。


「ヘキシンは資源の輸出を約束してくれています。ですので戦争が続けられなくなったわけではありません。まだ反撃の機会はあるかと思います」


「だがな、スウィンター。それを使う上官がこれでは無用の長物だ」


 すると軍の上層部である1人が立ち上がった。


「大統領。よろしいでしょうか」


「なんだ」


「今回の敵領内への侵攻は失敗しましたが、空軍による波状攻撃は一定の成果を収めていました。加えて、補給路が断たれるまでは我が軍は優勢でした。複製師団の効果は明らかにあります。戦場が変われば必ず勝つことができるでしょう」


 この報告は事実に基づいていたが、少し脚色されていた。しかしそれでも大統領を満足させるには十分すぎる報告だった。


「そうか。今回は戦場が悪かったということだな?」


「はい。その通りです」


「ならお前なら帝国を倒すことができるのか?」


「理想的な戦場と大統領の師団があれば十分可能かと」


 他の者は誰一人として話さなかった。帝国を倒せるなど誰も思っていないからだ。


「ならお前を帝国との戦争の最高責任者とする。期待してるぞ」


 将軍や高官が帰った後、大統領はベランダに出て雄大な山々を眺めていた。


「スウィンター、久しぶりの故郷はどうだった」


「近代化が進んで以前とはまるで景色が違いました。首長はミニームをはじめとする諸外国のおかげだと言っておりました」


「そうか。資源の輸入も話がついたんだな?」


「はい。軍を動かすことはできませんが、貿易なら大歓迎だそうです」


「だがやはりエアード王国が邪魔になるな…」


 スウィンターは大統領がここにきてもエアード王国と開戦するつもりでいることが信じられなかった。帝国への足がかりが消え、むしろ窮地に陥っているにも関わらずこの人はまだ戦争をしようとしているのか。

 すると誰かが部屋をノックした。


「失礼致します。大統領、国民軍の代表がお見えです」


「もうそんな時間か。すぐに行く」


 スウィンターは初めて聞く単語だった。


「国民軍とは何ですか?」


「国民軍は一般市民を統括している組織のことだ。これから国が一丸となって戦うために私が名付けた。今は主に国営工場の管理だが、将来は一般市民の武装組織にするために今日話し合うことになっている」


 スウィンターは部屋を出る大統領に従って国民軍の代表に会いに向かった。ドアを開けると元軍幹部なのであろう大柄な人物が勲章でいっぱいの軍服を着て待っていた。


「おお、大統領。ご無沙汰しております」


「まあ座ってくれ。いつも世話になってるな」


「いえ。国民を一つにするというのは大変名誉なことですから、むしろこちらが感謝すべきです」


「それで、生産の方はどうなってる。順調か」


「はい。今のところ生産数は維持できております。航空戦艦の製造も順調です」


「そうか。もうすぐ物資が手に入ることになっているからこれからはもっと増産してくれ」


「かしこまりました」


 会話に一息ついたところで国民軍の代表が切り出した。


「それで市民武装の件なんですが、週一回の訓練でどうでしょうか。それなら今の生産数を維持しながら訓練もできます」


「週一回か…」


 大統領は不満げな様子であり、それを察して代表は調子を変えた。


「ですが、子供も生産に参加できれば十分週に3回以上の訓練が可能かと思います。どこも人員が足りておりませんので、どうにか数さえ揃えられればという感じです」


 大統領は少し考えていたが、結論は決まっていた。


「よし。子供も働かせよう。それで訓練は週五回だ。できるか?」


「はい。可能です」


 話はまとまり、二人は出された菓子を食べながら談笑していた。その話題はどれも取るに足らないものだったが、ある話題はスウィンターの耳を刺激した。


「そういえば、大統領はエアード王国にも攻め入るおつもりだと聞いたのですが、それは本当ですか?」


「今はそのつもりでいる。周辺諸国にはこの国に賛同してくれるものも多いし、何よりここからすぐ北にあるエアード王国領は資源にも恵まれている。こちらに力があって向こうが弱っている今が好機なのではないかと思っている」


「エアード王国とも戦争するとなると装備が足りても兵士が足りないんじゃないですか?」


「そうか。まだ側近にしか言っていなかったな。これは最高機密だから詳しくは言えないが、大まかなことは話しておこう。この国にはCLN師団という秘密兵器があって、それを使えば兵士の損耗を気にせず派兵できる」


「そんな素晴らしいものがあったんですか!ならこの国は負けませんね」


「だからより一層頼むぞ」


「はい、お任せください」


 そうして会談は終わった。


 数日後。大統領の別荘には共和国の防衛作戦を立てるため軍や政府の高官が集まっていた。


「今は谷を抜けてすぐのところに航空艦隊を展開させて帝国軍の侵攻に備えています。ですが帝国軍の航空部隊やミサイル攻撃の全てを防ぎ切れるわけではありませんので、山中に新たな防空部隊の配置をすべきであるというのが空軍からの提案です」


 そうして各部門から防衛すべき優先順位が示されたが、大統領から新たに最高責任者に任命された将軍はそれらとは全く別の提案をした。


「私が提案するのは『捨て身作戦』です。帝国への侵攻作戦でCLN師団の有効性は十分証明されました。この防衛戦でも活用するほかありません。まずこの案では、帝国軍にある程度の進軍を許します」


 部屋全体がどよめいたが、将軍はそのまま続けた。


「CLN師団を第一から第五防衛線に配置し、谷を抜けてくる帝国軍を迎え撃ちます。敵の航空艦隊は一隻ずつしか谷を抜けれず十分な対地支援はできないものと考えられますし、一隻ずつなら我が国の少ない航空戦艦でも対処可能です。そして万が一、敵に第一防衛線に到達されれば、防衛線周辺を展開している味方と共に爆破します」


 どよめきは収まらなかった。味方ごと敵を吹き飛ばすという案は、もしそれでも突破されてしまえば自軍の戦力が大きく削がれた状態で戦わなければならないことを意味しているからだ。ざわつく高官たちであったが、将軍は続けた。


「この防衛線にいるのはCLN師団です。たとえここで一個師団が消し飛んだとしても次がいます。なので第五防衛線まで設定しているんです。第一が突破されればより多くの兵力を第二に投入し、第二が突破されれば第三により多くの兵力を投入します。敵は代えがきかない兵士を使っているわけですから、必ず防衛は成功します」


 CLN師団の生産は当初の予想よりも順調だった。そのことが高官たちの頭をよぎるが、それでも味方を敵もろとも爆破するのは人間として(はばか)られた。高官たちが悩んでいると、大統領が言った。


「これこそが我が国がCLN師団を持つ意味だ。そう思わないか。私はこの案を強く推す」


 そうしてこの案を主軸にした防衛計画が立てられた。山の麓にはCLN師団が数個集められ、対空設備も整えられた。山を挟んだ国境で、新たな戦いが起ころうとしていた。

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