遠ざかる最後
オトシュ王国王都同盟本部は帝国の新兵器投入を受けて混乱しており、同盟内はラース奪還派、帝都攻撃派、停戦派の三つに分かれていた。ラース奪還派を率いるのはミニーム共和国、帝都攻撃派を率いるのはエアード王国、停戦派はその他の小国だった。この三派閥に囲まれているだけでなく、帝国の新艦隊が迫る状況で盟主のオトシュ王国は決断に迫られていた。そこでオトシュ王国の実権を握る貴族、国王は戦争を主導しているシーヤを呼んだ。
シーヤが重厚な扉を開けると、両脇に並んだ貴族たちと奥の王座に座る国王が視線を向けた。
「ようやく来たか」
国王が言うとシーヤは跪いた。貴族たちは何も言わないが、シーヤに対して不満があることは一目で分かった。
「シーヤよ、面をあげよ。幾度とない危機を乗り越えたお前の手腕を評価して今日はここへ呼んだ。早速だが帝国が新兵器を使ったと聞いたがあれは本当なのか。そして、それはどれほどの脅威となるのか答えよ」
シーヤは少し汗をかきながら答えた。
「陛下から直々にお褒めの言葉を賜り関越至極にございます。敵は実際に新型の航空戦艦を導入いたしました。その新型航空戦艦は特殊砲を装備し、さらに艦隊の規模は同盟国が現在持つすべての艦船の半分程度だということです。もしその艦隊がオトシュ戦線に来れば1週間ほどで国境付近まで戦線は押し戻され、そこから数日で王都に到達するものと思われます。これは我が国の存亡に関わる脅威です。早急な対応が求められます」
国王は静かに話を聞くと、言った。
「帝国の新艦隊が我が国の脅威であると言うことは十分わかった。だが同盟国と協調できる可能性はどのくらいなのだ」
シーヤの汗は一層吹き出た。
「はい。そのことが大きな壁となっております。同盟内は分裂しており、オトシュ戦線に戦力を集中しようとしても他の同盟国が軍を動かさないと考えられます」
「うむ…そうか。なんとかしてこの国を守る術はないのか」
シーヤは少し考えて答えた。
「追加の戦力は得られませんが、現状帝国領内に展開している軍だけでもある程度時間を稼ぐことはできます。それまでになんとか…」
シーヤの声を遮るように貴族の1人が言った。
「シーヤ殿はいつもそう時間稼ぎをしては失敗しているではないですか!今度ばかりは許されませんぞ!」
それに同調して他の貴族も声を上げた。
「戦争だけをしているシーヤ殿にはわからないかもしれませんが、長期化した戦争で国内は混乱しております。これ以上の戦争継続は遅かれ早かれこの国を滅ぼすでしょう。国王陛下、帝国との講和を提案致します」
国王は言った。
「ここまで本格的に侵攻してしまったのだ。帝国が簡単に講和に応じるとは思えん」
それに対して貴族の1人が言った。
「恐れながら国王陛下、我が国は帝国に対して優勢なのです。きっと帝国は喜んで講和を受けいれるのではないでしょうか」
その言葉を聞いて、シーヤは言った。
「それは甘い考えです」
シーヤの反論に貴族たちは憤ったが、シーヤはそのまま主張した。
「帝国はそんなに甘くありません。自分たちの目的のためならどんな行為も厭わない、そんな人間を相手にしているのですよ。まして講和など、聞く耳を持つはずがありません」
シーヤの主張に貴族が言った。
「ですがそれ以外に策はないでしょう!シーヤ殿に何か妙案があるのですか!」
貴族たちの声が大きくなる中、シーヤは言った。
「今は何もありません。ですが私はたとえ死ぬ運命になったとしても帝国と戦い続けるつもりです。それだけこの国を愛しています。ですからどうか時間をください。必ずこの国を守る策を出してみせます」
国王は立ち上がって言った。
「よく言ったぞシーヤよ。お前に時間をやろう。だがこれで最後だ。もしお前が作戦に失敗すれば帝国に講和を提案する。皆、それでいいな?」
国王の言葉に異論のある者などいるはずなかった。シーヤは一礼して退室し同盟本部へと向かうと、本部にはすでに加盟国の代表が集まっていた。オトシュ王国の方針を聞くためだ。
「皆さんお待たせしました。オトシュ王国は帝都へ向けて進軍することに決めました。そして、帝都を奪取した後に帝国に対して講和を提案します」
小国の代表やベルドマンなどはほとんど予想していた通りの展開でさほど驚いていなかったが、ミニーム共和国の代表は反発した。
「帝都攻撃はオトシュ王国が自国のために行う作戦ですよね?我が国のようなオトシュ戦線の戦況が関係ない国も協力しなければならないのはおかしいんじゃないですか?」
それを聞いてベルドマンは怒った。
「何を言っているのだ!帝都攻撃は帝国の劣勢を確実にする重要な作戦ではないか!ラース地域に戦力を割くよりは100倍世界のためになるだろう!…それに、ラース地域に戦力が欲しいのはミニーム共和国がラースを手に入れようとしているからだろう?そんな利己的なことに割ける戦力はそもそも存在しない」
ミニーム共和国代表はベルドマンを睨んだ。それを見てシーヤが提案した。
「戦力を無理に出せとは言いません。どの国も国力を使い果たしているのは知っています。ですがこの作戦は戦争を終わらせるためには重要なものなのです。我々が団結した意味を思い出して、どうか力を貸してください」
すると、ミニーム共和国の代表が声を上げた。
「もうあなたたちには付き合ってられません!我が国ミニーム共和国は同盟から脱退します!」
そう言ってミニーム共和国の代表は席を立ち、出口へと向かった。驚いたことに、数カ国の代表がミニーム共和国の後に続いた。
ミニーム共和国が脱退した後、シーヤを中心に帝都攻撃への作戦会議が始まった。帝国第七艦隊が到達するまでのカウントダウンはすでに始まっていた。
国へ戻ったミニーム共和国の代表を、国民が盛大に出迎えた。ガイス大統領は演説でこう述べた。
「我々はついに!誰にも縛られない完全に独立した国として歩み出しました!ですが我々の戦いはこれからです!より一層国の発展のために力を貸してください!」
大統領は歓声を受けながら演説を終えると、オトシュ王国へ派遣していた代表に会った。
「よくやった。君の名は後世に語り継がれるだろう」
「ありがとうございます。それはそうと大統領、オトシュ王国からお客を連れてきました」
「そうか。ぜひ会わせてくれ」
部屋の扉が開き、アベルノ公爵と数人の男が入ってきた。
「これはこれは!アベルノ公爵殿ではないですか!お連れの方々は?」
「彼らはオトシュ王国から来た使者だ。まあ、公式の使者ではないがな」
アベルノ公爵の紹介があり、その使者は話し出した。
「ガイス大統領、お会いできて光栄です。今日はお願いがあって訪問させていただきました」
ガイス大統領は側にいたスウィンターにお茶を準備するように言って退出させると、その使者と話した。
オトシュ王国王都では着実に帝都攻撃作戦の準備が進んでいた。続々と入ってくる情報によると第七艦隊が前線に到達するまではまだ猶予があるようだった。
「シーヤ!あるだけの特殊砲を運び終えたぞ!」
ベルドマンがシーヤに言った。
「ありがとうございます。列車や航空戦艦の数は揃いましたので、後はそれらを前線に送るだけですね」
シーヤの立てた作戦はこうだ。製造済みの特殊砲を現状ある航空戦艦全てに搭載し、さらに列車を使って前線まで運ぶ。そして空と地上の両方から特殊砲を発射することで前線を突破した後は、エネルギーを充填しつつ帝都まで進軍し、特殊砲によって帝都を灰にする。帝国の航空艦隊は特殊砲を前に何もできないでおり、同盟国艦隊全てが特殊砲を搭載できれば誰にも邪魔されることはないはずだ。
すると将校の1人がシーヤを呼んだ。
「少し待っててください、すぐに行きます」
おそらく作戦の進捗状況を報告しに来たのだろう。シーヤは読んでいた書類をまとめると声のした方向へと向かった。しかし、誰もいなかった。
「誰か私を呼びましたか?」
呼びかけるが返事はない。気のせいかと思って書類を読む作業に戻ろうとした時、物陰から人が飛び出し、銃声が鳴り響いた。
シーヤにはオトシュ王国の制服を着た将校が自分に向かって銃口を向けているのが見えた。銃口からは煙が出ていた。走り去る将校を呼び止めようとしたが、体に走る痛みで声が出ずその場に倒れ込んだ。銃声を聞きつけたベルドマンらが駆けつけ、シーヤは救護室へと連れて行かれた。応急処置を受けながら、シーヤの意識は段々と薄れていった。




