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惑星記  作者: フランクなカイザーフランク
第三章 対帝国秘密同盟
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奪う戦争守る戦争

 第六航空艦隊がミニーム共和国軍に侵攻された村へと向かう道中、セイツェマンは世界神話を読んでいた。


「神々が一度目の大きな争いを終えた時、世界はがらりと変わった。ある神は飢え、ある神は恨み、ある神は私腹を肥やした。豊かさは偏りを見せ、神々は再び争い合った」


 ぶつぶつと読み進めながらページをめくっていく。すると、あるとろこで手が止まった。


「海を統べる神は言った。『我々ははじめて自分たちを絶滅させることのできる道具を手に入れた。これこそが我々の栄光と苦労のすべてが最後に到達した運命である。』と」


 セイツェマンはランドルが帝国を止めようとしていた答えを見つけたような気がした。


 それからしばらく経った頃、作戦伝達のためジェルソン少佐は大隊を集めた。


「敵はすでに山の麓にある村を占拠しており、住民が生きているのかどうかもわからない。わかっていることは、敵がミニーム共和国であること、山脈を大軍で越えてきたこと、防空網が強固であるということだ。何か質問はあるか」


 アモスが聞いた。


「大軍っていうとどのくらいですか?」


「わかっているだけでも10万人だ。戦車などの重装備はほとんどなく歩兵が中心で、中には軍馬もいるそうだ。現状、あまり詳しいことはわかっていない。山にいくつもある対空ミサイルが偵察部隊を妨害しているからだ。そこで我々の任務は山脈の奥深くまで入り込んで敵の規模を調べることと、爆弾で進軍を妨害することだ。それぞれ準備に取り掛かってくれ」


 解散するなりアモスがセイツェマンに話しかけた。


「なあ知ってるか?ミニームには美女が多いらしいぞ」


 そういうとアモスは一枚の写真を見せた。そこにはミニーム大統領と握手するミニーム国民と思しき群衆が写っていた。


「こんな写真、どこで手に入れたんだ?」


「知り合いから貰ったんだよ。プロパガンダ用に輸出してるやつらしい。そんなことより、この子とか良いんじゃないか?」


 セイツェマンは執拗に写真を見せてくるアモスを手で振り払いながら言った。


「そんなに気が抜けてたら戦場で怪我するぞ」


「良い子ぶりやがってよー。欲しかったらいつでも言ってくれよな」


「いらん」


 そう言うとセイツェマンは出撃準備に取り掛かった。弾薬などを確認していると、ジェルソン少佐が話しかけてきた。


「セイツェマン。さっき言い忘れていたんだが、今回は高高度を飛んで偵察をするからこれをつけておけ」


 そう言ってセイツェマンは酸素ボンベを手渡された。


「そんなに高いところを飛ぶんですか?」


「本来は低空を飛びたいが谷沿いの低いところは対空ミサイルが多くて隊に損害が出るかもしれんし、エネルギー装甲の使いすぎで途中でエネルギーを使い果たせば任務が遂行できないからな。少し重いかもしれないがボンベはちゃんとつけておけよ」


「わかりました」


 セイツェマンはボンベを背負ってマスクを着けてみた。訓練で着てやったことはあったが、装填や銃の取り回しに苦労しそうだと思った記憶がある。実際ボンベは重く、マスクで息苦しくならないか心配になった。


 そうして各機が出撃準備をしていた時、艦内にサイレンが響き渡った。


「総員対空戦闘配置。敵航空機来襲」


 準備をしていた隊員は急いで機体に乗り込み、いつでも出撃できるように備えた。焦ってボンベを背負いながら、アモスは言った。


「まだ戦闘空域じゃないだろ!なんでここまで敵が来てるんだ!」


 確かに、ミニーム共和国の持つ航空機にここまで来れる航続距離を持つものはないはずだ。来れたとしても途中で燃料切れになるだろう。セイツェマンがそう考えていると、対空射撃が始まった。




 その頃艦橋は、突如現れた敵航空隊に混乱していた。


「対空戦闘配置!副砲は射撃開始!」


 シクスはレーダーに映る大編隊を見て恐怖を覚えた。


「こいつらは捨て身で来る気だ。対空ミサイルも発射せよ」


 艦隊から発砲される弾丸や伸びていく白煙は次々と敵編隊に当たっていくが一向に数は減らない。


「将軍様!数が多すぎて、このままでは艦隊に突入されます!」


「一機でも多く撃墜しろ!戦線に着くまで誰も死なせるな!」


 敵編隊は容赦なく距離を詰め、遠くの空が黒い斑点で埋め尽くされた。


「砲撃戦開始!」


 大砲は合図とともに一斉に火を吹いた。針一本も通さないほど空には黒い弾幕が張られた。


「敵機抜けてきました!」


 黒煙を纏いながら一機、また一機と敵機が突撃を敢行する。急降下から急上昇になったかと思うと、機体から爆弾が切り離されて味方艦めがけて飛んでいった。艦は大きく回頭しながら次々に落ちるそれを避けるが敵の数があまりにも多く、数発直撃して黒煙を上げ始めた。


 しかし、最初は劣勢に見えた戦場も、レーダーと連動し完全に自動化された対空砲や熟練兵士の決死の働きによって敵機は次々に落とされ、いつしか第六艦隊が優勢になっていた。敵機は爆弾を使い果たし、もはや残党狩りとなった時にそれは起こった。


「敵機が近づいてくる!撃墜せよ!」


 一機の爆撃機が旗艦シクスに向かって突撃してきた。対空砲火が集中し、エンジンからは火が出ている。しかし敵機は突撃を止めようとはしない。


「衝撃警報!突っ込んでくるぞ!」


 サイレンが鳴ったかと思うと敵機は左舷に直撃し、甲板で大爆発が起こった。衝撃は艦中に響き、窓ガラスがビリビリと揺れた。


「消火班急げ!負傷者はすぐに収容しろ!」


 慌ただしく動く中、艦橋にいた1人の将校が叫んだ。


「別の艦にも敵機が突撃していきます!」


 皆が見た方向には、同じように味方艦に向かって突撃し甲板で炎上する敵機の姿があった。

 それから敵機が一機もいなくなるまでこの現象は続き、全部で七機が直撃して艦隊に傷を負わせた。負傷兵は少なくなく、精神面がやられて動揺する兵士も出ていた。


「甲板の修理はできそうか」


 甲板の修復が行われているのを艦橋から見ていたシクスが聞くと将校の1人が答えた。


「それほど大きな被害は出ていないので大丈夫です。今攻撃隊が出撃したとしても帰還までには修理が完了すると思います」


 それを聞いたシクスは第29A特務大隊に出撃命令を出した。




 出撃から少し経ち、セイツェマンら特務大隊は帝国とミニームを隔てる山脈を見ていた。


「今回の第一目標は敵の規模を偵察することだ。爆撃はおまけ程度だと思っておけ。さっきも言ったように高度を上げて山脈の谷沿いにミニームへと向かう。全員マスクを装着しろ」


 ジェルソン少佐の言葉を聞いて、セイツェマンはマスクを着けた。少し息苦しい気もしたが、着け続ければ慣れるだろう。

 大隊は高度を上げて山の頂上から少し低いくらいのところで水平飛行になった。


「キース、この高度で写真は撮れそうか」


「はい。谷には雲もかかってませんし問題ないかと」


 低い雲がはるか下に見える高度で大隊は飛行を続けた。するとアモスが声を上げた。


「敵がめっちゃいる!本当にあれで10万なんですか?」


 地上には、敵が拠点としている村の周りに大量の動く点が集まっていた。その動く点は波打つように山脈の谷から流れ出てきていた。


「山脈に入る。偵察部隊からの情報によれば、対空ミサイルはミニームに近づくほど増えたらしい。エネルギー装甲をいつでも展開できるようにしておけ」


 編隊は谷に入った。谷に沿うように動く点は続いており、その数は圧巻だった。


「対空ミサイルが来たぞ。全機エネルギー装甲展開」


 エネルギー装甲に当たってミサイルが爆散した。上空からだと白い筋が山肌から伸びているのがよくわかる。


 ミサイルでの妨害はあったものの大隊は順調に偵察任務をこなしていき、ミニーム共和国まで目前のところに迫った。


「ミニームまで偵察していくのか?」


 ヴェルン大尉がジェルソン少佐に聞くとアモスが言った。


「ここまで来たのに引き返すんですか?どうせなら首都の戦力とかも確認しましょうよ」


 アモスはどう考えても遊びに来ている感覚になっているようだったが、セイツェマンも少しそんな気分になっていた。ほとんど抵抗なくここまで来れたのなら首都まで行くことも容易いだろう。


 するとジェルソン少佐はエネルギーの残量を聞いてから言った。


「そんなにエネルギー量がギリギリなわけでもないから行ってみるか。帝国軍もミニームの情報がほとんどなくて困っていたようだから丁度いいだろう」


 そうして大隊は谷沿いを飛び続けた。


「この谷を抜ければ平野に出る。先が見えないから油断するんじゃないぞ」


 大隊は開けた場所に出た。するとすぐに大きな影が視界に入った。


「航空戦艦だっ!」


 アモスがそう叫んだかと思うと、敵航空艦隊は砲撃を開始した。大隊は一斉に砲撃を受けて散り散りとなり、無線も混乱した。


「全機すぐに退避せよ!山脈に戻れ!」


 ジェルソン少佐は叫びながら機体を反転させて速度を上げた。炸裂する対空砲が機体を揺らし、爆煙で視界を遮った。


「全員何かに掴まれ!谷に入るぞ!」


 対空砲の流れ弾が山に当たって崖崩れを起こし機体に覆い被さろうとするのを辛うじて避け、セイツェマンらはなんとか対空砲火から逃れることができた。一機だけで青い空を飛びながら、ジェルソン少佐は無線で呼びかけた。


「全機応答せよ!無事か!」


 何度も呼びかけたが返答は返って来ず、山の向こうではまだ砲撃の音と山が崩れる音が聞こえている。ジェルソン少佐は座席を叩いた。


「くそっ!」


 それを聞いたアモスが言った。


「少佐。申し訳ありません。私が調子に乗ってあんなこと言ったからです。本当にすみません」


 沈黙が流れる機体は青い空を漂っていた。砲撃を受けたことでエネルギー残量は大きく減っており、ここで引き返せば帰還するのは難しいかもしれない。


 ジェルソン少佐は言った。


「助けに戻ろうと言ったらどう思う」


 誰も何も言わなかったが、反対しているわけではなかった。ただ、隊を率いる一番機としての役目はそれだと皆が理解していた。


「引き返すぞ」


 機体は旋回し、再びミニームへと機首を向けた。


「キース、A-1は積んできてるか」


「はい。1発だけあります」


「十分だ」


 山の向こうではまだ砲撃音が響いている。


「こちら第29A特務大隊一番機。敵航空艦隊に突撃する。キース、A-1爆弾を投下用意」


 ジェルソン少佐は機体の速度を上げ、谷を抜けた。航空戦艦は相変わらず砲撃を続けており、その中を大隊所属機が飛んでいた。


「特務大隊全機聞こえるか。一番機だ。これからA-1を投下する。全機爆発範囲から退避し谷に逃げろ」


 機体は敵戦艦に一直線に向かい、爆弾倉を開けた。


「下部のエネルギー装甲を解除。キース、投下は任せた」


 対空砲火はどんどん増し、敵艦隊全ての対空砲が一番機を狙った。


「投下!」


 すさまじい速度で爆弾は投下され、敵戦艦へと落ちていった。機体は急加速して爆発範囲の外へ逃げた。


 いつものように激しい光が目を突いた。しかし今は爆発の成功よりも仲間が無事かどうかが心配だった。


 一番機は谷に入り、また一機だけで空を漂っていた。


「誰か聞こえるか?」


 ジェルソン少佐は無線で聞くが、返事は返ってこない。機内の全員が落胆していた時、声が聞こえた。


「少佐、聞こえますか?」


 それは無事を知らせる無線だった。その後も続々と無事を知らせる無線が入り、結局全機が無事だった。無線が通りにくかったのは山の影響だろうということだった。


 しかし、まだ問題は残されていた。エネルギーの残量だ。戦闘でエネルギーはほとんど無くなっており、もし母艦隊があまり動いてなければ帰還するのは難しいだろう。すると新たな無線が入った。


「第29A特務大隊へ。こちら帝国軍第六航空艦隊。当該空域に味方攻撃隊が間も無く到着する。留意せよ」


 第六艦隊は拠点となった村を奪還すべくすぐ近くまで来ていたのだった。おかげで大隊は損害なく帰還することができたのだった。

 セイツェマンは応急修理の跡が残る飛行甲板に降り立つと、さっきまでのことを思い返していた。


 幸運が重なって今ここに立てていること、そして誰一人欠けずに戻って来れたことへの喜びが心の底から湧いてきた。それと同時に、今までは実感できていなかった「身内を守るための戦争」を体感したような気がした。もしあそこで引き返さず、A-1爆弾を落とさなければ味方は全滅していただろう。この事実がセイツェマンの心に深く刻まれた。

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