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惑星記  作者: フランクなカイザーフランク
第三章 対帝国秘密同盟
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撤退

 セイツェマンらは帝国軍第六航空艦隊に合流した。久しぶりの艦隊は数を減らし、応急修理の箇所がいくつも見られ、これまでの激戦を物語っていた。母艦に降りてみても兵士たちには疲労がみられ、以前のような明るさは無くなっていた。

 セイツェマンらはシクス将軍に呼ばれ、着くなり艦橋へと向かった。艦橋に入るとシクス将軍が笑顔で出迎えた。


「よく生きて戻ってきた。君たちがいなくてこっちは大変だったんだぞ」


 ジェルソン少佐に合わせて全員が敬礼した。


「第29A特務大隊一番機、全員帰還いたしました」


「本当にご苦労だった」


 ジェルソン少佐が聞いた。


「恐れ入りますが将軍様、こちらの戦況はどうなっているのですか?」


「君たちが捕虜になった戦闘で撤退してから今日まで撤退続きだ。物資も兵士も限界が近づいている。この戦線が維持できなくなったら、いよいよ本土で戦うことになるだろう」


 劣勢だとは聞いていたものの、ここまで酷いとは思わず驚いた。帝国の誇る六大艦隊がここまで押されているのは初めてのことだ。

 セイツェマンと同じように皆が動揺している中、シクス将軍が言った。


「これからの戦闘での君たちの任務は敵航空戦艦の撃沈だ。そこでどの作戦であってもA-1爆弾を載せて戦ってもらう。ここまできて出し惜しみはできないからな。だから次は落とされないように任務を遂行してくれよ?」


 シクス将軍は笑って「冗談だ」と言いながら仕事へと戻り、セイツェマンらも自分達の格納庫へと向かった。


 しばらくした後、航空隊に出撃準備命令が出た。ジェルソン少佐は大隊全員を集めた。


「まずは、私の不在で皆に迷惑をかけただろう。本当にすまなかった。この隊にはこれまでとても助けられてきた。今回の作戦も力を存分に発揮してほしい。では作戦内容を説明する。我々の攻撃目標は敵の主力艦だ。これには痛い目に遭わされてきたが、新型機が導入された今の我々にとっては敵ではないだろう。このあと30分後には我々を含めた攻撃隊が出撃する。その後、作戦開始時刻の5分前になると母艦からミサイルが発射され、それに続いて爆撃という流れだ。他の爆撃隊が主力艦の周りにいる敵を蹴散らした後に我々が突撃する手筈になっている。何か質問のある者はいるか?」


 誰からも質問はなく、静かな空気が流れた。


「ああ、大事なことを伝え忘れていた。今回の作戦では全機がA-1爆弾を搭載することになった。味方を巻き込まないために投下は私が命令する。いいな」


 大隊はざわめいた。しかしジェルソン少佐はお構いなしに話し続けた。


「もう質問はないな。エアード王国軍の戦闘機隊は手強いぞ。皆、油断しないように。では各自出撃準備」


 それぞれの格納庫に戻り、セイツェマンも格納庫に戻った。久しぶりの戦闘だったがこの時はあまり実感がなく、初めて戦闘に参加した時のことが思い出された。


 数分後、攻撃隊の準備が整い、艦内放送が流れた。


「たった今、攻撃隊の出撃準備が完了したと報告があった。私はシクスだ。作戦開始前にあたって、久しぶりに激励の言葉を送ろうと思う」


 艦内にいる全員が黙って放送に耳を傾け、機械の振動音だけが静寂を断ち切っていた。


「これまで我々は多くの仲間を失ってきた。この戦いでも全員が生き残ることはできないだろう。だが、我々は戦わなければならない。ここで負ければ帝国本土への侵攻を許すことになり、国民を危険に晒すことになる。必ず勝て。私は全身全霊でこの戦いに臨む。諸君らもこれまで培ってきた力を全て出して勝利に貢献してほしい。幸運を祈る。それでは、攻撃隊発進せよ!」


 エンジンは出力を上げ、振動が体に伝わる。攻撃隊が順番に射出され、セイツェマンの乗る機も射出された。外に出ると日差しで一瞬目が眩んだ。空に飛び出した攻撃隊は飛びながら隊列を組み、空中に精巧な図形を作った。空中の黒点は隊列を保ちながら雲間を抜けて、敵艦隊への進路をとった。


 数分後、キースがジェルソン少佐に言った。


「敵編隊と思われるものがレーダーに映りました」


「ああ、母艦からも今連絡が入った。機銃手!いつでも撃てるようにしておけ!」


 セイツェマンは引き金に指をかけてその時を待った。近くにいた直掩機が配置を変えて迎撃の準備を整えていく。


「敵機を目視で確認!10時方向から突っ込んでくる!」


 他の機からの情報が無線を通して入ってくる。セイツェマンが身構えると、爆音を伴って敵の戦闘機が編隊の間をすり抜けていった。それを照準に捉えて引き金を引く。他の友軍機も敵機に向かって射撃しているが、エアード王国の紋章をつけた戦闘機は被弾していないようだ。


 引き金を引き続け、銃身が赤くなった頃に狙っていた敵機は煙を上げて落ちていった。セイツェマンは弾倉を交換し、次の敵機に銃口を向ける。日光が肌を刺し、汗が頬を流れていく。


「味方艦隊から対艦ミサイルが発射されました。距離的にもう間も無く敵艦隊です」


 ヴェルン大尉がジェルソン少佐に報告した。


「第29A特務大隊全機に告ぐ。射撃中止。エネルギー装甲を全面展開し、密集隊形をとれ」


 セイツェマンは引き金から指を離した。その途端敵の戦闘機は機関銃を撃ったが、それらは全てエネルギー装甲に弾かれた。敵機の銃口が光った時セイツェマンは何もできずただ体が固まった。しかしそれが弾かれたとわかると一気に腰が抜けてしまった。久しぶりの戦闘ということもあったが、初めて死を予感したことで心の中には少しの恐怖が生まれていた。


 各機が隊形を変えて距離を詰めた。その時も敵機はピッタリとくっついて銃弾を浴びせてきたが、友軍の直掩機が来ると二機はそのまま格闘戦を始めた。互いに己の技術を総動員して機体を操るその様子は、殺し合いそのものであったが、生命の輝きすら感じさせるほど美しかった。


 セイツェマンが見入っていると上空を何本もの白い筋が通っていった。それは味方艦隊から発射されたミサイルだった。


「見えたぞ!敵艦隊だ!」


 アモスが叫んだ。無線からは最初の爆撃隊の突撃が始まったことがわかる。近づくにつれてだんだんと対空砲火が激しくなり、近くで炸裂する度に機体を揺らした。


「全機に告ぐ、最初は徹甲爆弾を使用せよ。間違ってもA-1を使うなよ」


 ジェルソン少佐が無線で告げた。機体は速度を上げて爆撃態勢に移行する。


「キース、爆撃準備だ。さっきも言ったように徹甲爆弾を使ってくれ」


 先に突撃した部隊は数隻に爆撃を成功させていたが、敵戦闘機の迎撃や対空砲火が激しくほとんどが火だるまになって落ちていった。落ちていく火球の横を通りながら特務大隊は目標の戦艦へと狙いを定めた。


「ここまで進めたのは味方のおかげだ!絶対に失敗するなよ!」


 ジェルソン少佐は無線で隊に呼びかけ、戦艦への突撃を開始した。爆弾倉が開かれ、爆撃は最後の段階に入る。


「投下!」


 合図によって機体から離れた爆弾は一直線に敵艦へと向かった。後続の友軍機も投下し、機首を上げて離脱していく。しかし、命中した爆弾は爆発を起こしたがそこまで被害は大きくないようだった。


「続けていくぞ。全機集合せよ」


 その後も二度、三度と爆撃を敢行したが結果は変わらず、敵艦は依然として戦闘能力を失っていなかった。そればかりか敵艦隊は密集しはじめ他の隊では損害が大きくなっていた。


「ジェルソン、A-1を使うか?」


 ヴェルン大尉が聞いた。


「そうしよう。ーーこちら第29A特務大隊のジェルソン少佐。A-1爆弾の使用許可を求むーー」


 すぐに司令部から返事があった。


「シクスだ。A-1の使用を許可する。特務大隊以外の全攻撃部隊は速やかに当該空域から退避せよ」


 すると、それまで攻撃を行なっていた友軍は次々と敵艦隊から離れた。敵は突然の撤退に混乱しているらしく、追うべきか否か迷っているようだった。


「第29A特務大隊の第一中隊は私に続いてA-1爆弾を敵戦艦に投下せよ。第二から第四中隊は待機し、万が一仕留め損なったらA-1を投下してくれ」


 ジェルソン少佐の指示で他の中隊も離れることになった。敵艦隊に一つ取り残された第一中隊は敵の対空砲や戦闘機からの攻撃を一身に受けることになり、あらゆる方向から攻撃に晒された。装甲が使用され、エンジンも最大出力で稼働していたことでエネルギー残量は40%ほどになっていた。


「全機の退避が完了!」


 ヴェルン大尉が言った。


「第一中隊突撃!目標はあの戦艦だ!」


 ジェルソン少佐の合図で突撃が開始された。対空砲火の爆風で機体は揺れ、爆煙に包まれながら一直線に敵戦艦へと突っ込んでいく。敵も何かを悟ったのか、一心不乱に大砲を撃ち込んでくる。しかし改修されたエネルギー装甲の前にはどの砲弾も意味をなさなかった。


「爆弾倉開け!」


 A-1爆弾が外の空気にさらされる。


「投下!」


 切り離された爆弾を目で追う暇もなく機体は速度を上げ、急旋回した。


「第一中隊急いで離脱せよ!」


 操縦桿を必死に動かしながらジェルソン少佐は叫んだ。


 次の瞬間、視界は真っ白い光に覆われた。見覚えのあるその景色は何度目かの大量殺戮の場面だった。中心が赤く光った雲はその熱と共にだんだんと上空へ上がっていく。いつもと変わらない光景だったが、一つだけ違うことがあった。


 敵戦艦は浮いていた。


 ジェルソン少佐は急いで他の中隊に連絡しようとした。しかし、それよりも早くキースが言った。


「レーダーに新たな敵艦隊と思われる影を発見しました!」


 ジェルソン少佐が確認すると、レーダー上の大きな影がこちらに向かって近づいてきていた。


「新手か」


 セイツェマンも声を上げた。


「エネルギーの残りが35%です!」


 ジェルソン少佐は少し考えて言った。


「我々だけでは無理だ。一度帰還するぞ」


 司令部からも撤退命令が出たことで攻撃隊は全機帰還することになった。機内には明るくない空気が流れていたが、誰も話すことはなかった。


 攻撃隊の帰還後、新たな艦隊の存在を聞いたシクス将軍は旧ラース共和国と帝国の国境線まで撤退することを決定した。それにより旧ラース共和国とも国境を接していたミニーム共和国からの補給路が確立することになり、ラース戦線の悪化が確実となった。オトシュ戦線でも苦戦を強いられていることを鑑みて、帝国の司令本部は次なる作戦を始動しようとしていた。


 シグマ帝国は、侵略戦争以来の本土での戦いに臨もうとしていた。

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