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惑星記  作者: フランクなカイザーフランク
第三章 対帝国秘密同盟
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奇跡作戦

 作戦開始が告げられると帝国軍が展開するありとあらゆる場所から攻撃が始まり、敵陣地には大量の砲弾やミサイルが降り注いだ。それに応じるようにミニーム共和国軍は健在だった砲台を動かして砲撃を開始し、数えきれないほどいる兵士たちに突撃命令を出した。帝国の防衛線めがけて大量のミニーム軍が押し寄せ、塹壕の中では疲弊した帝国兵と痩せ細ったミニーム兵が泥まみれになりながら生きようともがいていた。


「作戦の第二段階へ移行。戦闘機隊出撃せよ」


 第六艦隊から戦闘機が発進し、激戦が繰り広げられる戦場へと向かった。出撃してから数分後、レーダーに影が映った。


「敵の航空部隊です。まっすぐ艦隊に向かってきます」


「戦闘機隊に必ず艦隊から山脈までの道を確保するように伝えろ。総員対空戦闘配置」


 警報が鳴り、艦内の兵士はそれぞれの持ち場に移動した。第29A特務大隊は全ての出撃準備を終え、第三段階への移行を待っている状態だった。


「出撃命令が出たら全機すぐに発進するように。あとは作戦通りだ」


 格納庫にはジェルソン少佐の声以外聞こえなかった。この時、セイツェマンは比較的緊張を感じていなかった。もしかすると長い軍隊生活で緊張には慣れてしまったのかもしれない。だが心配なことはある。キース中尉が果たして成功できるのかどうかだ。さっきの様子では失敗するのも想像に難くない。もし失敗すれば代替案はあるのだろうか。考えれば考えるほどそんな不安が心を支配していった。


 一方艦橋では迫り来る敵部隊の対応を急いでいた。


「敵航空部隊の一部が迎撃を抜けました。艦隊までもう間も無くです」


 シクスはレーダーの画面を見ながら考えた。ここで制空権の確保に失敗すれば、弾薬の尽きた地上軍が突破されることは明白でありミニーム軍の侵攻を許してしまうだろう。そして決断した。


「A-3特殊砲弾の使用を許可する。すぐに主砲に装填し、敵航空部隊を狙え」


 A-3とは旧サイシュ公国上空でも使ったことのある空中炸裂型A-1爆弾だ。


「戦闘機隊には退避命令を出せ。迎撃は中止させろ」


 この状況でA-3による迎撃の失敗を考えて議論する暇など残されていなかった。大急ぎで特殊砲弾が装填され、レーダーに映る敵航空部隊に主砲が向けられた。


「味方戦闘機隊の退避が完了しました。爆発影響範囲内にいるのは第六航空艦隊のみです」


「レーダーからの情報と連動して時限信管の設定が完了しました。発射手順に入ります」


 甲板に出ていた兵士は中に退避し、この砲撃が失敗すれば艦隊の対空砲火は機能しない状況になった。シクスの手はじんわりと汗をかいている。


「A-3発射」


 その号令と共に艦隊の命運を握る砲弾が発射された。敵はもうすぐそこまで迫っている。


「炸裂まで10、9、8…」


 砲弾が向かった先に黒い影が見えた。


「敵航空部隊を目視で確認しました」


 時々その影は日光を反射して光っていた。


「3、2、1、今」


 空中に突如として火球が現れ、閃光は艦隊の影をくっきりと浮かび上がらせた。空にあった黒い影は次々と火球に飲み込まれていく。


「間も無く衝撃波が到達します」


 艦隊中に衝撃警報が鳴ると、激しい揺れと共に巨大な破裂音が艦隊を襲った。その余韻が終わらないうちにシクスは叫んだ。


「作戦を第三段階に移行!特務大隊を発進させろ!」


 戦艦からいくつもの爆撃機が射出され、編隊を作りながら上昇を始めた。その慣れた様子は艦隊にいた者に安心感を与えた。




 セイツェマンは遠ざかる艦隊を眺めつつ、これから来るであろう敵に備えた。なるべく不安なことを考えないように遠くまで目を凝らして敵を探したが、空には鳥一匹さえ見つからず余計にセイツェマンの不安を煽った。


「焦るかもしれないが敵に作戦目標が知られては意味がない。全機、落ち着いて作戦通りに動けよ」


 大隊は各中隊に分かれてそれぞれ別の場所へと進路をとった。セイツェマンら第一中隊は予定通り真っ直ぐ帝国とミニームを隔てる山脈へと向かった。


「キース、準備はいいな。落ち着いてやるんだ」


 ジェルソン少佐がキース中尉に声をかける。エンジン音と爆弾を吊るす金具が揺れる音が機内に響いていた。


 そうして中隊が山脈に近づいた頃、艦隊から無線が入った。


「敵航空隊の警戒線通過を確認。艦隊への第二波と思われる。出撃中の部隊は注意せよ」


 敵の予想進路はこれから中隊が取る進路と重なっていた。しかし敵を避けようとすると、第一段階で対空設備を破壊できていない地帯を通ることになる。ジェルソン少佐は少し考えた後、中隊にこう告げた。


「第一中隊は迂回路を取る。全機エネルギー装甲を展開せよ」


 中隊は敵の進路を避けるように迂回し始めた。予定進路から離れるほど対空砲火が激しくなったが、装甲によって順調に爆撃目標へと向かった。帰り道のことを考えるとあまり長い時間装甲を展開できない状況で、艦隊から再び無線が入った。


「第29A特務大隊第一中隊に告ぐ。敵航空隊の一部が作戦爆撃目標へと向かい始めた。戦闘機隊に迎撃を命じているが突破されることも十分に考えられる。不測の事態が起こった場合、作戦遂行の最終的な決定はジェルソン少佐に委ねることとする。幸運を祈る」


 砲弾が炸裂する中を中隊は進んだ。中隊が通る後には対空砲火の黒煙が残り、空に黒く尾を引いているようだった。敵航空隊は中隊の存在に気付いたのか、真っ直ぐこちらに向かってきていた。


「敵航空隊と思われる機影を確認しました!」


 セイツェマンが外を見張っていると、遠くに光を反射する何かが見えた。爆撃目標までは残り数分だ。


「全機このまま目標地点までエネルギー装甲を展開し続けろ。作戦は続行する」


 キース中尉はA-1爆弾の投下準備を始め、目標に近づく機内は緊張感に包まれた。その一方で敵はぐんぐんと距離を詰めており、はっきりと機影がわかるくらいまでになっていた。エネルギー残量は帰還分と少ししかない。乱戦になって装甲を展開すればすぐに尽きるだろう。


「こちら第一中隊一番機。間も無くA-1を投下する。機体下部装甲解除。第一中隊の各機は被害予想区域から退避せよ」


 ジェルソン少佐はそう言うと機体の速度を少し落としてキース中尉が誘導しやすいようにした。


「キース、落ち着いてやるんだぞ」


 キース中尉は頷くと投下ボタンに手をかけた。


「投下。誘導開始します」


 山肌に向かって落とされた爆弾は、機体からへその緒のように伸びるケーブルによって目標へと誘導されていく。キース中尉はレバーで操作しながら谷を抜ける風に流されないように爆弾を繊細に誘導した。


「間も無く爆発します。3、2、1、今」


 山の中腹で激しい光が発された。ジェルソン少佐は機体の速度を上げて脱出を試みる。山は衝撃波で崩壊を始め、土埃に包まれた。


「成功か?」


 土埃で何も見えなくなった山脈の周りを旋回しながら作戦成功の確認をしようとしたその時だった。突如空から敵戦闘機が銃撃を浴びせ、銃弾は一番機のエネルギー装甲に直撃した。セイツェマンが驚いて見上げると、それはミニーム共和国軍のものだった。土埃ではっきりとはわからないが、他にも数機いるらしい。


「敵機からの銃撃です!数機がこの機の周りにいます!」


「エネルギー残量はどのくらいだ!」


「帰還分を除くと装甲使用可能時間は残り20分程度です!」


 ジェルソン少佐は機体の速度を上げて敵機を振り切ろうとした。しかし敵は執拗に追い回し、なかなか離れなかった。


「エネルギー装甲を解除する!セイツェマン、アモス!すぐに撃て!」


 セイツェマンは銃を握る手に力を込めた。照準には機体の周りをカラスのように飛ぶ敵機が捉えられていた。


 セイツェマンは引き金を引き、たかる敵機に向かって一思いに撃ち始めた。何度も危機を切り抜けてきたことで身についた冷静さで、多少敵の銃弾が掠めても気にせず引き金を引き続けた。敵機はエアード王国空軍のような華麗な動きで土埃の中から出てきては変わるがわる攻撃を浴びせてくる。薬莢が足元に転がる金属音と機関銃の射撃音がセイツェマンの世界を支配した。


「作戦は失敗だ!撤退するぞ!」


 ジェルソン少佐の声がセイツェマンをはっとさせた。いつの間にか空は晴れ始め、山の様子を浮かび上がらせていた。山の一部は崩れていたが谷を覆うほど崩れてはおらず、敵の補給路を断つという作戦の目的は達成されなかった。

 撤退を始めた第一中隊であったが、作戦の目的に勘付いたミニーム軍の待ち伏せに遭った。地上からの砲撃と次々に襲いかかる戦闘機が搭乗員の精神を削り、生死を彷徨わせる。


「エネルギー装甲を展開するぞ!」


 ジェルソン少佐は装甲を展開したがエネルギーは帰還分しか残っておらず、不時着の可能性が高まった。ジェルソン少佐は艦隊ではなく前線基地にある飛行場を地図で探し、中隊に告げた。


「今のエネルギーでギリギリ行ける飛行場があるからそこへ向かう!」


 銃弾が装甲に当たるたびにエネルギーは削られ、行動可能時間は刻々と減っていった。地上はミニーム軍で覆われ、艦隊からの無線は敵航空隊の接近を告げている。


「見えたっ!あれが飛行場ですよね!」


 アモスが喜びの声を上げたが、地上の様子は少しおかしかった。


「こちら第29A特務大隊第一中隊。緊急着陸の許可を乞う。緊急着陸の許可を乞う」


 ジェルソン少佐は前線飛行場に呼びかけるが返答はない。


「こちら第29A特務大隊。応答せよ」


 何度も呼びかけながら飛行場に近づくと、ヴェルン大尉が言った。


「ダメだ。敵の攻撃を受けてる。あれでは着陸できない」


 前線基地は敵に囲まれ、滑走路は砲爆撃で使用不可能になっていた。


 しかしこれ以上装甲を展開すればエネルギーが尽きることは明白だ。ジェルソン少佐はエネルギー装甲を解除するように告げて、なるべく第六艦隊に近い場所で不時着できるように進路を変えた。


「最悪の場合、敵のど真ん中に不時着するかもしれん。生き残った者はこの機体の爆破を忘れるな」


 ジェルソン少佐は額に汗をかきながら、なるべく平らで敵の少ない場所を探した。しかし山脈の麓にあるこの地帯に平坦な場所などなく、地上は見る限り敵がいた。そして、その時は来た。


「残り稼働時間は10分か。あそこに見える敵のいない場所に不時着する。艦隊に救難信号を送れ」


 ジェルソン少佐は第一中隊を率いて敵中に着陸することを決めた。地面は荒く、着陸が上手くいくかもわからなかった。


「着陸時はエネルギー装甲を展開する。全員しっかり掴まってろよ」


 中隊は着陸するために徐々に高度を下げながら旋回を始めた。中隊の全機が満身創痍で、辛うじて敵の攻撃を避けている状況だった。

 降着装置を下ろして、一番機から着陸を開始した。機体が接地すると荒れた地面で機体は揺れ、何かに掴まっていないと振り落とされそうだった。速度を落とした一番機に敵は容赦なく機銃掃射をしかけてくる。


「稼働可能時間は残り5分!エネルギー装甲も持ちません!」


 セイツェマンは機体の振動でかき消されないように大声で叫ぶ。そのまま機体はゆっくり速度を落とし、ついに止まった。敵の銃弾が装甲に当たる。


「着陸できないことはない。中隊は全機着陸せよ」


 一番機に続いて第一中隊は続々と着陸した。その間も敵は機銃掃射を続けたが、燃料切れなのか弾を撃ち尽くしたのかその数をだんだんと減らしていた。


「敵が去っていきます!」


「我々が止まったからだろう。きっと次来る時は確実に仕留めに来るぞ」


 ジェルソン少佐の言葉はセイツェマンにやがて来る死の時を強く印象づけた。敵が去ったのを確認すると中隊は外に出て今後の行動を確認した。


「友軍の救助が来ないようなら、機体を爆破し敵に投降する。空から見た状況のままなら敵はそこら中にいる。無闇に戦おうとするな。自分の命を優先して行動しろ」


 全員が黙って艦隊からの応答を待った。キース中尉は背中からでもわかるほど責任を感じているようだった。セイツェマンはキース中尉に近づいて声をかけた。


「キース中尉。あれはきっと中尉の失敗ではありません。計算が間違っていたんだと思います」


「ありがとう。だがこの作戦で払った犠牲の責任はあれを誘導した自分にある。失敗は失敗だ」


 どう言えば良いか迷っていると突然地面が揺れた。駐機してある爆撃機が飛び上がるほどの揺れで、隊員達も動揺した。


「おい!地面が割れてるぞ!」


 誰かが叫んだ。皆の視線の先を見ると、中隊がいる場所から少し先の地面が文字通り割れ始めていた。揺れが続くほどその割れ目は広がり、谷のように深くなっていった。


 揺れが収まった頃、艦隊から無線が入った。


「救援部隊を向かわせた。20分ほどで到着する。燃料を補給して艦隊に帰還せよ」


 皆が少し安堵した。しかし無線は続いた。


「偵察部隊の情報によると作戦は成功だ。シクス将軍様もお褒めになっている。よくやった」


 セイツェマンらはわけがわからなかった。最後に見た時点では作戦は失敗していたはずだ。偵察部隊が見間違えたのだろうか。


 無事に艦隊に帰還した後、第一中隊はシクス将軍様から直々にお褒めの言葉を頂いた。そして爆弾の誘導をしたキース中尉は勲章を受け取り大尉に昇進した。

 セイツェマンがその時に見せてもらった谷の航空写真は明らかに補給路が埋まっていた。


「もしかしたらあの揺れで崩れたのかもな」


 格納庫に戻る途中でアモスがセイツェマンに言った。


「まあ何にせよ作戦が成功してよかった」


「それはそうだな。なあ、食堂に行かないか?生きてるうちに食べたいものがある」


「良いな。お願いしてみよう」


 セイツェマンとアモスはその足で食堂へと向かった。

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