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惑星記  作者: フランクなカイザーフランク
第三章 対帝国秘密同盟
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荒野解放作戦

 オトシュ戦線の少し後方にシグマ帝国軍が集結した。曇る空には第七、第六、第五航空艦隊が展開し、度重なる戦闘で荒れ果てた地上も黒い兵士や戦車で覆われていた。これから始まる作戦の第一目標は失った帝国領の奪還、最終目標は対帝国同盟本部のあるオトシュ王国王都の制圧と戦争の終結である。皇帝は第七艦隊旗艦に高級将校を集めて命じた。


「『荒野解放作戦』を開始せよ」


 命令が下ると帝国全土からミサイルが続々と発射され、数えきれないほどの白い筋が空に描かれた。そして航空艦隊は動き出し、決戦の舞台へと向かった。

 荒野解放作戦ではまず、航空艦隊による決戦で敵の航空戦艦を潰し制空権を確保する。そしてその後、地上軍によって敵の防衛線を突破する手筈になっている。ほとんどの将校がこれに賛成していたが、一方で皇帝はこれに異議を唱えた。皇帝は、同盟側が帝国の防衛線に対して特殊砲を発射しその多くを撃滅したことを再現するように命じたのだ。皇帝の発言ということもあり作戦内容の変更が検討されたが、ワンス将軍がこれに反対したため特殊砲の使用があやふやなまま作戦が始まってしまっていた。


 皇帝が作戦開始を告げた直後、1人の技術官が高級将校の集まる場に入ってきた。集まっていたうちの1人の将校が技術官に言った。


「ここは立ち入り禁止だぞ。今すぐ出ていけ」


 すると技術官は言った。


「将軍様…えっと、ワンス将軍様に急いでお伝えしたいことがございまして」


 ワンス将軍は技術官の顔を見るなり喜んだ。


「テクリ!あれが完成したのか!」


「はい。もうここまで運んでありますので、後でご覧ください」


 ワンス将軍はシクス将軍、フィフス将軍を連れてテクリが指定した場所へ向かった。そこにはテクリと共にレーダーのような画面がついた機械が置かれていた。


「ご覧ください!高エネルギー探知装置です!」


 シクスとフィフスはピンと来なかったが、ワンスは興奮した様子で機械を見た。テクリは説明を続けた。


「これは名前の通り高エネルギーを探知する機械です。特殊砲やA-1爆弾などを使った時に出る大量のエネルギーを検知して、その発生源の位置を示します」


 ワンスが質問した。


「航空機などは探知できないのか?」


「はい。残念ながら、従来型の兵器はエネルギーのロスが少なく、これで探知できるほどのエネルギーを漏らしません。なので、航空艦隊規模でないと検知は難しいです」


「まあ一番の目標は達成できたわけだからな。よくやった」


 シクスとフィフスは訳が分からず、ワンスに聞いた。


「これはどういうことなんですか?さっぱり分からないんですが…」


「そういえば説明していなかったな。これは、特殊砲の発生源を掴むための装置だ。我々はこれまで目視で確認しない限り特殊砲の発射に対応できなかっただろう?これがあれば発射方向も発射タイミングも全てわかり、視界外でも対応可能というわけだ」


 シクスはそれでもよく分からなかったが、フィフスはとても驚き感心していた。


 一方、第六艦隊にいたセイツェマンら第29A特務大隊にも出撃準備命令が下った。機体は対艦用の徹甲爆弾やA-1爆弾を積み、エネルギーや弾薬を補充して出撃の時を待った。次の作戦は機体下部の銃座を空けたまま出撃することが決まっている。自分の銃座の手入れが終わり、セイツェマンがなんとなくランドルがいた銃座を見ているとアモスが話しかけてきた。


「ランドル、なかなか帰って来ないな」


「ああ」


 ランドルは依然見つかっておらず、生きている可能性は残されている。だが、もし戻ってきたとしてどうなるのか、セイツェマンには分からなかった。


 それからしばらくして、ジェルソン少佐は大隊を集めた。


「次の作戦はオトシュ王国侵攻だ。我々は敵航空戦艦への爆撃任務に就くことになる。主に他の爆撃機が近づけない主力艦への爆撃だ。まだ敵の全容が掴めていないから話せるのはここまでだが、何か質問はあるか?」


 すると1人の隊員が聞いた。


「この前みたいにA-1爆弾が効かない戦艦だった場合はどうしますか?艦隊から主砲の斉射があるんでしょうか」


「そのことだが、シクス将軍様はなるべく航空攻撃で敵戦艦を撃沈せよとおっしゃられた。艦隊の主砲は極力使わない方針らしい。だからもし1発のA-1で撃沈できなければ中隊の他の機が2発、3発と落とせ。なんとしても1中隊1戦艦撃沈を達成しろ」


 話が終わり解散になるとすぐ艦内に警報が鳴った。


「敵航空機を発見。迎撃隊発進せよ」


 慌ただしく兵士たちが走り回り、機体が収められている格納庫にも緊張が走った。

 アモスがセイツェマンに話しかけた。


「もう敵艦隊も近いな」


「私たちも気合いを入れておかないとな」


 他の格納庫から戦闘機が射出されていく音が聞こえる。その度に床が揺れ、体が戦場を思い出す。


 しばらくするとまた警報が鳴った。


「敵航空機接近。主砲斉射まで残り1分。総員艦内へ退避せよ」


 艦内の者は息を呑んだ。


「発射」


 すさまじい爆音が響き、セイツェマンは少し宙に浮いた。他の艦も発射し、爆音はしばらく続いた。


「対空戦闘配置。対空戦闘配置」


 ついに敵が目の前まで迫り、高角砲が撃ち始めた。切れ目のない砲撃は敵の大きさを物語っていた。するとジェルソン少佐が言った。


「敵航空艦隊を発見したそうだ。この攻撃が終わり次第我々は出撃するぞ」


 その言葉を聞いて全員が機体に乗り込んだ。セイツェマンも銃座に座り、最終確認をする。

 少しすると出撃準備が整い、格納庫には砲撃の音だけが響いた。セイツェマンは近くの誰かと話したかったが、いつもの席には誰もいなかった。


 しばらくすると砲撃が止んだ。敵の攻撃が終わったようだ。


「第一波攻撃隊出撃せよ」


 艦内に放送が流れ、機体は順番に格納庫から射出された。外に出ると、敵の攻撃の規模がわかった。

 中央の艦艇には損害が少なかったものの、外縁部の艦は黒煙が上がっており、数隻は速度が大幅に落ちているようだった。セイツェマンは、帝国軍がこれまで苦しめられたオトシュ戦線の厳しさをようやく理解した。


 帝国軍第一波攻撃隊が同盟国艦隊へと向かっていた時、母艦隊から通信が入った。


「攻撃隊へ、敵迎撃隊を確認。攻撃に備えよ」


 セイツェマンは機銃を握り、辺りを見渡した。編隊を組んで飛ぶ爆撃機の間を戦闘機がすり抜けて行き、敵の攻撃に備えていた。


「敵機が映りました!2時の方向!」


 キース中尉の声を聞くや、セイツェマンは銃座を動かした。他の爆撃機の銃座も敵がいると思われる方向に一斉に動いた。すると、空の彼方に光る何かが見えた。


「敵機を目視で確認!突撃する!」


 直掩機の無線が入り、遠くに曳光弾の筋が見えた。


「何機か来るぞ!」


 アモスの声が聞こえると、向かってくる光の姿がはっきりと見え始めた。それは明らかに敵機で、翼下にはミサイルを吊り下げていた。


「まずいっ、全機エネルギー装甲を展開せよ!」


 ジェルソン少佐の声と同時に、敵機から白煙が噴き出した。その白煙は一直線に友軍機へ向かい、爆発した。他の敵機も次々に発射し、他の隊の友軍機が次々と落とされていった。


「敵はミサイルを撃ち切ったみたいだな。全機エネルギー装甲を解除、敵を落とせ!」


 セイツェマンは迫ってくる敵機を照準に捉えて引き金を引いた。しかし、敵機は機敏に動くと機体の下へと抜けていった。空中には敵味方が入り混じり、慎重に撃たなければ誤射の危険性があった。時々銃弾が機体をかすめ、その風を切る音が鳴る度に不安になる。セイツェマンは感情を押し殺して引き金を引いた。

 エンジンの爆音と機関銃の射撃音、そして弾が近くを通る音。たまに爆発が起こり炎を纏った機体が力を失ったように雲へと落ちていく。空は混沌とし、セイツェマンはただ自分の前に迫る敵機に引き金を引くだけだった。


「セイツェマン!後ろから来てるぞ!」


 キース中尉の声にセイツェマンは急いで振り返った。そこには後ろから突っ込んでくる一つの機影があった。セイツェマンは銃座を動かし照準に捉えた。その敵機はすでに被弾しており、エンジンから黒煙を噴き出していた。


「差し違える気なのか」


 セイツェマンがいくら撃っても敵機はそれを回避しようとはせず、進路を変えずにこちらへと向かってきた。数発が翼に命中し火がついているが、それでも搭乗員は脱出せず突っ込んでくる。敵機が撃った弾が機体を掠める。


「まずいです!敵が突っ込んできます!」


 セイツェマンがそう叫ぶと、敵機は翼が折れてスピンしたまま落ちていった。


「敵機、落ちました」


「やったな!」


 アモスが叫ぶ声が聞こえるが、セイツェマンには聞こえなかった。敵機が近くまで来た時、照準器越しに見えた敵は女だった。その顔は怒り、恐怖、勇気などが入り混じっており、目ははっきりとセイツェマンを見ていた。セイツェマンはただ、女が脱出して助かっていることを願うだけだった。


 1時間ほどの戦闘が終わり、攻撃隊は少し数を減らした。敵艦隊までもうすぐだったため全機が攻撃態勢になり、大隊も各中隊ごとに密集陣形をとった。


「敵艦隊は雲の下だからまだ全容が掴めていない。各中隊は一番近い戦艦に突撃せよ。なるべく大きなやつだぞ」


 ジェルソン少佐が言うと、攻撃隊は雲の下にいると思われる敵艦隊へと突撃を開始した。雲の中でエネルギー装甲展開命令があり、セイツェマンは機銃から手を離した。


 雲を抜け曇天の下に出ると、そこには第七艦隊と同じ規模の航空艦隊が空一面に展開していた。雲を抜けた途端に敵の対空砲火が始まり、いくつかの艦艇からはミサイルも放たれていた。攻撃隊は爆煙とミサイルの嵐を抜けながら敵艦隊へと速度を上げる。


「第一中隊はあの中央にいる戦艦を狙うぞ。A-1爆弾の投下は1番機が行う。それ以外は絶対にエネルギー装甲を解除するな」


 ジェルソン少佐の言葉で第一中隊は敵艦隊の中を抜けていった。中央部へ向かう敵を阻止すべく対空砲火が一層激しくなり何本ものミサイルが飛んでくるが、エネルギー装甲のおかげで機体が揺れる程度だった。しかし、爆発音や跳弾の音は凄まじく、乗っている機体のエンジン音さえも聞こえなかった。


「キース!投下用意!A-1爆弾だ!」


 爆弾倉が開き、機体は戦艦に突っ込んだ。


「投下!」


 重い爆弾を落とした機体は速度を上げて爆風の圏外まで逃げた。セイツェマンは後ろへと遠ざかる敵戦艦を見ていた。

 カッと閃光が走ると戦艦の左舷で火球ができた。その火球は戦艦を呑み込み、上空へと昇っていく。目に見える衝撃波が円状に広がっていくのを見ていると、他の場所でも火球ができた。その衝撃波は曇り空を吹き飛ばし、戦場に日光を届けた。


「何かにつかまれー!」


 ジェルソン少佐の声と同時に機体は大きく揺れ、セイツェマンは後ろに叩きつけられた。狭い銃座だったから良かったものの、機内であれば今頃重傷だっただろう。


 煙がだんだんと晴れると、未だ戦艦が浮いていることがわかった。周囲にいた小型艦は煙を上げて落ちていたことで、爆発に動じない戦艦がより際立った。


「2発目いくぞ。次は2番機頼む」


 中隊は2番機を先頭とした編隊を組み、同じ戦艦へと突っ込んだ。戦艦の左舷側の被害はひどいらしく、先ほどまで激しかった対空砲火はほとんどなくなっていた。


 2発目の爆撃で戦艦の艦橋が吹き飛び、ゆっくりと頭を下げて落ち始めた。しかし喜びも束の間、他の戦艦が主砲を動かし始めた。砲口は微かに光り始めている。


「帝国艦隊に主砲を撃つつもりだ!3番機!A-1をあいつに落とせ!」


 素早く編隊を組み、第一中隊は砲口を光らせる戦艦に向かった。その戦艦の周りには小型艦艇が密集し、敵の侵入を許さない構えだった。エネルギー装甲にはいくつもの砲弾、ミサイルが直撃した。


「エネルギー残量が大幅に減っています!あと少しで帰還分のエネルギーも無くなります!」


 セイツェマンはメーターを見てジェルソン少佐に言った。


「これが最後の爆撃だ!投下後すぐに撤退するぞ!」


 すさまじい速度で敵戦艦に突っ込み、A-1を投下した。第一中隊は激しい砲撃の中を最高速度で抜け、艦隊の外縁部まできた。


「戦艦の様子はどうだ」


 ジェルソン少佐はそう言って敵戦艦を見た。砲口を光らせた戦艦は主砲を天に向けた。


 次の瞬間、砲塔近くで火球ができると船体が膨れ上がり大爆発を起こした。戦艦の破片は花火のように飛び散って周囲の艦艇に突き刺さり、二次被害を生んでいる。さらに爆発の衝撃で他の戦艦が押し流され、主砲から発射された光線は狙いから大きく外れて飛んでいった。


「全機、すぐに撤退だ。エネルギーが底を尽きないように気をつけろ」


 第29A特務大隊の撤退を皮切りに第一波攻撃隊は続々と帰投を始めた。戦場から離れると相変わらずの曇り空だったが、戦場の方を見ると雲間から差し込む光が燃え盛る艦隊を照らしていた。

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