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惑星記  作者: フランクなカイザーフランク
第三章 対帝国秘密同盟
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理想と現実の架け橋

 第一波攻撃隊の帰還が始まった頃、第七艦隊では第二波攻撃隊の出撃準備が行われていた。皇帝ルーサスは将校に聞いた。


「敵は特殊砲の射程まであとどのくらいだ?」


「残り5分で射程に入りますが、帰還中の味方がいるので発射は難しいかもしれません」


「構わん。敵艦隊が射程に入り次第撃て。一撃必中を心掛けよ」


 第二波攻撃隊は中止となり、第一波攻撃隊に退避命令が出た。混乱する艦内は何より先に特殊砲発射の準備に取り掛かった。


 主砲が動き、敵艦隊へと狙いを定める。方角はテクリが開発した新装備で完全に把握している。


「エネルギー充填開始!エネルギー装甲全面解除!」


 どこかで声が上がり、表示されるメーターがどんどん満たされていく。敵がいつこちらを捉えて特殊砲を発射するかわからない状態で無防備になったことに加え、実戦での特殊砲の発射経験は少なかったこともあり、艦隊は緊張に包まれていた。


「充填率10%突破」


 皇帝の額に汗が流れ、目はメーターに釘付けだった。隣にいたワンス将軍が水を入れたコップを持ってきて言った。


「皇帝陛下、水を飲まれてはいかがですか」


 皇帝は視線を向けず言った。


「いや、いい。置いといてくれ」


「充填率40%突破」


 機械の音が大きくなり、砲口は光り始めた。


「充填率70%突破。敵艦隊、まもなく射程内に入ります」


 地図上に映された敵艦隊は第七艦隊を中心とする円に入ろうとしていた。


「充填率90%突破。最終発射手順開始」


 警報が鳴り、メーターは満たされた。誤差を修正すると、将校が言った。


「主砲、全門発射」


 主砲から光が解き放たれ、一直線に空の彼方へと飛んでいった。一時的に艦内の照明が落ち、砲口に残った光が輝いていた。


「着弾しました。大爆発が起こっているようです」


 新装備の画面は大きくノイズがかかっていた。爆発のエネルギーが映されているのだろう。


 皇帝は椅子から立ち上がって言った。


「全艦前進。砲撃戦用意」


 艦隊は速度を上げて敵艦隊へと向かった。その間に、出撃していた攻撃隊が艦隊に収容された。多くない攻撃隊の生き残りは皇帝が直々にその戦功を讃えたことに感激し、その他の兵士の士気も上がっていた。


「数隻の戦艦を撃沈しましたが、致命打にはなっていないようです」


 遠くに巨大な雲が見え、その下には同盟艦隊の姿があった。


「敵艦隊が副砲の射程に入りました」


 将校の言葉に、皇帝は命じた。


「砲撃戦開始。敵艦隊を撃滅せよ」


 戦艦の副砲、巡洋艦の主砲が火を吹き、爆音が空全体に広がった。敵艦隊もそれに応じるように砲撃を開始し、二つの艦隊は互いに距離を詰めながら鉄の雨を降らした。


「第五、第六艦隊は敵艦隊側面に回り込め。第七艦隊は敵の中央を突破する」


 皇帝が命じると、それまで一つにまとまっていた艦隊は三つに分かれた。ミサイルや砲弾が激しく飛び交い、距離が近づくにつれて両艦隊ともに被弾する艦が出始めた。落伍していく艦がまるで見えていないかのように両艦隊は進み続けた。


「雨雲が近づいています!」


 誰かの声が聞こえたかと思うと、暗くなった空から雨粒が落ち始めた。

 艦隊を包む雨は熱くなった砲身に当たる度に音を立てて蒸発した。


「隊列を崩すな。視界が悪いのは敵も同じだ」


 艦隊は皇帝の指揮で動いた。雨の中から飛び出してくるミサイルや砲弾を避けつつ、帝国艦隊は同盟艦隊に大きく近づいた。双方に被害は出ていたが、同盟艦隊側は生き残りに砲撃が集中したこともあり被害が大きかった。


「最後の一押しだ。主砲にエネルギーを充填せよ」


 皇帝の言葉に、ワンス将軍は驚いて言った。


「皇帝陛下!何をおっしゃっているのですか!こんなに近くで撃てばこちらにも被害が出ますよ!それに、主砲が攻撃されたらどうするんですか。誘爆して大変なことになりますよ!」


 皇帝は言った。


「敵を脅すだけだ。本当に発射する気などない。満身創痍の敵にとどめを刺す意志を見せなければ、敵は降伏せんだろう」


 ワンス将軍は下がり、主砲の発射を見守った。主砲が光り始め、敵艦隊に狙いを定めた。


「敵戦艦から高エネルギー反応!敵も特殊砲を発射するようです!」


 雨で白くなった景色に、光が見えた。それはまさしく敵艦隊の方角だった。


「皇帝陛下!エネルギー装甲を展開しましょう!主砲の発射をやめてください!」


 皇帝はワンス将軍の声に耳を貸さず、主砲の発射準備を継続した。敵の命の光は最後に大爆発を伴って散ろうとしていた。


「エネルギー充填率60%。敵の発射に間に合うかわかりません」


「構わん、続けなさい」


 互いに睨み合う主砲は光を増していった。皇帝は瞬き一つせず、敵の光を見ていた。


「エネルギー充填完了。いつでも撃てます」


「本当に撃つんですか!こちらにも被害が出ますよ!」


 ワンス将軍の言葉が聞こえないかのように、皇帝は「ふぅ」と息を吐いて言った。


「撃て」


 主砲の光が一層強くなり、光線は敵艦目掛けて飛んでいった。着弾までは一瞬で、光線が敵艦を貫くと敵艦は大爆発を起こして落ちていった。残骸は飛び散り、衝撃波は周りの艦を吹き飛ばした。

 艦橋にいた者が黙ってその様子を見ていると、皇帝が言った。


「エネルギー装甲全面展開!」


 我に返ったように作業へ戻り、急いでエネルギー装甲を展開した。そのおかげで破片などが味方に当たることはなく、衝撃波だけが艦隊に届いた。艦隊全体が揺れ、それを初めて経験した者は兵器の破壊力と戦争とは何かを思い知ることになった。兵士たちは、それを恐れる者、憧れを強くする者、未来を案じる者など様々であったが、誰もが黙っていたことに変わりはなかった。


「敵に投降勧告せよ。勝負は決した」


 皇帝が投降勧告を行うと、敵はそれに応じた。地上には敵味方多くの残骸が散らばり、雨が降っていてもその炎は消えなかった。




 投降した敵艦隊の処理を進める中、ワンス将軍はアルマと会っていた。ドアを開けると、ソファに座ったアルマが読書をしていた。


「あら将軍さん、さっきはすごい戦いだったみたいね」


「大丈夫ですか?酔ったりしていませんか?」


「大丈夫よ。お気遣いありがとう。それで、どうしてこんなところへ来たの?戦場で将軍が前線にいないのはよろしくないわね」


 ワンス将軍はアルマと対面するようにソファに座った。


「この前お話しした件について来ました。皇帝陛下は市街地に向けて大量破壊兵器を使う準備を始めています。どうにかして止めていただけないでしょうか?」


 アルマは持っていた本を閉じた。


「そうね…あれから考えたけど、彼を止めるのは難しいかもしれないわ」


 ワンス将軍は驚いた。


「どうしてですか?」


「彼はね、一度思い立ったら一直線に進むのよ。周りの言うことは一つも響かない。だから私の言うことも聞かないと思うの」


「で、ですが、どうにか説得できませんか。人類の命が懸ってるんです」


「私は彼が人殺しをする悪い人だとは思えないの。彼の本心とあなたたちの思い込みがすれ違っているだけなんじゃないのかしら。彼に聞いてみたことはあるの?」


 ワンス将軍は少し焦りを見せながら言った。


「皇帝陛下は世界を統一し、人類を救うために反対する者全てを殺すと言っていました。ですが、その思いの根拠になっているのは予言という不確定なもので、そのために武器を持たない人をも殺そうとしているんです。ここで止めるのが次期皇帝、そして息子としてやるべきことだと思います。ですからなんとしてでも説得していただきたいのです」


「その予言というのは『惑星記』のことでしょ?」


 ワンス将軍は驚いた。


「彼から予言のことを聞いたわ。七つの何かを集めると世界が終わるのよね」


「は、はい。ですがそれは信用できない予言で…」


「でも、あなたたちは惑星記を元に国を発展させたのよね?なら信用できるんじゃない?」


「ですがその“滅びの時”が今であるとは限らないじゃないですか」


「少なくとも彼はそう判断した。きっとそこに根拠があるのよ」


「で、ですがっ」


 ワンス将軍が立ちあがろうとするのを落ち着けて、アルマは言った。


「私は説得しないと言ってるわけじゃないわ。説得が意味をなさないかもしれないと言っているの。さあ、彼のところへ連れていってちょうだい」


 ワンス将軍とアルマは部屋を出て皇帝の元へ向かった。向かう道中、侵攻作戦会議のために第七艦隊旗艦へ来ていたシクス将軍に会い、これまでの状況を説明した。


「状況は理解しました。皇帝陛下を呼んでくるので向こうの部屋で待っててください」


 シクスが皇帝を連れて部屋に入ると、皇帝はとても驚いて言った。


「アルマじゃないか!どうしてこんなところに!」


「どうしてもあなたとお話ししてほしいってこの子達が」


 アルマはワンスとシクスを見た。皇帝も何か察したのか、静かに椅子に腰掛けた。


「で、話とはなんだ」


 皇帝が切り出した。


「あなた、また人殺しをしようとしてるそうね。いい加減やめなさいよ」


「何を言ってるんだアルマ。この戦争は前のとはわけが違うんだ。これは人類を守るための戦争なんだ」


「あなたは前もそう言ってたわ。『帝国がここを支配すれば皆が幸せになる』って」


「だが実際に今、君は幸せだろう?」


「今が幸せなことは否定しないわ。昔が苦しすぎたのよ。でもね、やっぱり人殺しはダメ。あなただって死ぬことをあんなに怖がってたじゃない」


「お、おいやめろよ。昔の話だろ?」


 皇帝は2人の息子が驚く顔を見ながら恥ずかしそうに言った。


「死を怖がるのは誰だって一緒よ。だからその死を振り撒くのはやめて頂戴」


「うーん…だがなぁ…」


 渋る皇帝を見て、ワンスは言った。


「父上、市街地に向かって殺戮兵器を使うのはやめましょう。敵味方関係なく、無駄な犠牲を払うべきではないです」


「ワンス、この前も言ったがな、これはそんな単純な話ではなく…」


 皇帝の話を遮ってアルマが言った。


「あなたがそれでも兵器を使うのには何か理由があるんでしょう?まずはそれを教えてほしいの」


 皇帝は言った。


「何度も言うが、この世界はいずれ滅亡することになる。私はその運命を変えたい。だがそのためには世界中の人類が一丸となって動く必要があるのだ。だからこの国が世界統一を成し遂げて人類の危機を救う救世主となる、これが私の望んでいる未来だ」


 ワンスが聞いた。


「素直に言います。私たちは父上が根拠もない予言に踊らされて世界を破滅させようとしているとしか思えないんです。一度冷静に考え直してください」


 ワンスの言葉に皇帝は少し声を荒げて言った。


「私は人類存続のためを思ってこのようなことをするのだ。今目の前にある命を見ているのではない。この大義のためには犠牲は仕方がないのだ。ワンス、お前はまだまだ戦争というものに心が慣れていないようだな。戦争においてはいかなる通常の倫理も通用しない。そこにあるのは確固たる大義と殺しだけだ。アルマも何か言ってやってくれないか」


 アルマはため息をついた。


「私を親子喧嘩に巻き込まないでくれる?親も子もどっちもどっちよ。まるでお互いを理解しようとせず、自分の意見ばっかり通そうとする。ねえルーサス、あなたは自分の生い立ちを息子に話したことはあるの?」


 皇帝は顔をしかめた。


「なら私が言うわ。私と彼が出会ったのは侵略戦争が終わる三年ほど前、私は当時レジスタンスに所属していたの」


 シクスが聞いた。


「それは帝国に対するレジスタンスですか?」


「そうよ、私はもともとラース共和国の国民だったからね。そうやってレジスタンスとして活動していた時、彼が前線を視察しに来ていることを知ったの。私は抹殺するチャンスだと思って帝国軍に潜り込み、彼の側近にまでなれた。それに彼は私のことを愛していたようだから、それは簡単な任務だったわよ。でも結局はバレて尋問を受けることになったの。私は彼に向かって思っていることを全部話したわ。そしたら彼も自分の夢を語ってくれて、私もその夢が実現するなら協力したいと心から思った。その夢はね、『世界中の人々を幸せにしたい』だったの。戦乱の世の中でそんなことをいうのは夢物語だったけど、私はそれに感銘を受けたから今も彼を慕っているの。もし彼があの時から一つも成長していないとすれば、この夢も変わっていないはずよ。どうなの?ルーサス」


 皇帝は恥ずかしそうにしながら言った。


「その気持ちは今でも変わっていない。だが、それを実現するには世の中を知りすぎた。世界中全員が幸せになるには、これに反対する者を消していかねばならないのだ」


 アルマが言う。


「でもそれでは本当の意味で“全員”とは言い難いんじゃない?」


「それはわかっている。だがもう割り切るしかない。私の下に集まった者だけを幸せにできればそれで十分だ」


「でもそう思ってるのに、まだ人類全体を救おうとしているのはなぜ?」


「それは、規模が大きいからで…」


「別に帝国だけでもできることなんじゃないの?」


 皇帝は諦めたように言った。


「人類全員を救いたい気持ちはある。だができる限り、だ。世界中には滅亡の危機すら知らず生きている人々が大勢いる。私はそういった人を救いたい」


 アルマはワンス、シクスを見て言った。


「ね?言ったでしょ?彼はそんなに悪い人じゃないって。根本ではあなたたちと一緒なのよ。少し求める理想が違っただけでね」


 皇帝は立ち上がって部屋を出ようとした。


「父上!」


 ワンスが呼び止めた。


「私、勘違いしていました。てっきり昔から変わられてしまったのかと…」


 それに皇帝は答えた。


「変わってはいる。だがこれでも自分の核の部分は忘れていないつもりだ」


 ドアを開けようとして皇帝は立ち止まった。


「一つ言っていないことがある。実は、世界が滅ぶのが怖いのだ。これまで積み上げてきたものが壊れる様を見たくない。私は、予言を知ってから気づいた自分の無力さに焦りを感じていたのかもしれんな」


 シクスからは、皇帝の握るドアノブに雫が落ちたことがわかった。


 その後皇帝は特殊砲による市街地砲撃を中止し、主要な軍施設のみの爆撃に切り替えた。それから数日後、帝国軍はついにオトシュ王国領への侵攻を開始した。


 多大な犠牲を払い、帝国軍はようやく失われた領地を取り戻した。長きに渡ったオトシュ王国との戦争は終わりの兆しを見せ始めたのだ。荒れた国境部の大地には大勢の戦死者が重なり、巨大な航空戦艦も頭を土に埋めていた。雨が降っていた戦場はいつしか晴れ川が流れた。その川は戦いの痕跡を洗い流し、植物の種を運んでくる。泥と血と鉄にまみれた地は徐々に元の風景を取り戻そうとしていた。

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