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惑星記  作者: フランクなカイザーフランク
第三章 対帝国秘密同盟
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北の国ヘキシン

 時は戻ってミニーム共和国が帝国に侵攻を始めた頃、スウィンターは故郷であるヘキシンへと帰っていた。到着すると出迎えの者が待機しており、そのまま首長のいる館へと向かった。食料革命が起こったヘキシンでは昔に比べて人口が増え、質素な建物に混ざって首都にふさわしい高層建造物が建てられていた。


「久しぶりの首都はだいぶ発展してるでしょう」


 車の運転手がスウィンターに聞いた。


「そうですね。私が最後に出た時はここら辺も草原でしたからね」


「これからは国を強くすると首長様が決められたんです。外国から持ってきた技術も使ってこれから色々とやっていくらしいですよ」


 車は舗装されたばかりの道を進み、館に着いた。山の上に建てられた館までの長い階段を登りながら発展した街を見た。街の中心部には会社勤めと思しき人が出歩き、街の外側では工事で土埃が上がっている。こんな光景は少なくともスウィンターが子供の頃には想像できなかったことだ。あの頃は首長の館でさえ木造で、国民のほとんどが農家だったため街に出歩く人はほとんどいなかった。この国は夜明けとともに起き、日没とともに眠っていたのだ。


 スウィンターは故郷の発展ぶりに心打たれながら階段を登り切った。衛兵に要件を伝えると、首長室へと誘導された。その部屋の扉は重厚感あふれ、来る者に緊張感を与えていた。


「ミニームに派遣されていたスウィンターです。今戻りました」


「入れ」


 扉を開け、中に入る。そこには白く輝く長髪をなびかせる、あの首長がいた。


「首長様、お変わりないようで」


「フッ。まさかお前がそんな言葉遣いをするとはな。お互い、列強かぶれになったものだ」


 スウィンターとヘキシンの首長であるラマスは幼少期からの友人で、お互いのことはほとんど知り尽くしていた。


「定期的にミニームの様子は聞いているが、直接聞きたいと思っていたんだ。ぜひ教えてくれ」


 スウィンターは椅子に腰掛け、数枚の写真をラマス首長に手渡した。


「ミニームのガイス大統領はヘキシンの技術を使って大量の兵士を作りました。国中の産業は全て政府が統括し、シグマ帝国との戦争に万全の準備を整えています。今は山越えが始まったくらいでしょう。また、国民が一致団結している一方でガイス大統領は贅沢な暮らしをしています」


「これではまるで一国の王だな」


「おっしゃる通りです」


「ここに彼らの使節が来たときは民衆の生活を守るために戦うと言っていたがそれはどこに行ったのか。結局は私腹を肥やすために技術が使われたということか」


「はい。彼らは王政などの旧体制を打破すると言っていますが、ほとんどの幹部は自分が世界を治めたいという野心のみで戦争をしたがっています。それがミニームの現状です」


「人の技術を使っておいてどこまで利己的なんだ。許せん。外の人間というのは誰もがこれほど利己的なのか?」


「少なくとも私が見た人物は皆さん利己的な野心家でした」


「そのような者が国を統べているとは世界の終わりも近いな。これからはそういった輩を排除しなければならない」


「おっしゃる通りです」


「だが、今すぐに行動を起こすわけにもいかないからな。今は国際的な地位を高めなければならない。そのためにミニームには踏み台になってもらう」


 スウィンターはあることを思い出して、大切に持ってきていた文書を首長に渡した。


「首長様。ミニームはヘキシンにも戦争に参戦するように要請してきています。もし参戦するとなれば彼らはヘキシンとミニームの間にあるエアード王国領に攻め込み、そのまま占領する用意もあるとのことです」


 首長は書類に目を通すと軽く笑った。


「彼らも必死なんだな。帝国だけでなくエアード王国にも手を出そうとしている。きっと資源の眠る山岳地帯を掌握したいのだろう」


「いかがなさいますか」


 首長は少しため息をついて考えた。部屋は静かになり、窓からは陽の光が差し込んでいる。


「…そうだな。資源の輸出は行うが、軍隊の動員はしないと伝えてくれ。我々にもそこまで余裕はないのだと」


「承知いたしました」


「あくまで我々はミニームの友好国であり、同盟国ではない。だから軍事行動は起こさない。それに今の我々には外貨が必要だ。他の国と関係を築くためにも外貨を集めなければならない」


 首長との会談が終わり、スウィンターは街に出た。街には商店が並び始め、農業用機械なども売られていた。


「農業まで機械化なのか」


 スウィンターが感動を覚えていると、あるお菓子の商店に成人に近い男数人がいるのに気がついた。国の様子を調べるのも兼ねて、スウィンターは話しかけてみることにした。


「君たち、このお菓子が好きなのか?」


「え?あ、はい。小さい時から集まった時に食べるのはこれって決まってて」


「君たちはもう成人してるのか?」


「いえ、明日、成人の儀をするんです。ですから成人前に最後ってことで」


「そうか。君たちが皆成人できるように、ここは私が奢ろう」


「いいんですか。ありがとうございます!」


 この国は古くから過酷な山岳地帯にあった。食料も限られ、少しの体調不良が命取りになった。そのため、この国では成人前の若者同士で殺し合いを行い、勝った者のみが成人できるという伝統がある。「強き者は弱き者を殺さなければならない」というのがこの国でのルールで、年老いた両親をその子が責任を持って殺めるということも当たり前に行われている。しかし、食料供給が安定した今でも続いていることは驚きだった。禁止にしないのはラマスの意向なのだろう。


 スウィンターはそのまま未だ自給自足が続く農村地帯へと向かった。草原には家畜が飼われ、限られた平らな土地には器用に作物が植えられている。ヘキシンの技術で収量が大幅に増えたおかげで少ない土地でも国民を十分に養うことができるようになった。

 スウィンターは大きく深呼吸をした。高原の空気が肺を満たし脳の奥を刺激するような、そんな感覚に陥った。


 次の日。スウィンターは再び首長の館に来ていた。今日は高官としてではなく1人の友人として招待されているのだ。館の前にはすでに首長が待っており、車が停められていた。


「遅いぞ」


「今日はどこに行くんですか」


「今日はお前が見たことないであろう、新しくなった祖国を見せようと思ってな」


 車は舗装された道から未舗装の道へと走っていった。頭に雪を被った険しい山々がスウィンターを見下ろす。揺れる車内で、スウィンターは気になっていたことを聞いた。


「弱き者は死ぬ定めの文化はまだ残ってるんですね。昨日、街の若者が今日成人の儀があると話してくれました」


「そうだな。あの文化はまだ完全には消えていない。だがいずれこの文化も変えていきたいと思っている」


 スウィンターにとってラマスの言葉は意外だった。彼はその才覚があったおかげで独特な文化を持つ国の首長となれたからだ。


「それはどうしてですか?」


「これまでに、文化のせいでこの国は貴重な人材を多く失ってきた。伝統を受け継ぐ強い者だけが生き残り、国を変える可能性を秘めていた者は旧来の規則によって殺されてきた。だから私は、これからこの国を他国に負けない国にするためにはそういった人材を生かさなくてはならないと思っただけだ」


「この国を変えるかもしれない人材ですか」


「着いたぞ」


 車はある建物の前で止まった。門は厳重に警備されており、銃を持った兵士もいる。


「ここは何ですか?」


「中に入ればわかる」


 首長はそう言うと足早に中へと入っていった。スウィンターも遅れまいと急いで後を追う。

 中は若者でいっぱいだった。全員が成人するかしないかの年頃で、それぞれ小さな紙切れを持って何かを待っていた。


「あ!昨日の!」


 声がした方を見ると、昨日の若者たちがいた。


「君たちは確か今日、成人の儀に参加するんじゃ?」


「ここが会場なんですよ。それを知ってて来たんじゃないんですか?」


「そうなのか。ここへは知り合いに連れて来られただけで、なんの場所かは全く知らなかった。申し訳ないが少し急いでいるからこのへんで失礼するよ。君たちが成人の資格を得られるように祈る」


 ここは成人の儀の会場だったのか。スウィンターは心底驚きながら、ラマスが何を企んでいるのか考えていた。現状のこの国の強さを見てほしかったのだろうか。

 スウィンターはある部屋に通された。すでにラマスは到着していて、数人の職員らしき人と何か話していた。


「もうわかっているだろうが、ここは成人の儀が行われる会場だ。だが、今年から少しルールが変わる。どちらかが死ぬまで戦いが行われるのではなく、ある程度のところで勝負がついたと判断されれば相手が死んでいなくても成人が認められるようになったんだ」


「負けた方はずっと未成年のままなんですか?」


 スウィンターがそう聞くと、ラマスは笑った。


「そんな馬鹿な話があるか。国民の半分が未成年では国が立ち行かない。敗者はある条件を満たせば成人と認められる」


「どんな条件なんですか?」


「国立技術研究所に所属してもらう。ヘキシンの技術を用いた実験に協力してもらうんだ」


 ドアが開き、大男が入ってきた。


「彼は実験に協力してくれた被験者の1人だ。新技術によって体を根本から改造し、通常の人間では辿り着けない領域まで踏み込んだ」


 その大男は職員から鉄板を渡されるとその鉄板を曲げてみせた。そして、それなりに高い天井まで軽々と跳んで見せた。


「彼は肉体を強化した。他の被験者には脳を強化したりした者もいる。彼らはもはや敗者ではない。これから国を引っ張っていく立派な成人だ」


 スウィンターはしばらく声が出なかったが、正気に戻りラマスに聞いた。


「彼らは一生実験体として生きていくんですか?」


「いや、彼らはこちらが実験を要請する時以外は普通に暮らしている。農家の者もいれば、会社員の者もいる。ただ要請がある時だけ国のために協力してもらっているだけだ」


 何となく理解ができないスウィンターに、ラマスは言った。


「スウィンター、これがこの国の新しい未来だ。全員が成人し、足りないところは補完する。全員が自分の役目を全うできる世界は素晴らしいと思わないか?」


「その通りだと思います」


 スウィンターはこれまで私欲にまみれた権力者を見てきた。そういった人々は他人など二の次で、自分の野望を優先する。ラマスが見せた世界はスウィンターにはとても輝いて見えた。


 しばらく滞在した後、スウィンターはミニームへと再び戻った。

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