新たなる敵
ガイス大統領によってミニーム共和国は国民を総動員して戦争をするための基盤を整えた。英雄を作り上げることで国民を奮い立たせ、そして国家の名の下に一つにまとめ上げた。若い男のほとんどは軍に志願し、その他の国民も戦争継続のために国営の工場などで働いた。毎日徹底的な健康管理を行うことで衰えることのない生産力を確保し、今や兵器の生産量は同盟内でもオトシュ王国、エアード王国に次ぐほどとなった。その結果、ガイス大統領は国民から圧倒的な支持を受け、確固たる地位を築いたのだった。
アベルノ公爵、スウィンターがミニーム共和国首都に着くと、そのままガイス大統領を訪問した。途中通った街では統一された服を着た市民が歩き、工場などへ入っていく。かつては賑わっていたのであろう商店街も閑散としていて、一部の食料品店などが開いているのみである。街の中央にある大統領府に入ると、2人をガイス大統領が出迎えた。
「アベルノ公爵殿、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
大統領に通された部屋は絵画や彫刻品が飾られ、貴族の屋敷を思わせた。3人は椅子に腰掛け、ガイス大統領が話し出した。
「突然のお願いでしたが来ていただいて大変感謝しております。どこまで話は聞いていますか?」
「ほとんど何も聞いてない。ミニーム共和国の国力を見てほしいとしか」
「なるほど。では、新しい戦力についても聞いていないのですね」
「そんなもの知らないぞ」
「では、簡単にお話ししましょう。スウィンター、あれを持ってきてくれるか」
ガイス大統領の指示に従ってスウィンターは別の部屋から書類を持ってきた。ガイス大統領はその書類を受け取ると話し始めた。
「つい先日、我々ミニーム共和国はスウィンターの出身地である北の国『ヘキシン』と協力関係を築きました。主に技術的な面での協力です」
「ヘキシンというと地理上の問題で文明化があまり進んでいなかった国じゃないか?どうして今さら協力するんだ。まして技術面などで」
不思議がるアベルノ公爵にガイス大統領は明るい顔をしながら言った。
「アベルノ公爵殿は“惑星記”というものをご存知ですか?」
アベルノ公爵の顔の色が変わり、ガイス大統領は話し続けた。
「まだどこにも漏れてない情報なんですが、ヘキシンで新たな惑星記が発見されたんですよ。そこには全く新しい技術が記載されていました」
「その技術目当てにヘキシンと協力しているということか」
「はい。その通りです」
「その全く新しい技術とは一体何だったんだ?」
「それを今回見ていただこうと思い、お呼び致しました。こちらが今回行く場所の項目です」
ガイス大統領は書類をアベルノ公爵に渡した。紙をめくりながらアベルノ公爵が言った。
「肝心な新技術は最後に行くのか」
「はい、メインディッシュは遅いほど美味しさが増しますから」
ガイス大統領は自信に満ちた足取りでアベルノ公爵、スウィンターを車に乗せた。
「それではまずは国営工場からですね」
車を走らせて数分後、第一の目的地に着いた。そこでは戦車が組み立てられているようだった。機械音が響くため、ガイス大統領は声を張って言った。
「ここは戦車工場です。各地で製造した部品をここに集めて組み立てています」
「どれくらい作ってるんだ?」
「ここは1ヶ月で200両ほど生産しています」
「この国は戦車を消耗しているわけではないんだろう?そんなに作っても余らせるだけじゃないのか?」
「いざという時のために備えてるんですよ」
「そういうものか?」
ガイス大統領は機械音で聞こえなかったのか、話題を変えた。
「話は変わりますが、どの工場も働いているのは女性が多いんです」
「そう言われてみればそうだな」
「夫や恋人が兵隊に入った彼女らが働いてくれているおかげで工場は成り立ってるんです」
「なるほど」
「では次に行きましょうか」
その後も3人は様々な工場や農場を巡り、この国がいかに戦争に対して力をいれているのかを見て回った。それらはどれも小国にしては過剰すぎる規模で、アベルノ公爵は疑問に思っていた。
そして最後の目的地に着いた。そこはこれまでの工場とは違い人気の少ない郊外にあり、外観も工場らしくなかった。車を降りるとアベルノ公爵が聞いた。
「ここはなんなんだ?」
「ここがヘキシンからの技術提供によって作られた工場です。ここから先で見るものは他で言わないでくださいよ」
『関係者以外立ち入り禁止』と大きく書かれた鉄のドアを開けると、中は湿度が高く薄暗かった。施設を歩いていると、時々全身を白い服で包んだ作業員にすれ違うが、彼らに活気はなかった。
「着きました」
ガイス大統領が足を止めて2人の方に振り向いた。アベルノ公爵の前には、人間が入り液体で満たされたガラス容器があった。アベルノ公爵は開いた口が塞がらなかった。
「…これは?」
「ヘキシンの技術で作られた複製人間です。現実にいる人間を複製して作った、いわば人造人間なんです」
アベルノ公爵はただ黙るしかなかった。目の前にいる生きているのかすらわからない人間が複製されたものだとは信じ難かった。その様子を見てガイス大統領は何かを探し、あるガラス容器の前で立ち止まった。
「これを見ていただければ信じられると思います」
そう言ってガイス大統領が指差した先にあったガラス容器には、ガイス大統領と同じ顔を持った人間が入っていた。
「これはすごい…」
「ミニーム共和国では、これを量産して兵士にしようと考えています」
アベルノ公爵はガラス容器に釘付けにされながら答えた。
「ああ、これさえあれば帝国に勝つどころか世界を掌握できるかもしれん。この人間はどうやって作ってるんだ?」
「複製人間は元となる人間の髪の毛や血液を使って作ります。ここに来る途中で、健康管理のために国民の毛髪や血液の採取を義務付けていると申し上げましたよね?あれは健康管理も一つの理由ですが、最も大きな理由はこれなんですよ」
アベルノ公爵は息を呑んだ。
「どうして私にこれを見せた?」
ガイス大統領は微笑んで答えた。
「アベルノ公爵殿は良い指導者だとお聞きしました。このような最高の兵器があっても我々だけでは帝国に太刀打ちできません。なのでアベルノ公爵殿のお力を貸していただければと」
「聞いていた帝国に対抗する新たな共同体を作る時の代表になってほしいということだな?」
「代表になっていただかずとも、協力者を集めていただきたいんです」
アベルノ公爵は少し考えた後、大統領の提案を承諾した。少し歩いて見て回った後、アベルノ公爵は大統領に聞いた。
「いつ共同体を作るつもりなんだ?」
「まだ複製人間は数が少ないので、数が揃うまでは何もできません。順調に進めば半年後には帝国と正面から戦える戦力が用意できると思います」
「それまでは私が根回ししておけば良いのだな」
「よろしくお願いします」
「わかった。ところで、あれだけ余らせていた兵器はこの人間に使わせるつもりなのか?」
「元からそのつもりです」
「さすがは名君と言われるだけはあるな」
「いえいえ、アベルノ公爵殿には及びませんよ」
男の笑い声が施設に響いた。
数日後、オトシュ王国王都には新たな情報が入ってきていた。シーヤは各国代表を集めて会議を開いた。
「帝国の第六航空艦隊はラース共和国の旧首都付近で止まったようです。おそらくここが次の決戦場になるでしょう」
「皆心配せず我々エアード王国軍に任せてくれ。ここまでは連戦連勝。しかも慎重に進軍してきたおかげで余裕もある。一方で帝国は連戦で満身創痍だ。ここで負けるわけがない。勝った時には久しぶりに宴会でも開こうじゃないか」
徐々にではあったが帝国を追い詰め始めていたことで、会議の雰囲気はいくらか緩いものになっていた。しかし戦争を通して同盟内での力関係は変化し、初期は発言力を持っていたオトシュ王国やエアード王国の国力は戦争の長期化により衰え始め、ミニーム共和国など兵器の生産や輸出で国力をつけた小国が発言力を持つようになっていた。今は帝国を共通の敵とすることで結束している同盟であったが、内部には時限爆弾を持った不安定な同盟であった。




